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裏路地占い師の探し物 ~勇者様のせいで占い師を続けられなかったんだ。~  作者: 61
第9章 ドラゴンの里は隠されていたんだ。
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閲覧禁止

第9章:ドラゴンの里は隠されていたんだ。

--閲覧禁止--


あらすじ:古ぼけた茶色い本には閲覧禁止と書かれていた。

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古ぼけた茶色い1冊の記憶の本。『失せ物問い』の妖精が見つけてくれたこの本にはジルを木の枝に変えた『木になる指輪』の作り方が書かれているはずだけど、その表紙に刻まれた『閲覧禁止』の大きな文字にボクは目の前が真っ暗になって膝を突きそうになる。


きっとプロテクトがかかっている。


物の作り方は秘密にされていることが多い。


ナイフや剣の作り方だって材料を混ぜる割合や、槌の叩き方なんかは秘密にされている。『ギフト』の補助で作られている部分も多いけど、秘密になっている部分もある。中には、火傷を負ってまで焼き入れの水の温度を盗もうとした昔ばなしだってあるんだ。


魔法の道具の作り方なんて誰にも教えたく無いよね。


神様がかけたプロテクトは魔法を自在に操るドラゴンのソンドシタ様でも解けなかった。つまり、神様かヤイヤさんの許可があって初めて『木になる指輪』の作り方を知ることができる。


そしてボクは今、あまりヤイヤさんからいい印象を受けていないよね。さっきまで表情を翳らせていて機嫌を損ねているんだ。


寂しさにソンドシタ様を脅して約束させたヤイヤさん。ボクは世界の果ての図書館に残ってヤイヤさんの手伝いを断って、ジルを人間に選ぶ道を選んだ。お願いを断ったボクにヤイヤさんが秘密を教えてくれる訳が無いよね。


「ふむ。姉上の本のプロテクトより複雑だな。」


目の前が真っ暗になって見えていなかったけれど、気になる指輪が書かれた本にも黒いモヤがかかっていた。ソンドシタ様がプロテクトを解こうとしていたみたいだ。


「無理をしないでよ。本が壊れたら私の責任になっちゃうんだから。」


赤い本にまとわりつく黒いモヤを白い指で追い払って銀色の眼鏡の奥の水色の瞳が吊り上がる。ヤイヤさんに責任を問う存在はもちろん神様だよね。これも神罰になるのかな。


「そう簡単には壊れまい。」


「貴方のバカげた魔力だと判らないわ。」


プロテクトにもいくつかの種類があって、本人が隠そうと思った物、技術的な物、あまり世に出回ってもらっては困る品物。そういう物に応じて複雑なプロテクトが掛けられているらしい。


管理人のヤイヤさんはほとんどのプロテクトを解いて閲覧する事ができるけれど、プロテクトの中には神様が直々に禁止するほどの物もあるそうだ。


神様が禁止するような本は封印されている上に鎖でつながれて魔法的にも物理的にも持ち出す事すらできないけれど、『木になる指輪』について書かれた本には大きな赤い文字で閲覧禁止と書かれただけなので、ヤイヤさんにも見る事ができる。


「つまり、姉上の弱点になりそうな記憶を探すなら、閲覧禁止と書かれた部分を探せば良いのだな。」


「もう!いい加減に諦めなさいよ。」


かなりヤイヤさんにやり込められたと思っていたのに、ソンドシタ様はまだネマル様の弱点を探す事を諦めていないみたいだ。


「それで、肝心の『木になる指輪』の作り方は見せてもらえるのか?」


素知らぬ顔で続けるソンドシタ様から険が外れて真面目な顔に戻っている。さっきまでのボクを裏切り者と見るような視線は消えていた。


「そうね。考えてあげても良いわよ。ソンドシタ様がここにいらっしゃる回数を増やして下されば。」


「無理だ!これ以上は約束できん。」


「仕方ないわね。ツケてあげても良いわよ。」


約束はできないと言いつつも、優しいソンドシタ様はここに来る回数を増やそうと思っているのかもしれない。本当に無理なら、無理って言うよね。ヤイヤさんもそう感じたのか、断られたのに嬉しそうに笑っている。


「なら、さっさと見せてくれ。ワレはコイツとの約束を守らねばならぬ。」


「でも、ボクはソンドシタ様との約束を守れなかったんだよ。」


ソンドシタ様にお願いされて世界の果てまで来たけれど、結局、ボクはソンドシタ様の望むようにネマル様の弱点を見つけてあげられなかった。だからソンドシタ様に迷惑はかけられない。


「なにを言っておる。正当な報酬だ。ワレは記憶の本を探すのを手伝ってくれとは言ったが、弱点を探して欲しいと言った覚えはない。オマエは膨大な本の中から目的の本を探してくれた。その先のプロテクトを解けなかったのはワレの責任だ。」


「それじゃあ見てみましょうか。ソンドシタ様のツケで。」


ツケの部分を強調するヤイヤさんにもボクはそれにも待って欲しいと声をかける。


「でも、ボクはヤイヤさんといっしょに居られないよ。」


ソンドシタ様の厚意は嬉しいけれど、ヤイヤさんだって『木になる指輪』の記憶と引き換えにボクを図書館に留めようとしていたはずだ。後から拘束されても困る。


「あら、そんな事を気にしていたの?命の短い人間をこんなつまらない場所に拘束するわけないじゃない。」


人間は寿命が短いし、そもそも簡単に世界の果てまで来る事も帰る事もできない。帰るだけでもドラゴンか、それに匹敵するくらいの力が無ければならないよね。それに比べてソンドシタ様は自力で往復することができるし、長い時間をヤイヤさんといっしょに過ごす事ができる。


ヤイヤさんにはボクなんて必要なかったんだ。


「それに、さっきの実験で分かったことがあるわ。」


そう言うと、ヤイヤさんは「ソンドシタ様の産まれた時の本はどこにあるの?」とボクに、いや『失せ物問い』の妖精に問いかけた。1冊の緑の文字の書かれた黒い本がヤイヤさんの手に現れる。


「?」


『木になる指輪』の作り方が書かれた茶色い本と同じように、ヤイヤさんの手に黒い本が現れただけだ。どこにも変わった様子はなくて、ソンドシタ様を始めとしてここにいる全員が疑問符を浮かべる。


「わからない?私は本を差し押さえる事ができるの。」


ジルの問いかけでネマル様の本を探していた時は、ボクの手元に本を出す事ができた。それが、ヤイヤさんの時には彼女の手元に本が収まっている。いや、最初にソンドシタ様の本を出した時には黒い本がボクの手元に出てきたよね。


「少なくとも記憶の本を扱う場合は貴方の『失せ物問い』よりも私の権限の方が上なのよ。」


記憶の図書館を利用している時、本はボクに貸し出しされている。だけど、神様が禁止している鎖のかかった書を引きよせようとしたなら?そして、図書館の管理人であるヤイヤさんが貸し出しの途中で禁止したなら、貸し出される本は差し押さえられてヤイヤさんの手元で止まる。


これを利用すればボクが遠くにいても、ヤイヤさんは目的の本を手に入れる事ができるんだ。


「だから、貴方と連絡さえ取れれば良いのよ。」


ボクが表情の翳ったヤイヤさんが不機嫌になったと思い込んでいた間に、彼女はボクを図書館に引き留めなくても済むような方法を考えてくれていた。


ボクの腕輪の緑色の魔晶石の隣に、水色の魔晶石を加えるとヤイヤさんは柔らかく微笑んだんだ。



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次回:ヤイヤさんの『水色の魔晶石』



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