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裏路地占い師の探し物 ~勇者様のせいで占い師を続けられなかったんだ。~  作者: 61
第1章:占い師を辞めなくちゃならなかったんだ。
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賞金

--賞金--


あらすじ:ジルの名演技で子爵家から逃げ出すことができた。

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アパートの自分の部屋に近づくと中から物音が聞こえたので入ることが出来なかった。今のタイミングなら子爵様の追手が居るのかも知れない。自分の部屋に誰かが居るのは怖かったが、だからと言って確認したいとも思わない。見付かったら捕まるに決まっている。


ともかく身を隠して知っている人にジルを拾ってきてもらわなければならない。


ジルとの話で浮かび上がった頼れる人も、冒険者ギルド長のマッテーナさんくらいしか居ない。コレクダさんを通して子爵様への仕事の仲介をしてくれたのも彼女だし他の人よりは巻き込みやすい。コレクダさんを頼ると子爵様に負けそうな気がしてるんだよね。


だから、朝一番で冒険者ギルドに行けるように、ギルドの裏手に積み上げられている木箱の間に隠れて少し眠った。ジルの事は心配だけど、子爵様との面会から緊張の連続でクタクタだったので、地面に腰を下ろすとすぐに眠りについてしまった。


「おお!賞金首ハッケーン!捕まえた!!」


寝ぼけ(まなこ)をこすると、嬉しそうなソーデスカに右手を押さえられていた。


「ん、おはよう。」


「気が抜けすぎてるよ。ヒョーリ。キミには金貨2枚の賞金が懸けられているのよ。」


「なんで?」


「子爵んトコで何かあったの?」


そう言われてやっと昨日の事件を思い出した。完全に寝ぼけていた。


「あ、ジルを…。」


「ジル?まぁいいや、とりあえず中に入りな。子爵の仕事を振ったのはウチだからね。子爵だけの言い分で引き渡したりはしないよ。」


そう言えば、ジルを誰かに紹介したことなんて無かったっけ。誤魔化すように話を変える。


「あ、そっか。賞金が懸けられているんだっけ。」


「おいおい、まだ寝ぼけてるの?早朝とは言えもう日が昇っているのよ。」


辺りを見回すとまだ薄暗く、まばらにしか人が出てきていない。これから朝食の準備のために井戸に水を汲みに行くのだろう。


「ソーデスカ、お願いだ。ジル…ボクがいつも持っている棒を拾って来てくれないか?子爵様の家の門の前、左の角の方に転がっているはずだ。」


「キミがいつも杖にしている汚い棒の事?なんだってあんな物を?」


「相棒なんだ。昨日逃げる時に手放してしまって。ボクはココから逃げないから、アイツだけは拾ってやらなきゃならないんだ。お願いだよ。」


子爵家から逃げ出せたのは全部ジルのお陰だ。逃げる場所を探すことを提案してくれたのも、逃げる時に周囲を警戒してくれたのも、最後に(おとり)になって騒いでくれたのも…だから、ジルだけは救い出さなければならない。


ボクはしっかりとソーデスカの目を見る。


「ふぅん、大切な物なんだね。まぁ、一応は賞金首なんだから、逃げないようにだけはさせてもらうよ。」


そう言うと、ソーデスカは冒険者ギルドの地下にある牢屋にボクを閉じ込めた。ギルドの荒くれ者を閉じ込める石牢は冷たく薄暗かったけど、ジルの事をお願い出来て安心したボクは再び眠ってしまった。



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「それで、何が有ったの?ヒョーリ。」


あれから数時間が経って牢屋から出されたボクは、マッテーナさんの前に連れてこられた。


「あの、えっと…ジルは?」


「飽きれた。この()(およ)んでまだ汚い棒の心配をするのね。アナタの方が問題なのよ。」


(まったくだ、オレは隣の部屋にいるぜ。簡単には拾われたりしねーんだから、安心しろよ。)


姿は見えないけど、ジルの声が聞こえる。『小さな内緒話』は便利なんだなとつくづく思う。


(ゴミ箱に行かなくて良かったよ。)


(あ、そう言えばそれが有ったか。まぁ、スライムにどうこうされる程度じゃ問題ないから心配するなよ。)


以前はスライムに(おび)えていた気がしたけど、マッテーナさんの前でそれについて話している暇はない。ジルが戻ってきた事が確認できたのなら、次はジルと一緒に街を歩けるようにボクの身を助けなければならない。


「ありがとう。」


ジルの声を聴いて気が抜けたので、マッテーナさんに礼を言った。


「モノも見ないであっさりと言うのね。」


そうか、声が聞こえたから安心してしまったけど、他の人からはジルを確認していないように見えるのか。


「大事なのは捨てられない事だからね。もし、ボクを子爵様に突き出す事になったら。どこか、そうだね食堂が良いかな、見えない場所で良いから置いておいてあげて欲しい。」


その方がジルには食堂の喧騒(けんそう)がいつも聞こえるので独りぼっちになるよりは良いだろう。話し好きのジルの事だ。そのうち食堂で働くハイデスネでも捕まえれば楽しくおしゃべりができるだろう。


「変な要求だな。それよりも、キミに子爵への仕事を振ったのはウチのギルド、それも私が直接関与して依頼を出している。だからキミが子爵家で変な事をしていたのなら私の評価も下がることになる。」


「でも…。」


言い訳をするように事件のあらましを告げようとすると、マッテーナさんに止められた。


「いいから聞け。逆に言えば、子爵の言い分がキミへの言いがかりなら、それは私への言いがかりとなる。だから真実はハッキリさせておきたい。キミが良い人間だという事は知っているから子爵の館での仕事を回したし、キミがここに逃げてきたという事は悪いことはしていないと思っての事でしょう?それを踏まえて、隠さずに話をしてちょうだい。」


マッテーナさんの言葉に涙が出そうなほど感激して、ジルの話だけ飛ばして洗いざらい話した。もちろん、例の宝箱とネックレスも見せた。


「ふん。やっぱりそんな所ね。あの子爵の変な噂は聞いていたから、おかしいとは思っていたのよ。」


宝箱をいじりながらマッテーナさんが昨日の出来事を教えてくれた。昨日の夕方には冒険者ギルドに衛兵がやってきて、早々(はやばや)とボクに賞金を懸けに来たらしい。


「どうにかならないですか?」


賞金がかかったままだとボクは街に出ていけない。仲介をしているのが冒険者ギルドなんだから、ギルドがボクの手配書を貼らなければ、ボクに賞金が懸けられているなんて誰も思わないかもしれない。


「私のと言うか、冒険者ギルドの力では無理だね。単純に貴族より大きな権力を持っていない。」


「そ、そんな…。」


「冒険、遺跡の探索やモンスターを狩ることは得意だけど、権謀術数(けんぼうじゅっすう)が得意な貴族の間に割って入れるような力も無いし、純粋な戦いとなると兵士の方が強い。だから、ギルドで保護してあげる事はできない。」


冒険者の中には貴族の人も居たりするけど、少数の奇特な人間なので根回しや人付き合いが苦手だったりするらしい。だから、貴族の冒険者の伝手(つて)は期待できない。そして、戦闘に強い冒険者と言うのは意外に少ない。


魔王が大暴れしているので人間同士の戦闘は少なく、もっぱら魔獣からの防衛戦となるので、村を襲われて行き場が無い人が冒険者に志願する事が多い。


それに元から戦闘に強い『ギフト』を持つような人は兵士になることが多いのだそうだ。冒険者として不安定な生活をするなら、兵士になって給金を貰った方が楽だからね。


独力で迷宮を踏破できるほどの『ギフト』を持つ冒険者は少なくて、街のならず者や再起をかけての一発逆転なんて人が冒険者になって、暴力集団のイメージが強くなってしまっているのが現状だとマッテーナさんはボヤいていた。


手配書を貼らないという手も、後々の冒険者ギルドの在り方を考えると使えない。指名手配犯を意図的に隠した事実を王宮に知られると、次も疑われるかも知れないそうだ。


「という事でね、ギルドではオマエを守り切る事ができないので、私の伝手(つて)を使ってあげよう。」


と言って、マッテーナさんは感謝するようにと強要してきた。


「あ、ありがとうございます…。」


(グダグダと前置きが長いと思ったら、しっかりと恩を売るための前置きだったのかよ。)


(しっ。それでも助けてくれるって言うんだから、ありがたいよ。)


『小さな内緒話』で話していることも忘れて、ジルに口止めしてしまった。いや、気持ちはものすごく解かるよ。ダメだ、出来ない、無理なんだと言い続けておきながら、最後には私に感謝するように言われれば誰だって反抗したくなる。


「ちょうどいい所に、こんな依頼があるわ。図書室の資料探しの依頼だよ。」


マッテーナさんは冒険者ギルドで使われている依頼表をボクに渡してきた。内容は言われた通りの資料探しだけど、しばらく王宮で図書館を管理する使用人として働くように書かれている。


「え?仕事ですか?」


「仕事よ。しばらくは王宮に逃げ込んでいられるし、子爵より権力を持つ人に気に入られれば自動的に守ってもらえるわ。がんばってね。」


「王宮に逃げ込んだら、ますます子爵様から逃げられなくなりませんか?貴族の集まるところですよね?」


「自分の家の資料庫にも入らないようなヤツが王宮の図書館に来ると思う?」


「使用人として王宮で暮らすってことは、廊下でばったり会うって事もありますよね?」


探しに来る人はともかく、下町で子爵様にばったり出くわす可能性の方が低そうだ。


「明るいうちは図書館に引きこもっていれば良いのよ。つべこべ言わずに引き受けなさい!私だってキミを手放さなければならないのだから、引き受けるか悩んでいたのよ。」


この仕事を引き受けると、マッテーナさんは他のギルドからの資料整理の依頼を断ることになるので困っていたらしい。ボクを仲介していた稼ぎが減るという理由も有ったのだろうけど。


ともかく、子爵様からの追手でアパートに帰れないボクとしては、暮らす場所があるだけでもありがたい事なんだけどね。



街で生活できるだけのお金が欲しかっただけなのに、どうして王宮で生活することになってしまったんだ?



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次回:新章/『王宮』に呼ばれて。

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