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裏路地占い師の探し物 ~勇者様のせいで占い師を続けられなかったんだ。~  作者: 61
第9章 ドラゴンの里は隠されていたんだ。
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本棚の山

第9章:ドラゴンの里は隠されていたんだ。

--本棚の山--


あらすじ:記憶の本にはプロテクトがかかっている部分があった。

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赤い本棚の山の前でソンドシタ様はまだプロテクトと言う物を解こうとして指を振り続けている。眉間の皺に焦りが見える。


何度も何度も指は繰り返し振られるけれど顔色は一向に良くならない。赤い本に浸み込んだ黒いモヤモヤが霧散するたびにソンドシタ様が失敗を繰り返していることが分かる。


ボク達は53個目の本棚の山を作りにかかった。本棚の山を作り続けてジルもボクも疲れてきている。普段はあまり気にならないけれど『失せ物問い』の妖精に答えてもらうのにも魔力が必要なんだ。1つの本棚の山に100の問いかけが必要だから、同じことを5200回も繰り返している。


「ヤイヤさんッス。」


53個の本棚の山を作り終えて一息ついた時、ヴァロアが大声を上げた。


「なに?もう来ただと?」


ソンドシタ様は驚いているけれど、5300回も同じことを繰り返していたボク達には十分に時間が経ったように感じていた。いや、少し遅かったと思えるくらいだ。


「あそこの通路の奥に居るッス。たくさんの荷物を抱えてるッス。大変そうッス。」


ヴァロアの指先を辿ってもヤイヤさんの姿は見えなかったけれど、音を聞いて『帆船の水先守』で見ているんだ。彼女の指した天井の先には通路があるらしく、その奥の扉を開けようとして手間取っているらしい。絵の道具を見つけることができたようだけど、荷物になっているみたいだ。


「ちっ。まだ開錠もできておらんのに。」


ソンドシタ様はネマル様の弱点を探すために記憶を探すどころか、途中にあったプロテクトを解く事もできていなかった。結局、ソンドシタ様が見る事ができた記憶は、ネマル様が産まれてからの100年分で、それもプロテクトがかかった個所は虫に食われたように抜けていた。


「それより、どうすんだよ、コレ?ヤイヤが見たら変に思うんじゃないか?」


色とりどりの本が詰まった棚が並ぶ中、ボクが積み上げた50を超える本棚の山は赤かった。ネマル様の本は全て真っ赤だったんだ。戻ってきたヤイヤさんだって真っ赤な本が集まっていたら気になるよね。そして、近づいて背表紙を見れば、ネマル様の名前を見つけてしまう。


絵を描くための本を探していたと言い訳をしても、これほど多くの本は必要じゃない。アグドも数枚の絵しか描く時間は無いと思うし、数冊の本があればいろいろなネマル様の姿を見る事ができる。実際に1台の本棚でもたくさんのネマル様の姿を見る事ができた。


「自分はヤイヤさんの手伝いをしたいッス。ソンドシタ様、連れて行ってくれないッスか?」


ヴァロアにはヤイヤさんの困っている様子が解るらしく手伝いを申し出たけれど、羽も空を歩く方法も知らないボク達では、ヤイヤさんの居る通路まで行く事ができない。ヤイヤさんの居る通路は天井に在って、空を飛べないボク達には手伝いに行けないんだ。


「うむ。ワレが飛んで、いや、ここの片付けが先だ。ヒョーリ、本棚を戻しくれ。」


「え!?戻し方なんて知らないですよ。」


「なっ?!」


ソンドシタ様が目を剥くけれど、ボクは手元に呼び出そうと思って『失せ物問い』を使っていたわけじゃない。『失せ物問い』の妖精に訊ねたら、手元に勝手に本が届いていたんだ。だから、戻し方なんて解らない。


山にする時も何となく、あのあたりに本棚を置けば良いかなと考えれば勝手に本棚がそこに置かれたんだ。


世界の果ての不思議な図書館は便利だなと今まで疑問にも思わなかったんだ。


試しにジルが本棚が消えそうな文言を『失せ物問い』の妖精に呼びかけてみているけれど、ピクリとも動かない。それにもう時間が無いよね。ボク達は5300回も問いかけ続けて53個の山を築いたんだ。同じことをするには同じだけの時間が必要なんだ。


「ソンドシタ様、自分だけでもヤイヤさんの所に連れて行ってくれないッスか?ヤイヤさんが大変そうッス。」


ヴァロアがしびれを切らす。荷物を抱えたヤイヤさんが転びそうになったみたいだ。


本棚を飛ばして動かしたように、ヴァロアだけをヤイヤさんの居る通路まで飛ばしてもらう。そうすれば、ヴァロアはヤイヤさんを手伝うことができる。


管理人のヤイヤさんなら、ソンドシタ様よりも図書館に詳しいはずだから、人間でも図書館に降りる方法を知っているかも知れない。


「あ、オレも行くぜ。オレも。どうせ使うのはオレなんだからな。」


ヴァロアに続いてアグドもヤイヤさんの手伝いに手を挙げる。荷物を抱えているヤイヤさんを手伝うのに男手があればより力になれるよね。


できればボクもヤイヤさんの手伝いに行きたい。ボクだって男だし、少しは力仕事に自信がある。カプリオの馬車に荷物を乗せる仕事はボクがしていたんだ。剣の腕ではヴァロアに敵わないけれど少しは役に立てるんだよ。


それに、ここでソンドシタ様といっしょに居れば、ヤイヤさんはボクをソンドシタ様の共犯にされるかもしれない。だけど、ヤイヤさんの手伝いに行けば、目こぼししてくれるかも知れないよね。


「な、裏切り者!ワレを置いて行くのか?」


ソンドシタ様の顔が悲壮感に歪む。


「魔法でちょちょいと動かせないッスか?」


ボク達が手伝おうとしても、3人で1台の本棚を動かすだけでも時間がかかる。53個の山の本棚、5300台を戻そうと思ったら、いつになったら終わるのか見当もつかない。


ソンドシタ様が指を振れば本棚が動く。記憶の本をたくさんのを絵にしながらでも本棚の山を動かしていたんだ。ソンドシタ様なら簡単に本棚を動かす事ができるよね。


「しかし、せっかく集めた本を…。」


ソンドシタ様は惜しがっている。どうやら、ドラゴン殺しの剣を探すついでに同じようにネマル様の本を探した時は、1冊も見つけられなくて悔しい思いをしたらしい。不思議な事に赤い本の詰まった棚は目立つと思うのに見つから無かったんだ。


「どこかに隠せないッスか?背表紙が見えなくれば目立たないッス。」


辺りには本棚がたくさんある。本棚の間に本棚があってもおかしくは無い。赤い背表紙が見えないように工夫さえすれば隠す事だってできると思う。


「どうするんだ?ここの本には変質の魔法が効かぬ。隠すための材料だって無いのだぞ。」


「本棚の山を他の本棚で埋められないッスか?」


「ソレだ!」


ソンドシタ様はさっそく指を振る。


ボクが作った以外にも本棚の山はたくさんある。ヤイヤさんが登場した時にも乗っていたし、ヴァロアもさっきまで本棚の山の上でヤイヤさんが戻ってくるのを見張っていた。


赤い本棚の山が目立つのであって、本棚の山自体は目立たないんだ。


「もうしばらくかかる故、孫娘たちはヤイヤの手伝いをしれくれ。ワレはあの通路に入る事は出来ん。」


ソンドシタ様は指を振るって本棚を動かしながら、別の指を振るってヴァロアとアグドを宙に浮かせる。両手を使えば2つの魔法を同時に使う事もできるらしい。ドラゴンってすごいね。


「できる限り時間を稼ぐんだぞ!!」


「頑張るッス~。」


いや、ボクも連れて行ってもらいたかったんだけど。


すでにヴァロアとアグドは天井近くまで飛んでいる。


言葉にするタイミングを逃してしまったボクは落胆の中、ヴァロア達を見送るしか無かったんだ。



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次回:5枚の『下書き』



誤字報告ありがうございます。

『非の打ち所の無い』わざわざ確認した記憶があるのに…。しかも冒頭の目立つとこ…。

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