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裏路地占い師の探し物 ~勇者様のせいで占い師を続けられなかったんだ。~  作者: 61
第9章 ドラゴンの里は隠されていたんだ。
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尻尾

第9章:ドラゴンの里は隠されていたんだ。

--尻尾--


あらすじ:ヴァロアがヤイヤさんに魔晶石を貰った。

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「それで、今日はネマル様の肖像を描きに来たのよね。」


頬の赤味が引いたヤイヤさんがソンドシタ様に向き直る。ヤイヤさんはしばらくソンドシタ様の魔晶石の付いた首飾りを水色の瞳を細めて何度もため息を吐いていたからね。満足しているんじゃないかな。


「う、うむ。ま、まあな。」


歯切れが悪く答えるソンドシタ様は空を仰ぐ。ネマル様の弱点を探しに来たと言えなかった言葉をヤイヤさんは覚えていた。どうやって絵を描くのか問われている途中で、ヤイヤさんがヴァロアのドラゴン殺しの剣に気が付いて話が中断していたんだ。


もしかしたら忘れていたのかもしれない。


「なあ、そんな事より何か食いたいんだがよ?」


「ああ、人間には食事が必要だったな。ヤイヤ。何かこの者たちに何か分けてくれぬか?」


座り込んで俯いていたアグドが口を挟むと、渡りに船だとソンドシタ様の顔が晴れる。緑の魔晶石の付いた首飾りを作るために、ヤイヤさんとヴァロアに2人で古い記憶の本を並べて、かなりの時間が経っていた。


その間にソンドシタ様のお尻には新しい尻尾が生えていた。


ぐんぐんと伸びて行って、元の尻尾と変わらない長さに成長したんだ。


古い尻尾は氷漬けのまま、暇を持て余したソンドシタ様が弄んでいる。図書館の中では死骸のように炎の息で消し炭にする事も出来ないからね。ゴロゴロと転がしては尻尾を使って手元に戻すと繰り返している。


いつも男の格好をしていて飾り気のないヴァロアがあんなに女の子らしくはしゃぐとは思っていなかったけれど、ヤイヤさんといっしょにいくつもの首飾りのデザインを見比べていた。ヴァロアが訪れた宝石店の記憶をいくつも呼び出していたからね。とても長かったよ。


なので、地面から生えている氷の槍が増えている。


アグドが何度か中断を訴えた証拠だ。


正確にアグドの喉を狙う氷の槍見て、ボクもソンドシタ様も口を挟む事はできなかった。お腹が鳴っても、眠くなってもボクはヤイヤさんとヴァロアに呼ばれて記憶の本を探す事になったんだ。太陽が見えない図書館で時間の感覚が掴めないけれど、朝ご飯の時間はとっくに過ぎていると思う。


ボクのお腹もぐるぐると鳴る。


透明な宮殿の近くには畑が無かった。だけど、宮殿には食堂があったんだ。まだ、ヤイヤさんが何も食べないと決まったワケじゃ無い。ドラゴンが行商人のような真似をするとは思えないけれど、ドラゴンなら1日もかけずに世界の果ての宮殿まで飛んでくる距離だ。


食べ物がある可能性は残っているよね。


ボクは淡い期待を胸にヤイヤさんに目を移す。


「残念だけど食べ物なんて無いわよ。ソンドシタ様とドラゴン殺しの剣を探した1年の間も私は何も口にしなかったじゃない。そんな事も覚えてないの?」


「そうだったか?」


「私は宮殿から出られないし、自分の為に用意するのも面倒なのよ。」


「ヤイヤさんはご飯を食べないッスか?」


ヴァロアの言葉にヤイヤさんは整った顔に陰を落とす。


「必要ないわ。私はこの図書館を管理するために造られた人形みたいなものよ。」


不機嫌になるヤイヤさんは思った通り人間じゃ無かった。人間が食べ物に不自由しそうな世界の果てに住めるわけ無いよね。さっきまで仲良くしていた相手と同じじゃない事を告げる顔は少し青く緊張していた。


透明な宮殿が無くならない限りヤイヤさんは食事を摂らなくても死ぬ事は無くて、透明な宮殿の外に出ると動けなくなってしまうらしい。


だから、ソンドシタ様が1年も居てくれて嬉しかったそうだ。


「誰がヤイヤさんを造ったッスか?神様ッスか?」


「ん~神様と言えば神様ね。だけど、人間が知っている神様では無いわよ。」


正体を知っても変わらない好奇心を示すヴァロアにヤイヤさんの陰りは消えていた。


浄化の魔法をくれた神様や、治癒の魔法をくれた神様。ドラゴンの崇める火の神様。世界には色々な神様がいるけれど、人間が知らない神様もいるみたいだ。商売の神様や鍛冶の神様、戦いの神様もいたりして、街でもたまにボクも知らないような神様の名前を耳にすることも有る。


人間が知らない神様がいたっておかしくないね。


図書館で本を管理しているのだから、本や図書館の神様かと思ったけれど、それも違うらしい。名前も知らない神様は世界の記憶を集める宮殿を作り、集めた記憶を留めるために図書館を作り、管理するためにヤイヤさんを作った。


「けど、困ったわね。お客様が来ると知っていれば何か用意していたのだけど。」


世界の果ての図書館に訪れる人は数年、いや数十年や数百年に数人という具合で、ヤイヤさんも食事を摂らないので保管しても腐るか風化してしまう。宮殿に1つだけある厨房じゃお客様の持て成すために作られていたんだ。


「何も…無いのか?」


ソンドシタ様の顔が曇る。


「モンジの団子がいくつか残ってるッス。でも、すぐに無くなってしなうッス。それに、そろそろ違うものも食べたいッス。」


夜中に逃げるようにドラゴンの里を出てきたから、ボク達は食べ物の補充をする暇は無かった。ネマル様に見つからないようにと言われるままにソンドシタ様と来てしまった。


ドラゴンの里でダハンデさんが饗してくれた森の人の野菜と果物だけの食事に不満があったことをソンドシタ様は知っている。アグドが不満をこぼしていたから。浮揚船の船長さんたちがボクの世話をするために同道したいと言ったのを断った。


まぁ、浮揚船を連れていたら、まだソンドシタ様の里にも着いていなかったと思うけし、世界の果てまで付いて来られなかったと思うけどね。


野菜と果物以外の食事を期待していたヴァロアの肩が落ちる。


浮揚船に乗ってからは団子ばかりでパンも食べていないんだ。


「肉が食いてえ!」


アグドの叫びは悲痛に聞こえた。


諦めてモンジの団子を食べようと切り出せる雰囲気にならない。


「今の時間に空を飛べば姉上にここにいる事がバレてしまう。」


白い大地に入った浮揚船を遠くのドラゴンの里から見つけてソンドシタ様を派遣したように、ソンドシタ様が空を飛べばネマル様は知ることができる。ネマル様には遠くで動く物を知る術があるみたいだ。


それに、今から食べ物を調達しに行ったら夜になっちゃうよね。


困ったヤイヤさんの視線が宙を彷徨ってソンドシタ様の氷漬けにされた尻尾に移った時、ボクはネマル様の言葉を思い出した。ネマル様はふざけていたのかソンドシタ様の尻尾を食べる事を提案したことがあったんだ。


「お、おう?」


みんなの視線が黒いドラゴンに弄ばれる氷漬けになった黒い尻尾に集まると、ソンドシタ様から変な声が漏れる。


「おおう?」


丸太を束ねたような太さのあるドラゴンの尻尾があれば、半年でも1年でも困らないだけのお肉になる。アマフルの数頭分。チロルだと数十羽のお肉になりそうだよね。


ネマル様が冗談を言った時には、赤いドラゴンに焼き殺されたソンドシタ様の死骸は炎の息で消し炭になっていたけれど、今は切られて氷漬けになった尻尾がある。


お肉を食べるためにソンドシタ様の尻尾を切るのには抵抗があるけれど、そこに在るのは消し炭にして処分されるのを待つだけの尻尾で、ソンドシタ様には新しい尻尾が生えている。


空腹に眩暈を覚える。


もうすぐお昼ご飯が近いのかもしれない。ソンドシタ様の尻尾だと思うと少し抵抗があるけれど、長い事お肉を食べていない。


あれは黒いドラゴンの尻尾。


「おおう!」


氷を剥がして調理したソンドシタ様の尻尾のお肉は赤身だけど柔らかく、しっかりと肉の味がした。


体に元気がみなぎる美味しいお肉だった。



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次回:絵の具に使う『油』



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