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裏路地占い師の探し物 ~勇者様のせいで占い師を続けられなかったんだ。~  作者: 61
第9章 ドラゴンの里は隠されていたんだ。
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厨房

第9章:ドラゴンの里は隠されていたんだ。

--厨房--


あらすじ:干し肉をアグドに全部食べられた。

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ジルの問いかけに応えて『失せ物問い』の妖精は頭の上、天井から本が流れてくる穴の向こうを示した。上の氷に包まれた大地にあった透明な宮殿にあるのかな。


ソンドシタ様の肩から見えた世界の果ての図書館は、ドラゴンが飛び回れるくらい天井が高くて、一面に本棚が並んだ部屋は遠くに果てが見えないほど広かった。少しひんやりとする図書館はインクの匂いに包まれていて、白い天井から注がれる柔らかな明かりは濃い影を作らない。


本棚に次々と本が納まっていく。


「おい。どうした?天井なんて見あげてよ。まさか?」


アグドもボクがヤイヤさんから逃げ回るソンドシタ様と違う方向を見ているボクの視線に気が付いたようだ。次々と氷の柱が作られては消えていく光景以外を見る理由なんて他に無いよね。


「あそこに厨房があるみたいだよ。」


ボクはアグドを振り返って上を指す。上へと上がる階段どころか壁も見えなくて、とてもじゃないけれど人間が登って宮殿に戻れそうにない。ヤイヤさんはどうしているんだろう。ソンドシタ様を追いかける時の様に、空を走って登っているのかな。


「これだけ広いんだ。食堂じゃ無くたって何か食い物が置いてある場所くらいあるだろ?」


ニシジオリの王宮でも、ツルガルの王宮でも食堂や厨房はいくつかあった。王様が住む宮殿。貴族が働く事務棟。来訪者を持て成す大広間。使用人の宿舎。


ボクの働いていたニシジオリの図書館にだって、本を読む合間に飲むお茶を淹れたり、お菓子を温めたりできる簡単な調理場が用意されていた。


この世界の果ての宮殿は小さな町よりも大きくて、ドラゴンが数頭いても、ゆったりと過ごせるくらい広く見えた。だけど、返ってきた返事は遠い宮殿の1つだけ。


(言い方が悪かったのかな。図書館の台所はどこだ?図書館の炊事場はどこだ?図書館の厨は?ここの食糧庫は?近ければ貯蔵庫だっていいぞ。)


ジルは図書館に絞って色々な言葉を試していく。だけど、いくつもの組み合わせを試しても『失せ物問い』の妖精は同じ場所しか教えてくれなかった。


ボクの額に嫌な汗が流れるにつれて、アグドとヴァロアの期待の目がだんだんと暗くなる。


「ダメみたい。」


図書館には本と本棚以外の物がない。本を読むための椅子も机も、疲れた時に休む場所も無いんだ。本の管理をしているというヤイヤさんは途中で休憩を挟まないのかな。いや、ニシジオリの王宮の図書館だって、訪れる人たちが休める場所や議論する場所が設けられていたよ。


本だけを詰め込んだこの図書館は、冒険者ギルドの資料室の方が近いのかもしれない。


「肉は無いのか?」


アグドが絶望しきった顔で縋るけど、肉どころか食べ物さえも見つからない。正確には食べ物がありそうな部屋がだけど。


「宮殿の周りを見たっスよね?氷に覆われていていたッス。」


ヴァロアの指摘にソンドシタ様の手の中で見た宮殿の外の光景を思い出す。


ソンドシタ様が世界の果てと呼んだ宮殿のある場所は、外は氷で覆われていて緑ひとつ無かった。オーロラを通す透明な宮殿の美しさに気をとられていたけれど、氷で覆われた大地には木の1本も草の茂みさえも生えていなかった。


(一番近い畑はどこだ?)


不意のジルの問いかけに『失せ物問い』の妖精が遥か彼方の方向を示す。とても歩いていけないくらいに遠くて、浮揚船に乗って行っても何日もかかる距離だ。もしかしたら途中に海を挟むかもしれない。いや、きっと海の向こうだ。


背が高く整った顔のヤイヤさん。ボクの白い腕輪の4つの魔晶石をなぞった彼女の指は白く細く綺麗だった。土で指が汚れた様子も、砂で爪が削れた様子もなかった。そして、ヤイヤさん以外に人間も見ていない。


「あの女は何を食べて生きているんだ?」


透明な宮殿には近くに街も村も見当たらなかった。世界の果てはドラゴンの翼でも来るのに相当な時間がかかる。そんなに遠くから毎日食べる食料を持ってきているなら、大きな食糧庫くらい無いとおかしいよね。


だけど、厨房はあったけど食糧庫は見つからなかった。


「めちゃくちゃな魔法を使って、空を飛んでいたッス。あんな人は聞いたことも無いッス。」


火水風土の4属性の魔法と、浄化と治癒の魔法以外を人間は使えない。ドラゴンのソンドシタ様があまりにも不思議な魔法ばかり使うのでマヒしていたけれど、ドラゴンの魔法を盗んだと言われる人間が新しい魔法を作ったなんて聞いたことが無い。


いくら風の魔法を使っても人間は空を飛ぶことができない。ツルガルの浮揚船だって、初めて作られる試作品だった。水の魔法を使えば氷を作る事もできるけれど、人間が魔力を込めても小石ほどの大きさの氷を作ることが限界だ。


水の魔法を使えば水温を変えることはできるけれど、凍らせるほど変えようとすると、ものすごく魔力を使う。それなのに、ヤイヤさんはソンドシタさんが逃げるほどの大きな氷の柱を作っている。何本も。


そもそも、氷に囲まれたここは人間の住む場所じゃ無いよね。


「人間じゃ無いのかな?」


ゴクリと唾を飲む


毛深い魔族や背の低い森の人みたいな人間と違った特徴のある人たちがいた。ヤイヤさんも人間に見えるけれど、本当は人間じゃ無いかもしれない。食べ物を口にしない人間なんて聞いた事もない。魔族だって森の人だって何かを食べなきゃ生きていけないんだ。


だけど、ドラゴンは多くの食事を必要としない。ヤイヤさんは人間よりもドラゴンに近い存在かも知れない。そうでも無ければ、あれだけの魔法を使って魔力が切れないわけが無い。


ヤイヤさんが空を走っていく魔法だって、彼女が自分で作ったのかもしれない。翼が生えているドラゴンが宙を蹴る魔法を作るとも思えないよね。


女の人の姿をした何かが巨大な黒いドラゴンを追い回す。


空にまた、氷の柱が生み出される。


もしかして、ヤイヤさんってドラゴンより強かったりする?


背中に冷や汗が流れる。ソンドシタ様の翼が風を切る音が大きくなってくる。ヤイヤさんの氷の柱の攻撃に誘導されて、逃げていたソンドシタ様が戻ってきているんだ。


ソンドシタ様は相変わらずヤイヤさんから逃げるだけで炎の息のひとつも吐こうとはしない。もしかしてソンドシタ様は自分の炎の息がヤイヤさんに通じない事を知っているのかもしれない。氷の柱がソンドシタ様の黒い鱗を滑っても、逃げるだけだ。


ヤイヤさんがソンドシタ様を傷付けることができるのなら。


ネマル様が呪いとも言っていた『心臓』無いソンドシタ様を殺すことができるのなら。


ヤイヤさんが手に持った本に魔力を込めると、空に生まれた三日月のような氷の刃が回転してソンドシタ様を追い、黒い鱗のドラゴンが大きく体をひねった。


ずっどーん。


大きな音が地響きを連れて黒い塊が図書館の床に落ちる。


落ちてからも、びくびくと暴れるそれは、黒い鱗をまとったソンドシタ様の尻尾だった。鋭い刃が当たった切り口は真っ直ぐで氷が覆っているから血は流れていない。


凍った赤い塊がパラパラと落ちてきた。



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次回:飾り気のない『耳飾り』


間隔が短いですけど活動報告に新しい表紙絵を載せました。Twitterに上げた画像をリンクさせているので、本編の方へリンクを繋げる事は止めておきます。



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