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裏路地占い師の探し物 ~勇者様のせいで占い師を続けられなかったんだ。~  作者: 61
第9章 ドラゴンの里は隠されていたんだ。
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管理人

第9章:ドラゴンの里は隠されていたんだ。

--管理人--


あらすじ:ネマル様の記憶の本を探した。

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「ソンドシタ様。何をしておいでですの?」


山のように高く積まれた本棚の上、透き通る声の女の人は逆光の中、水色の薄衣をたなびかせて仁王立ちに立っていた。


「ヤイヤ!いや、そのだな。これはだな…。」


うろたえるソンドシタ様はイタズラを発見された子供の様に体を丸めて尻尾を握る。


「私に挨拶も無いなんてツレなくありませんか?」


つま先をトンと鳴らしてソンドシタ様の顔より少し高い位置の本棚に飛び移る。


ヤイヤと呼ばれた女の人は、女の人にしては背が高く水色のロングドレスの上にゆったりとした薄い上着を重ねていいて、青みがかった長い髪を眼鏡の邪魔にならないように後ろでひとつに纏めていた。


ソンドシタ様を見下ろす表情は銀色の鎖の付いた眼鏡に隠れて見えないけれど、ヒールついた靴をトントンと鳴らして不機嫌そうだ。


「いや、オマエの手を煩わすほどの事でも無いと…。」


「この図書館の管理を任されている私の手を借りずに、何ができますの?」


「後で行こうと思っていたのだ。」とごにょごにょと言葉を濁すソンドシタ様の言葉を遮ってヤイヤさんはぴしゃりと口を尖らせる。もの凄い綺麗な人だけど、ソンドシタさまが怖がるくらいの人だからボク達も逆らわない方が良さそうだよね。


「オマエと探しても1年がかりになっただろう?」


この図書館を管理していると言うヤイヤさんでも、全ての本のある場所を知っている訳では無いらしい。図書館で作られてる大量の本の中から重要な物だけを取り出して分類していくのが彼女の仕事みたいだ。


「ここに納められる本はものすごく多いのよ。付き合ってあげるだけでも感謝しなさいよ。」


ボク達がこの図書館に落ちてくる間にもいくつもの本が綴じられていて、今だって頭の上を本や本棚が飛んでいる。本になって本棚になってこの図書館に納められていくんだ。どうやって仕分けているのか分からないけれど。必要な本を選ぶだけでも大変そうだ。


ヤイヤさんが管理している本以外は埋もれてしまって、彼女でも探すのに苦労する。以前に本を探した時は、目的の本が見つかるまでに1年も使ったらしい。


「そこでヒョーリの出番だ。」


「あら、人間もいたの。でも人間ごときに何ができるというの?」


ボクを見下ろす銀の鎖の眼鏡の奥の青い瞳。ソンドシタ様の突然の紹介もあって、ボクは体を固くする。この人がソンドシタ様がヴァロアに剣聖のドラゴン殺しの剣を持たせてまで警戒していた人だよね。


ボクはぎゅっとジルを抱き寄せる。


「あら。あらあらあら。」


眼鏡の奥から水色の瞳を覗かせたヤイヤさんがもういちど本棚を蹴ってボクの前に飛び降りてくる。ドラゴンの頭より高い位置から飛び降りたんだよ。人間なら落ちてケガをする高さだ。


ヤイヤさんは腰を折ってボクの手元を覗く。ボクの手元には木の枝の姿をしたジルとさっき手にしたネマル様の記憶が書かれた本がある。


「魔王の娘の魔晶石なんて初めて見るわ。」


ヤイヤさんはジルも本も見てなかった。ボクの左腕に付けた白い腕輪を見ていたんだ。赤い魔晶石に白い魔晶石、黒い魔晶石に緑の魔晶石。4つの魔晶石を白い指がなぞっていく。


「どうしてこんな人間にみんなが興味を持つの?」


「面白い『ギフト』を持っていてな。」


魔王や白い姫様、そして、ネマル様も『失せ物問い』に興味を持ったわけじゃないと思うけれど、ボクは口を挟むのを止めておいた。ソンドシタ様に何か考えがあるかもしれない。


「『ギフト』?あの下らないシステムのおかげでどれだけ私が苦労しているか知っていて?」


『ギフト』を授かるようになってから人間の暮らしは豊かになって、人の数は増えている。人間が増えれば記録される事柄が増える。図書館に納められる本は人間が増えるほどに増えて、ヤイヤさんの仕事が増えたらしい。


「たまにはワレ等にも役に立つ物があるらしい。例えばコイツの『失せ物問い』のようにな。」


「『失せ物問い』?」


「ああ、物を探す『ギフト』らしい。試しに姉上の記憶を探してもらった。姉上の肖像でも描けば喜ぶかと思ってな。」


本当はネマル様の弱点を探していたはずなのに、ソンドシタ様は胸を張ってヤイヤさんに、さらりと嘘を吐く。ドラゴンの里の人たちに言わなかったようにヤイヤさんに対してもネマル様の弱点を探しているなんて伝えないみたいだね。


ヤイヤさんもネマル様の事を知っているみたいだし、告げ口をされるのを恐れているんじゃないかな。


「確かにネマル様の本ね。ああ、オーロラとネマル様の姿が美しいけれど、やっぱりあの方の赤い鱗はお日様の下で輝いているのが一番だと思いますわ。」


「だろう?幼い頃の思い出を肖像にしても良いかと思ってな。」


ソンドシタ様はネマル様の記憶の本を探す理由を強引につける。弱点を探す事を隠したままネマル様の記憶の本を探すには良い言い訳かも知れない。だけど。


「良いアイディアだと思いますけど、この人間は絵も描きますの?」


どう見てもソンドシタ様の鋭い爪の手では絵筆を持つこともできないよね。となると、当然ボクが絵を描くと思うよね。


「いえ、ボクは…。」


「オレが描くぜ。」


口ごもるボクを助けようとしてくれたのか、アグドが元気よく手を挙げた。アグドが絵を描くなんて知らなかったよ。


「あら、他にも人間がいましたの。」


アグドに向けられた眼鏡がキラリと光る。だけど、その奥の水色の瞳はすぐに険しくなった。


「ねえ、アナタの持っている剣は『ドラゴン殺し』ではなくて?」


声を上げて前に出てきたアグドにではなく、その奥にいたヴァロアに敵意を持った目を向けていたんだ。


「これッスか?ソンドシタ様にも貰ったッス。」


「ねえ、この剣は男と戦った時の記念品だって言っていたわよね?」


「そうだが?」


「なんで女の子にプレゼントしているのよ?」


今までヴァロアを女の子と見抜けた人はいなかったのに、ヤイヤさんは男の格好をしたヴァロアの事をひと目で女の子だと見抜いた。


「ん?なぜってコイツの物だからな。」


「男の物だって言っていなかったかしら?」


ヤイヤさんの手に強い魔力を秘めた光の球が現れる。


「いや、あの時は本当に男の持ち物だったんだ。」


『ドラゴン殺し』はもともとヴァロアのお爺さん。剣聖の持ち物だったから嘘じゃない。剣聖はすでに亡くなっているらしいから、ソンドシタ様は孫娘のヴァロアに渡したんだよね。


「これの記憶を探した後に、どれだけ苦労したと思っているのよ。」


すでに水色の瞳を険しくしたヤイヤさんにはソンドシタ様の言葉に耳を傾ける気が無いらしい。手の中に集めた光の球が集まって本の形になった。


「探す時はオマエも楽しそうにしていたじゃないか。」


ソンドシタ様はヴァロアのお爺さんと戦った後に、欠けた『ドラゴン殺し』をそのままにしておくのが忍びなくて、この図書館で記憶を探して元の姿に戻していた。その時、ヤイヤさんも手伝ったけれど、探し出すまでに1年以上の時間がかかって仕事が溜まってしまったらしい。


綺麗な顔を歪めたヤイヤさんは、手に現れた本に魔力を込める。


「女に渡すプレゼントだと知っていたら、手伝ったりしなかったわ!」


本から現れた氷の牙がソンドシタ様に飛んで行った。



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次回:ソンドシタ様を襲う『氷の牙』



書き忘れてましたけど、活動報告にTwitterに上げていたイラストを載せました。載せられました。



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