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裏路地占い師の探し物 ~勇者様のせいで占い師を続けられなかったんだ。~  作者: 61
第9章 ドラゴンの里は隠されていたんだ。
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第9章:ドラゴンの里は隠されていたんだ。

--死--


あらすじ:ドラゴンの姉弟喧嘩が終わった。

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ソンドシタ様が死骸の前で途方に暮れる。


いったいこれから、どうしたらいいんだろう?


「ホントに死んでるッスか?」


わざと明るく振舞うようヴァロアも疑問の声を上げるけど、ボクだって目の前の光景が信じられない。ヴァロアの奏でる物語のドラゴンは強く雄大に歌われていた。竜殺しを振るったと言う彼女のお爺さんがソンドシタ様と会ったことがある事と関係しているのかもしれない。


大空を駆けた翼は破れ尻尾はだらしなく伸びる。重い体を支えていた四肢に力は無く、あちこち剥げた黒い鱗は焦げて煤がべっとりと付いている。赤い舌はだらりと垂れて怖いと感じていた緑の瞳も今は光を跳ね返せずに瞬かない。


動かない。


「見れば判るだろう?」


アグドのクマに縁取られた目は涙を溜めていた。


「疲れて寝ているだけだとか?」


ボクだって生き物の死骸をいくつも見たことがある。生き物は死ぬと同時に輝きを失う。近所の猟師さんが狩って来る獲物たち。勇者アンクスや戦士ライダル様が殺した死骸。それらのどれもから生きている感じが消えていた。


ソンドシタ様は一晩中赤いドラゴンと戦っていたから疲れていたとは思う。だけど生きていれば呼吸をするために胸が上下したり、寝返りを打ったりするよね。会話をする時に何度もソンドシタ様の息を被ったんだから、ドラゴンはだってどこか動いていそうだよね。


大きな顔の鋭い牙の並んだ口に手をかざしてみるけれど、温かさも湿った呼吸も感じられなかった。


「寝ているように見えるか?」


うつむいたアグドの足元に何かが落ちる。ぽたぽたと落ちるそれは白い大地に浸み込んで広がっていく。アグドの表情は見えないし、見てはいけないと思う。


何かが浸みこむ白い大地には何もない。激しい喧嘩があったとアグドは言うけれど、黒く焦げている場所も。鋭い爪で裂かれた土地も無い。ぽっかりとした何も無い大地に横たわる黒焦げたソンドシタ様に現実感が無い。


「きっと自分たちを驚かせようとッス?」


「オレは見てたんだよ!昨日からずっと、そのドラゴンが死ぬまでをよ。」


ドラゴンの里の結界に護られていてボク達には聞こえなかったけれど、ソンドシタ様の御加護の無いアグドには2頭のドラゴンの戦う音が聞こえていた。それは空に揺れるオーロラを破って一晩中鳴り響いていたみたいだ。


黒焦げになった黒い鱗を力なく叩くアグドの怒鳴り声の隙間にのんびりとした声が近づいてきた。


「はあ、こんな所に居たんですね。」


木の巨人からダハンデさんが身を乗り出していた。飛び出したまま戻らないボク達を追って街の中を探し回ったらしい。


「ダハンデさん。ソンドシタ様が…。」


「ああ、また死んだんですね。」


「また?」


その時やっとボクは違和感を感じたんだ。ソンドシタ様が死んだのに、ボク達を探しに来たダハンデさん以外の森の人や木の巨人が来ていない。


いくらドラゴンの里の結界で音が消えていたとしても、空を飛ぶドラゴンの姉弟喧嘩は見えていた。ずっと空を飛び回っていたドラゴンたちが消えたなら、里の人なら心配するよね。


ドラゴンの里からは探す様子も、心配する声も聞こえなかった。


ボク達以外に誰も来ないなんておかしいんじゃないかな。


「ダハンデよ。もう少し空気を読めぬのか?良い所だったのに。」


緑の瞳に力を戻したソンドシタ様がバツの悪そうな顔で片目を開けていた。ドラゴンの里の人は知っていたんだ。何度も起きているドラゴン姉弟の喧嘩の結果、ソンドシタ様が生きている事を。


「お客様が困っていらっしゃいますよ。大事な方では無いのですか?」


ダハンデさんがソンドシタ様相手に小言を続けると、ソンドシタ様の体が光に包まれて剥がれた鱗が生えてくる。魔法陣が無いから人間とは違うのだろうけど、治癒と浄化の魔法を使ったみたいだ。


黒い体は綺麗さっぱりと元に戻って、翼が張られ爪が輝く。死んでいたと思っていたのが嘘みたいだ。


「心配してもらうなんて久しぶりでな。思わず声をかけそびれたのだ。悪かったな。」


謝罪を述べるソンドシタ様の緑の目元は嬉しさを隠せていなかった。目の端がニヤニヤしたまま話を続ける口は今にも笑いだしそうだった。


ソンドシタ様には心臓が無い。


ホントに無いわけではなく、別の場所に『ソンドシタ様の心臓』が隠されているらしい。


ボクの『失せ物問い』は生き物を探せない。それなのにボク達の浮揚船は『ソンドシタ様の心臓』の場所を目指して旅をしてきた。それは生きているドラゴンを目指していたわけでは無く、隠された心臓を目指していたんだ。


話の間にジルが『ソンドシタ様の心臓』の位置を『失せ物問い』の妖精に探させたのだけど、ドラゴンの里の別の場所に在った。


隠された『ソンドシタ様の心臓』が無事である限りはソンドシタ様が死ぬことは無い。いや、正確には死ぬんだけど、心臓に呼び戻された魂はそこから再び命になって元の体に戻るらしい。


いや、いつもの事だけどソンドシタ様の説明は訳が分からないんだ。


「姉上に掛けられた、まあ、呪いみたいなものだ。」


ソンドシタ様は気軽に言うけれど、呪いはあまり身近じゃない。ソンドシタ様の魔法だって分からないのに呪いだなんて言われても余計に分からなくなるよね。


「本当に心配したッスよ。アグドが死んだ、死んだと言い張るから。」


「ワレも泣かれるとは思わなかった。ワレのために涙を流す物が現れるとは夢にも思わなかった。こう胸がきゅうーっとなってな。初めての感覚にびっくりしていたのだ。」


「う、うるせぇ!泣いてなんて無い!!」


からかう口調のヴァロアとソンドシタ様に怒鳴るアグドの顔は真っ赤で、黒く浮かんだクマがあるけれど、目元のひと際赤い涙の跡を隠しきれてはいなかった。


「まあ、泣かせた詫びだ。オマエの欲しがっていた物をくれてやろう。」


ソンドシタ様は「ちょうどいいものがある」と指を動かした。岩の隙間から黒く大きな鱗が飛んできてアグドの前に浮かぶ。鱗の中心に緑の魔晶石が浮かんでくると、ソンドシタ様が指を振るとぐにゃりと鱗の形が変わって縮んでいく。


「さしずめドラゴンナイフとでも言ったところか。」


刀身まで魔晶石にすると魔力を多く使わなければならない。それに、刃にするには魔晶石は脆くて崩れやすい。その点、姉上相手でも耐えられる鱗なら乱暴に扱っても問題ない。ちょうど良く手直に鱗が落ちていて良かったとソンドシタ様は笑った。


ナイフの表面に鱗のような模様が浮かび、ソンドシタ様の鋭い牙や爪のような突起がいくつも生える。ドラゴンみたいに象られた。


「す、すげえ。こんなカッコいいナイフ見たことねえ!」


「剣聖の竜殺しほど鋭くはないし、永遠の鉄ほど硬くも無いがな。ま、ナイフと言えど負ける事は無かろうよ。」


アグドが手に取った黒いナイフを振り回して喜んでいる姿を見て、ソンドシタ様が付け加えていたけれど、アグドが聞いている様子はなかった。


アグドはソンドシタ様の加護の付いたナイフを手に入れたんだ。



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次回:ダハンデさんの『すまし顔』


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