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裏路地占い師の探し物 ~勇者様のせいで占い師を続けられなかったんだ。~  作者: 61
第9章 ドラゴンの里は隠されていたんだ。
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憔悴

第9章:ドラゴンの里は隠されていたんだ。

--憔悴--


あらすじ:ドラゴンの姉弟喧嘩が終わらない。

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「うわあああぁぁあああああ!」


オーロラの下で起きているドラゴン姉弟の喧嘩が気になって寝返りばかりを打った一夜が明けて目が覚めると、アグドの血走った顔がすぐそこにあったんだ。彼はボクの悲鳴を耳元で聞いたのに表情は変わらなくて、まったく眠れなかったのか目の周りに真っ黒な隈を作って口元が開いてヨダレが垂れている。


恐怖以外の何物でもないよね。


「どうしたっすか?」


憔悴したアグドの向こうから目をこすりながらヴァロアが覗き込んできたので、ドキドキしている胸を落ち着けながら昨日の出来事を思い出した。


禍々しく揺れるオーロラの下で、しばらくソンドシタ様とお姉さんの姉弟喧嘩を見ていたのだけど、温かいうちに食事を食べて欲しいと言うダハンデさんの勧めもあって、後ろ髪を引かれながらボク達はその場を後にした。


ソンドシタ様なら大丈夫だとダハンデさんは場を和ませようとしてくれるけれど、黒いドラゴンの不在の食卓はぎこちなくて、未だに空を見つめ続けているアグドはせっかく用意された食事にも手を付けずに視線はウロウロと宙を彷徨っていた。彼には姉弟喧嘩が見えているんだよね。


時折アグドのくぐもった声が聞こえる静かな部屋で食事のお礼にとヴァロアが奏でた小夜曲に耳を傾けているとうつらうつらと眠さがぶり返す。聞きたい事があったけれど夜も更けたからとベッドに入る事を進められて、ボク達は寝る事になったんだ。


大樹の洞には部屋はいくつもあって、それぞれに部屋を割り振られたけれど、空を見て怯えるアグドはボクの服の裾を離さなかった。アグドの様子が尋常では無くてボクは彼と一緒の部屋にして欲しいとダハンデさんにお願いした。


幸い、ベッドは机や椅子と同じように床から生えてきたので、すぐに用意してもらえた。床から生えてきた枠に薄緑色のシーツを掛けるとベッドになったんだ。


「ベッドを増やせるなら、自分もここで寝たいッス。独りだと寂しいッス。」


ヴァロアも面白がって手を挙げてみんな一緒の部屋で眠りについたんだ。せっかく別の部屋で安心して眠れるのに。彼女は浮揚船でも性別を気にしていなかった。でも、ボクもソンドシタ様が帰ってこなくて不安だったし、人間のいないドラゴンの里は心細かったんだ。


結局、ソンドシタ様は戻って来なかった。


姉弟喧嘩を追っているアグドの目が止まらないから、まだ喧嘩は続いているらしい。のろのろと身支度を整えて階段を降りて行くと木の巨人に乗ったダハンデさんがすでに朝食の準備をしていてクラッカーの焼けるいい匂いが漂っていた。


「おはようございます。」


「おはようございます。よく眠れましたか?」


あまり眠れなかったとは言えずに曖昧な挨拶を交わせばお腹が鳴った。


「朝食の準備ができてますよ。」


ふふと笑われて案内された朝食には砕いたクラッカーを散らしたサラダと聞いたことも無い名前のジュースが用意されていてボク達は黙々と口に運ぶ。美味しかったけど森の人たちにはお肉を食べる習慣が無いらしく物足りない。


いや、朝ご飯だから良いけどさ。ご馳走だと持て成された夕食でも豆や瓜、野菜や果物ばかりだったんだ。緑色の小さな森の人は野菜ばかり食べているんだ。


言葉少ない食事の間も姉弟喧嘩もの話をしていたけれど、ダハンデさんはいつもの事で大丈夫だと言うばかりなんだよね。ぶつりぶつりと会話が途切れる。


「あの、ソンドシタ様の探している物をご存じなんですか?」


食後のお茶用意してくれて一息ついたダハンデさんにボクは話題を変えて聞いてみる。ソンドシタ様は教えてくれなかったけれど、ダハンデさんは知っているようだったよね。部屋の中なら里の人に聞かれる心配も無いし、教えてもらえるかもしれない。


「探しているもの?ああ、長年の夢が叶うとか。何か探していらっしゃったんでしょうが、残念ながら私も知らないのです。」


巨人の頭の上で目を伏せたダハンデさん。


彼はソンドシタ様が喜んでいたので相槌として返事をしただけだったんだ。詳細は解らなくてもソンドシタ様は喜んでいてボク達を歓迎しようとしていた。だから口を挟まずに歓迎の準備を整える事だけを考えていたそうだ。


「私達にドラゴン様の心を推し量るなんて無理なんですよ。」


申し訳なさそうに答えるダハンデさんが生まれた時からソンドシタ様は今の姿で、小さい頃には子守なんかもしてもらったそうだ。自分が産まれる前よりもずっとずっと前から生きているソンドシタ様の考えは、どれだけ仕えていても判らない。


「うおおおおおお!」


消沈したボクの隣でアグドが奇声を上げて空になった朝ご飯のお皿が浮いた。


「どうしたッスか?」


「黒いドラゴンが…墜ちた。」


「空でケンカしてるッスから落ちる事もあるんじゃないスか?」


「いや、アイツはなんど蹴落とされても空中で踏み止まっていたんだ。」


アグドによると何度も空中で踏ん張っていたソンドシタ様が、今回は炎に包まれてギリギリと回転しながら墜ちて行ったそうだ。そして、赤いドラゴンはひときわ大きく吠えて飛び去って行った。勝ち誇っていたようだと感じたそうだ。


黒く隈のできた顔を苛立たせると、アグドは走り出した。里の景色の見えてない彼は閉じられていたドアにぶつかってしまったけどね。


「大丈夫?」


「ちっ!なんで見えねえんだよ!」


悪態を吐くアグドを助け起こすとボクはそのままソンドシタ様が墜落したと言う場所へと引っ張られる。急かすアグドは畑の真ん中を通ろうとしたので連れ戻す。アグドの指さす方向へと回り道をして進むとドラゴンの里の端まで来てしまった。


ソンドシタ様は白い大地に伏していた。


ドラゴンの里のすぐ外で黒いドラゴンはプスプスと煙を上げている。ソンドシタ様の体は真っ黒くて判りにくいけれど、つやつやと輝きを帯びていた黒い鱗は光を失って真っ黒に焦げていた。そっと鱗に触れてみる指の先をべっとりと黒い煤が汚す。


「何でだよ?あんなに強かったじゃねえか。」


ソンドシタ様に縋りついてボロボロと涙を流すアグドは本当に悔しそうで、一晩中ソンドシタ様を応援していたようだ。空をどれくらい早く飛んだとか、どれだけ大きな炎を吐いたとか、ずっと見ていたソンドシタ様の凄かった戦いを次々と並べていく。


「死んじゃったの?」


出来ないことなんて無いと思っていたドラゴンが死んだとは思えなくてボクは何度も目を疑う。ドラゴンの里を出ると寒くて歯の根が噛み合わない。ガチガチと鳴る顎を堪えて僕はその場から動けずに聞いた。


「炎に包まれて雲の上から落ちたんだぜ。…生きてはいないよな。」


ソンドシタ様が死んでしまったらボク達はどうなってしまうんだろう?『ドラゴンの点鼻薬』は?薬の作り方は?いや、それよりもボク達はツルガルへ帰る方法も無いんじゃないかな。


ソンドシタ様が運んでくれたから1日もかけずにドラゴンの里へ来る事ができたけれど、外は何もない白い大地が広がっていて人間が歩いて行く事は難しい。


ボクは白い腕輪を空にかざした。そこには3つの魔晶石がはめ込まれている。ボク達は煙を上げて横たわるソンドシタ様の前で途方に暮れるしか無かったんだ。



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次回:ソンドシタ様の『死』



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