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裏路地占い師の探し物 ~勇者様のせいで占い師を続けられなかったんだ。~  作者: 61
第9章 ドラゴンの里は隠されていたんだ。
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赤いドラゴン

第9章:ドラゴンの里は隠されていたんだ。

--赤いドラゴン--


あらすじ:アグドの椅子が消えた。

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「そうイジメてやるな。一応、ワレの招いたヒョーリの知り合いなのだから死なれては困る。」


ソンドシタ様はアグドの椅子を消したダハンデさんに苦言を告げるけど、死ななければ何しても良いって意味にも捉えられる。アグドを追い出さずにいてくれるけど、ドラゴンの里の景色を見せるつもりはないようで、やっぱり彼には御加護の魔晶石を渡す気が無いようだ。連れて歩くのも面倒なのに。


「そろそろ湯も沸いた頃でしょう。」


ダハンデさんは木の巨人を操ってアグドの座っていた布が巻かれた板を逃げるように持っていく。新しく椅子を作る気は無いようだ、ダハンデさんが向かった先にはいくつものドアや窓が掘られていて、洞の内側を削って家を作り付けているみたいだ。


アグドはそのまま床に座り直して「変に浮いているより、この方が落ち着くわ!」と負け惜しみを口にした。


ソンドシタ様の御加護の付いた魔晶石が無いと椅子に座っても白い大地の上に浮いているような気分になるらしい。ソンドシタ様の棲み処の大樹も椅子も見えないんだもの。訳もわからないのにお尻が宙に浮いた状態でいるよりは良いんだろうね。


「それで、ソンドシタ様が兄さんに頼みたい事って何スか?そろそろ教えてくれても良いッスよね?」


ソンドシタ様はヴァロアが見上げずに済むように、長い首を降ろして机の前に頭を落とした。それでもまだ上を向かなければならないけれど、これ以上近づかれると息がかかってちょっと怖いんだ。


「まだだ。まだ教えられん。目的の場所に着いたら話そう。」


「え~、楽しみにしてたッスよ。もう人間は誰もいないッスよ。アグドだけッスよ?それでもダメッスか?」


「里の者にも知られる訳にはいかん。」


ソンドシタ様は大きな緑の瞳を大樹の棲み処の外に向ける。


ソンドシタ様の家は大樹をくりぬいた洞のようで、中にも木のぬくもりが溢れていた。辺りには木の巨人が使いそうな道具が整えられて置いてある。


ダハンデさんの入って行った家にはドアがあったけど、大樹の棲み処にはドアが無かった。ドラゴンが出入りできるだけの大きな洞の入り口に付けるドアなんて作れなかったのかもしれない。いや、ソンドシタ様なら魔法で何とかできそうだから普段はドアなんて必要ないのかな。


ソンドシタ様がいちいちドアを開け閉めして出入りする様子も想像できないよね。


ドアが無いから誰でも自由に出入りできる。そして大きな木の巨人の道具の影に小さな森の人はいくらでも隠れられる。


魔法で何でもできそうなドラゴンが、樽いっぱいの金貨よりも望み、ツルガルの王宮が用意しようとした宝物よりもボクを選び、そしてドラゴンの里に住む人たちにも隠し続ける探し物に興味を惹かれる。


いったい何を探すんだろう?


ワクワクすると同時に不安になる。秘密の何かは誰かを傷つけたり壊すものだったりするかも知れないんだ。


悪い方へと転がる頭でヴァロアのお爺さんだと言う剣聖の話をねだるソンドシタ様と嫌がるヴァロアの会話を上の空で聞いていると、ダハンデさんがお茶の用意を持って戻ってきた。


「苔の実のジャムを乗せたクラッカーに苔茶にございます。お口に合えばよろしいのですが。」


紅いジャムを乗せた指で摘める小さなクラッカーが綺麗に皿に並べられて、ボク達の使うサイズの半分くらいの小さなティーカップに同じく鮮やかな紅色のお茶が並々と注がれている。森の人の体に合わせたサイズだよね。ドラゴンのサイズじゃなくて良かった。


白地に緑の模様が入ったカップがカチャリと揺れて香りの良い紅色の水面を揺らすけど、その揺れは止まることなく大きくなっていった。


ドスン。ドスン。ドスン。


波紋が広がっていくにつれて地響きが聞こえてくる。


「ちっ。もう来たのか。」


「まだ報告に行って無かったのですか?」


「客もいるんだ。明日でもいいだろう?」


「連絡をあげないとお客様が来ている事も判りませんよ。」


「ワレの隣に見慣れぬ魔力があるのくらい気が付くだろう。」


ダハンデさんが諦めたようにタメ息を吐くと、足音がソンドシタ様の家の前で止まった。洞の入り口の光が遮られて大きな影が落ちたから振り返ると、燃えるような大きな赤い瞳が睨んでいる。


それはソンドシタ様の緑の瞳と同じ、ドラゴンの瞳。


黒いドラゴンを睨みつける赤いドラゴンの瞳。


山のような影はソンドシタ様より大きい。


「戻ったんでしょ。なんで来ないのよ?」


ソンドシタ様の住む洞に大きな怒鳴り声が木霊して耳を塞ぐ。長い首が伸びてきて、ボクの隣に、真っ赤なドラゴンの鋭い爪のついた脚が振り下ろされる。真っ赤なドラゴンはソンドシタ様と話をしようと進んできたんだ。ボク達の事なんて見えても無いんじゃないかな。


「姉上、客の前だ。」


やっと足元に居たボク達に今気づいたのか、洞の入り口を塞いでいた赤いドラゴンの長い首が勢いよく振り下ろされて落ちてくる。ぶつかる!と身を守ろうとしたところで止まったけれど、鋭い牙が目の前まで迫っていて、生暖かい息がボク達を撫でる。


「アンタがお友達を連れて来るなんて珍しいわね。って、人間を連れてきたの?」


目の前の赤いドラゴンの眉根に皺が寄って、赤い瞳が険しくなった。ボクは慌ててソンドシタ様にもらった加護を探した。大事な物にソンドシタ様の緑の瞳と同じ色の魔晶石を付けてもらったんだよね。


確かドラゴンに会った時に見せれば話くらいは聞いてもらえるんだったよね。緑の魔晶石を付けてもらったのは覚えているけれど、なぜかヴァロアの耳飾りばかりが思い出されるんだ。


混乱する頭で机に立てかけたジルには緑の魔晶石が揺れているけれど、ボクの物じゃない。ボクのもらった魔晶石じゃないと怒られるかもしれない。


「よく見ろ。」


「あらやだ、姫ちゃんのお気に入り?魔王の魔力もあるわね。やだ。え~どうして?姫ちゃんが人間を気に入るなんて初めてなんだけど。ねえねえ、あの子元気だった?」


あたふたとマントの下を探し回るボクを一瞥して、険しく燃えていた赤い瞳が好奇の色に変わる。それどころか、明かりの入ってくる入り口に背を向けてはずなのにきらきらと光ってるんだ。


「姉上が気にするだろうと思って無理を言って来てもらったのだ。まずは持て成して長い旅の疲れを癒してもらうのは当然だろう?」


「アンタにしては気が利くのね。」


嬉しいのか首を振り上げた赤いドラゴンは体を揺らした。機嫌を取り戻してくれたのは良いけれど、いちいち身振りが大げさで、感情の起伏といっしょに手をバタバタと動かすから、鋭い爪が目の前で行ったり来たりするんだ。もうちょっと大人しくできないのかな。命がいくつあっても足りないよ。


「ねえ、もっと良くその腕輪を見せて。」


大きく見開かれた赤い瞳がボクの左手の白い腕輪を捉えると再び険しくなった。


「ねえ、何でアンタの魔晶石が姫ちゃんの石の隣に有るの?私の石が入れられないじゃない!」


「はん。順番に入れただけだ。」


白い腕輪には黒、白、緑と3つの魔晶石が並んでいる。白が姫様で緑がソンドシタ様。白い魔晶石の両隣にすでに石が嵌められていた。つまり、白い魔晶石の隣には新しい石を入れられないんだ。


「空けなさい。」


緊張が走りダハンデさんがゆっくりと机を離れて行く。え、ちょっと待って。ココに居たら危ないのかな?赤いドラゴンと黒いドラゴンの間にいるんだけど。


「面倒だ。」


「私の言う事が聞けないって言うの?」


「石の並び方くらいどうでも良いじゃないか。」


ソンドシタ様が吐き捨てるように言ったと同時に赤いドラゴンが黒いドラゴンの首に噛みついて、ドラゴン同士の壮絶な姉弟喧嘩が始まったんだ。



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次回:壮絶な『姉弟喧嘩』


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