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第8章:ドラゴンなんて怖くないんだ。

--『指』--


あらすじ:ソンドシタ様はジルを人間に戻す方法を知らなかった。

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カプリオから伝えられた魔王の『ドラゴンならジルを戻す方法を知っているかも知れない。』と言う言葉で期待していたのに、ソンドシタ様は知らないと答え大きな声で笑った。


気落ちするボクは立ち上がる事ができない。


せっかくここまで来たのに。


「そう落ち込むな。ワレがその者を枝に変えた訳ではないからな。エンコードの法則が判らなければデコードできぬだろ?そう言う事だ。」


何がそう言う事なのか分からないけれど、ジルを木の枝に変えた人じゃないと元に戻す事はできないということかな。たしか、ジルは『木になる指輪』という魔道具を使って木の枝に姿を変えたと言っていた。その指輪を作った人を探さないとダメなのか。


人間だったら生きていないよね。


ジルは大昔に木の枝になったんだ。ボクが生まれるよりもずっと前。


(だがよ、ドラゴンならどうだ?ドラゴンは長生きをするというぜ。長生きするから神に与えられた力を研究して新しい魔法を生み出したんだろ?)


ジルは期待を込めて自説を唱えるけれど、ドラゴンが人間の指に合うような指輪を作るとは思えない。ドラゴンの指は丸太のように太くて、人間の指輪なんてドラゴンの指に比べたらモンジの粒ほどしかない。自分の指に入らないような指輪は必要ないだろうし、太い指で小さな細工をできるようにも思えない。


モンジの粒に穴を空けるなんてボクだったらできないよ。


「まぁ、当てはある。大丈夫だ。」


一向に立ち直れないボクに声をかけてソンドシタ様が気遣ってくれる。


そうだよね。ソンドシタ様が知らないだけで、ソンドシタ様のお姉さんは知っているかも知れないよね。ソンドシタ様のお姉さんは里でも偉いドラゴンみたいだから、他のドラゴンの話を聞けるかもしれない。


どうせボクには他に当ては無い。


自信満々のソンドシタ様の言葉に従ってもいいかもしれない。


重くなる雰囲気の中で横を向いて小さな声で「たぶんな。」と付け加えるソンドシタ様に、もう1度考え直そう思った時、ヴァロアが手を挙げた。


「自分も連れて行って欲しいッス。兄さんの護衛するッス。ドラゴンの里を見たいッス。」


ボクの護衛を名乗り出ているけれど、彼女はさっきソンドシタ様に負けを認めたばかりだ。たぶん、ドラゴンの里を見たいためにソンドシタ様の『ボクの護衛』と言う言葉に乗ったんだ。気分は完全に物見遊山だよね。


「ああ、オマエならワレが招待しよう。剣聖の話も聞きたい。」


ソンドシタ様も横を向いた顔を崩してヴァロアの話に乗る。話題が変わることに喜んでいるソンドシタ様にボクの不安は膨らんでいくけれど、ヴァロアがいっしょに来てくれるなら心強い。女の子のヴァロアに無理をさせるのは心苦しいけれど、ソンドシタ様と仲良く話せる人物は貴重だよね。


「え~ジジイの話なんて面白くも無いスッよ。」


「そう言うな。預かっているアイツの剣を返してやるから昔話に付き合え。」


「いや、自分は剣なんて要らないッス。ドラゴンの里を見て歌の材料にしたいだけッス。」


物見遊山気分を白状したヴァロアのお爺さんの剣は、おとぎ話が真実なら『竜殺しの剣』と呼ばれた伝説の剣だ。竜殺しの異名を持つ剣をソンドシタ様が残している理由は判らないけど、ドラゴンと戦った剣聖としてふさわしい剣で、ボクも幼い頃に憧れた。


「なんだ。ドラゴンの里に来たいのではないのか?」


「う、少しだけッスよ。」


ニヤニヤ笑うソンドシタ様と言葉に詰まるヴァロアのどこか楽し気な問答がヴァロアが折れて決着がついた時、船長さんも手を挙げた。


「ソンドシタ殿。ヴァロア殿の動向が許されるなら、我々からの代表も連れて行ってもらいたい。」


1度はソンドシタ様からドラゴンの里へ行く事を断られたからか船長さんは緊張した面持ちで、でもはっきりと申し出た。


「オマエ達を招く理由はない。」


真っ直ぐな目の船長さんにソンドシタ様は冷たく首を振る。


「ソンドシタ殿の姉上殿にレシピのご教示を直接お願いさせてください。アズマシィ様の御病気は我々には死活問題なのです。」


浮揚船に酒樽ふたつ分の金貨をお礼として用意して、それでも足りないなら追加をも考えていたツルガルの王宮は必死だった。


お願い事は伝聞で聞かされるより、本人が直に話した方が熱意も伝わる。ソンドシタ様の口添えも欲しいけれど、自分の必死な言葉も直に伝えたいんだよね。


「気持ちは解るが、オマエたちにはヒョーリと姫との縁やヴァロアと剣聖との縁のような、繋がりが無い。」


「それでは、ヒョーリ殿のためではいかがでしょう?ニシジオリから来た彼が我がツルガルのために行ってくださるのです、彼の身を守る護衛を付けさせて頂きたい!」


「ワレがヒョーリを招くのだ。ワレより強い者がお前たちの中にいるのか?」


ソンドシタ様は自信を持って胸を張るけど、ボクはそのソンドシタ様が怖いんだよね。できればヴァロアじゃなく、兵士の人にソンドシタ様から守ってもらいたい。白い大地を飛ぶことができる浮揚船でみんなと行きたいくらいなんだ。


「しかし、それでは我々の面子が潰れます。無理を言って付き添っていただいているヒョーリ殿を途中で放り出してしまうなどできません。」


船長さんに促されたサスネェさんが前に出て『英雄劇薬』を使って腕を太くして力強さをソンドシタ様に見せつける。そしてボクという人間の世話や食べ物の話をして、ドラゴンとの違いを挙げていく。


確かに、ドラゴンの生活と人間の生活では大きさも風習も違いそうだ。樽のようなカップに入れられたお茶で歓迎されて、体より大きな食べ物を勧められたりするかも。


(必至だな。)


ジルの考えはボクの考えと少し違っていた。


アズマシィ様の薬の話だけでは無かったんだ。


ドラゴンと友好的な関係を築く事ができれば、他の国からも一目置かれるようになる。ボクが目にしただけでもソンドシタ様の魔法は信じられないほどすごかった。できない事なんて無さそうだよね。それに比べれば人間の魔法なんてできる事が少ない。


ボクはニシジオリの代表とも捉える事ができる。ソンドシタ様がボクと仲良くなれば、ボクをツルガルへと送る事ができたニシジオリはボクを通してソンドシタ様と繋がりができる。


ツルガルとニシジオリが戦争になるかも知れない今は、小さな事でも戦争への不安に繋がる。戦力が拮抗していれば争いは起こりにくいけれど、戦力が片方だけ大きくなれば戦争につながる。


ドラゴンとの繋がりができる事は小さなことでは済まされない。


ドラゴンから少しでも魔法の知識がもたらされたら、新しい魔法が生まれるかも知れない。戦い方が大きく変わるかも知れないよね。


ニシジオリとの関係を考えてもツルガルは必死になるしか無かったんだ。


「何よりな。ワレの腕は2本しか無いのだぞ?」


ソンドシタ様は丸太のような指を握ったり開いたりした。


いやいやいや、ボクはあの腕で運ばれるの?てっきり運ばれるにしても、背中に乗せてもらえるのかと思っていたんだけど。



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次回:ドラゴンの『手』の中で。



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