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加護

第8章:ドラゴンなんて怖くないんだ。

--『加護』--


あらすじ:ソンドシタ様がボクを貸してくれと言った。

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ソンドシタ様の要望にみんなの視線がボクに集まる。


占い師を貸してくれって、ボクの事だよね?


「ソンドシタ殿。それはどういったご用件で?」


その場にいる全員の疑問の視線が集る中、口を開いたのは船長さんだった。ボクなんて言われた事の意味も解らずにソンドシタ様の目に怯えていたのに。


「なに、ワレも探し物があるでな。」


何も物を持たないドラゴンが何を探すものがあるのか気になる。けど、ドラゴンに貸し出されるという意味が分からない。ボク達は白い大地の端まで戻ってそこで待っていれば良いんだよね。ここで探し物の場所を伝えるだけで済むんだよね。


そう考えたいけれど、今までの体験からすると、この場所で占うだけで済むとは思えない。


勇者の剣の場所を伝えた時も、魔王の場所を伝えた時も、『ソンドシタ様の心臓』の場所を伝えた時も、伝えるだけでは終わらなくてボクは冒険に連れ出される事になったんだ。『借りる』という表現からもソンドシタ様はボクをどこかに連れて行きたいのだと思う。


「どのような物をお探しか、お伺いしてもよろしいでしょうか?」


「個人的な事でな。あまりおおっぴらに言うものではない。」


ソンドシタ様は素っ気なく、でも少し体裁の悪そうに視線を泳がせる。何か人に言えないような物をボクに探させるのかな?ドラゴンが隠したいと思う探し物ってなんだろう。


「ヒョーリ殿には我々も無理を言って共に来てもらっています。たとえアズマシィ様の薬を貰うためとはいえ、彼に無理をさせる訳にはいきません。できれば他の物に変えて頂けないでしょうか?」


「ちょっと着いてきてもらうだけだぞ。」


「なおさらです!ニシジオリの国の使者である彼の身に危険が迫ればツルガルの名折れ。国同士の諍いに発展してもおかしくないのです。」


毅然とドラゴンに対峙する船長さんがカッコいい。今まで探し物の旅に出る時にこんなに守ってもらった事なんて無いんだ。いつも偉い人が一方的に命令して、ボクは疑問を挟む事さえ許されなかったんだから。


「ワレはドラゴンぞ!そのワレが保護すれば危ないことなど、ほとんどない。」


侮辱されたと感じたのかソンドシタ様は大きな口で威嚇する。けど、そもそもドラゴンのソンドシタ様が怖くて、連れていかれたら何をされるか分からない。それに『ほとんどない』と断言できていない事も怖いんだよね。話を聞いているとお姉さんに逆らえないみたいだし。


お姉さんに不審な物を調べに行くように言われて浮揚船まで飛んで来たり、お姉さんの許可が無ければ薬のレシピを教えられなかったり、お姉さんの許可が無ければ里への出入りも許可できなかったり。お姉さんの言いなりみたいなんだよね。


「それでは、ドラゴンの里にヒョーリ殿を連れて行けるのですか?」


船長さんはソンドシタ様の威嚇に怯えたのか話題を変えた。ソンドシタ様はドラゴンの里に人を入れるにはお姉さんの許可が必要だと言っていた。ソンドシタ様はお姉さんに弱いみたいだから、お姉さんの話をすればソンドシタ様も引き下がると思ったんだろう。


「占い師は白い姫の加護を受けている。他の者を連れて行けば姉上が激怒するかも知れぬが、白い姫の加護を持つ者を遠ざけたりしない。」


白い姫と言われてボクは魔王の城にいた姫様を思い出したけど、姫様に何かをされた覚えはない。


何のことかと頭を悩ませていると、ソンドシタ様は太い指をボクの方に差し出した。あまりに大きくてどこを指しているのか分かりにくいけれど、それは腕、ボクが身に付けている腕輪を指していた。


ボクは不安になってソンドシタ様から腕輪を隠すように反対の手で隠して身をよじると、黒い霧が体を包み、白い明かりがくるくると安心させようと飛び回る。白い姫様にもらった魔道具の腕輪が動いてしまったんだ。


「な!?ヒョーリ殿これは?」


ボクは浮揚船の人たちに魔王の城に行ったことを話していなかった。魔王の城に行って、それがきっかけで勇者アンクスの頬を殴ったとは言えなかった。それを言えばせっかくツルガルにまで来て噂が消えるのを待っているのに、ツルガルでも噂が広がってしまう。


王宮でお世話になったのは図書館の整理が上手かったからで、定期的な配達人とは別にボクがツルガルへ来たのは、ニシジオリの王妃様がツルガルの王妃様に朗読をプレゼントをしたかったからと伝えていた。


ツラケット様に会うまでアテラ様の手紙に朗読の話が書いてあるとは思わなかったけど、嘘じゃ無いよね。


「知らんのか?魔王の庇護にその娘の白い姫の加護。ワレもこの目で見るまでは信じられなかったが、あの姫が人間に自分の加護を付けた物を渡すとは。相当に気に入られたみたいだな。」


「魔王?」


どう説明するか悩むボクを遮ってソンドシタ様が補足してくれるけれど、魔王の庇護の一言に浮揚船の兵士たちはどよめいた。


勇者アンクスが倒した魔王がボクを護っている。白い姫様と言われても他の人には誰の事か解らなかったのに、魔王の名前を聞けば誰もがその逸話を知っていた。魔王の森の奥深く、魔王の住まう城がある。魔王は森を広げていて、人間の住む村を畑を侵していく。


魔王の脅威は魔王の森に面しているニシジオリの迎えている危機だけど、ニシジオリが魔王の森に埋まってしまえば次はツルガルの国へ森が広がってしまう。


そして、魔王の森は今、急速に広がりを見せていた。


ニシジオリの国は広がる魔王の森から逃げるためにツルガルに戦争を仕掛けようとさえしている。ツルガルの国にも魔王の話は伝わっていたんだ。


「ああ、魔王だ。そして魔王の庇護だけじゃない。木の枝の形をした人の魂に永遠の鉄。安息の糸まで身に付けている。どれもこれも簡単に手に入る物じゃない。ただの占い師ではないのであろう?」


次々にソンドシタ様の指はボクの体をなぞっていく。木の枝の形をした人の魂はジルの事で、永遠の鉄は薪割りの剣の事らしい。愚者の剣とも呼ばれた勇者の剣だ。そして、安息の糸は、最初は分らなかったけれど、どうやらジルとボクの指に巻いたカプリオの毛の事らしい。


兵士さん達はぽかんと口を開けた。みすぼらしいと感じてさえいたボクの杖代わりの枝を、ボロボロで役に立たないと思っていたボクの剣を、ドラゴンが素晴らしいと絶賛したんだ。


「その占い師を剣聖の孫娘が護っている。剣聖と呼ばれた男は話を聞かなかったが人を見る目はあった。」


船長さんに兵士さん、みんながボクを唖然とした顔で見る中、ヴァロアだけがニコニコとしている。いつの間にか、ヴァロアが女の子だとソンドシタ様が明かしてしまっているけれど、それを疑問に思う声もない。


いや、なんか、ボクがすごい人みたいに聞こえるんだけど。


これは全部もらった物なんだよ。



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次回:大地を揺るがす『笑い声』



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