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操鳥室

第8章:ドラゴンなんて怖くないんだ。

--『操鳥室』--


あらすじ:浮揚船で出発した。

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仕事は無いはずだった。


真っ直ぐに飛べる空の上、17人しかいない狭い場所。


ボクにできる事は無くした物を探す事だけで、狭い船の中で誰も何も無くすことなんて無くて、ボクの仕事はたまに確認のために呼び出されるか『ソンドシタ様の心臓』のすぐ近くになってからだと思っていた。


浮揚船があれば『ソンドシタ様の心臓』の位置までまっすぐ進めるよね。


初めて見る空の上でドラゴンが怖い存在じゃ無い事を祈る日々。


そうなると思っていた。



何も無いツルガルの大地に見飽きた頃、ボクの居場所は操鳥室に決まっていた。


操鳥室は船を牽いて飛ぶマチャを見ながら行き先の合図を出すために見晴らしが良く、船を動かすための中心的な人達が集まって進路を決める大切な部屋だ。


操鳥室はボクを必要としてくれていたし、誰かしら人がいてお喋りを楽しむ事もできる。


最初は嵐が明けた日に呼び出された。


浮揚船が強い風に流されてしまって自分たちの位置が判らなくなったんだ。突然の嵐が来れば浮揚船を牽くマチャを船に戻して『ふわふわりんりん』の力で浮揚船が風で流されないように空中に留めながら着陸する手順だったらしいけど、アグドが何かやらかしたらしい。


操鳥室には必ず北を指すという不思議な針や変な形の杖なんかがあって、太陽や星の位置、そして地平線から自分たちの位置を割り出している。『帆船の水先守』を使うヴァロアが詳しくて使い方まで教えてくれてツルガルの兵士の人たちも感心していた。


でも、ボクの方が確実に目的地の『ソンドシタ様の心臓』の場所を指し示すことができる。太陽を見つけるために雲の切れ間を探す事も、星を見るために夜まで待つ必要も無い。風で流されてしまっても、前が見えないくらいに雨が降っても、ボクは必ず同じ位置を指すことができたんだ。


「悪いが、オレ達もあまり経験が無くてね。念のために『ソンドシタ様の心臓』の方角をもう一度教えてくれないか?」


ボクはすぐにジルに頼んで『失せ物問い』の妖精に問いかける。


「もう少し、右の方向だと思います。」


ボクは答えてから『失せ物問い』の妖精が答えてくれた方向と距離から地図の一点を指し示す。そこが逆算した今の浮揚船の位置になるはずだ。


「なるほどね。それでレースの砂嵐の中でも道に迷わずに進めた理由か。」


ウズケルさんが感心してボクを褒めてくれた。『禁じられた羽ばたき』を使うウズケルさんは嵐の時には必ずと言っていいほど操鳥を任されていた。飛べないビスをも空を駆けさせる『禁じられた羽ばたき』はマチャにも有効らしく、万が一の時に他の人より無理が効くのだそうだ。


ちなみに、船長をしているサスネェさんの『英雄劇薬』の力はひとつの対象にしかかけることができなくて、数十羽もいるマチャには効果が無い。曰く、英雄はふたりも要らない。だそうだ。


サスネェさんの『英雄劇薬』は万が一ドラゴンとの話し合いが決裂した時に、ウズケルさんの『禁じられた羽ばたき』は浮揚船で逃げることになった時に、切り札として期待されている。


たった17人でドラゴンに勝てるとは思っていないから、ツルガルの意向としては平和的に話し合いで解決を望んでいる。どのみちボクの『失せ物問い』に反応しない『ドラゴンの点鼻薬』は存在していないんだから、ドラゴンにお願いして作ってもらうか、作り方を教えてもらわなきゃならないんだよね。


嵐の次の日に恐縮されながら操鳥室に呼び出されても、ボクも何も無い部屋で退屈を持て余すより頼られている方が嬉しかった。見晴らしも良いし、船の進み具合が分かるからやきもきする事も無い。


そして、ボクが居る所にはヴァロアが付いてくる。


ヴァロアが付いてくれば音楽が流れる。


それ以来、ボクはたびたび操鳥室に呼び出されて少しずつみんなと仲良くなったんだ。アグド以外と。



その日も操鳥室で過ごしていたボクの耳にサスネェさんたちが相談する声が入ってきた。


「まだアマフルの群れは見つからないのか?」


かなり北へと進んでいて、最近は遊牧されているアマフルの群れ、つまりそれを飼っている人たちを見る機会も少なくなっている。


「果物が少なくなっているらしいから少しでも確保しておきたいんだがな。」


試作で作られた浮揚船には長旅をするためのちゃんとした施設は少なくて荷物を乗せられる量も少ない。マチャのためのエサや荷物が廊下まであふれているし、寝る時だってベッドなんて無くて、交代でハンモックを吊るして寝ているんだ。


もちろんヴァロアはまだ男だという事になっいて、噂も変わらずからかいの種だ。


長旅になる事は解り切っていたから保存食としてレースでも食べた携行用の水で膨らむモンジの団子やアマフルの干し肉が保管されている。


でも、毎日モンジの団子と干し肉じゃ飽きるよね。


同じ景色で飽きているから食事くらいは楽しみたい。ツルガルの国を越えて、ドラゴンの領域に入ったら人は住んでいないと言う。補給は見込めなくて保存食ばかりになってしまうから、なおさら今の食事を楽しみたい。ニシジオリの料理とは言わないけれどね。


それはツルガルの兵士たちも同じみたいで、長旅になると決まった時に急いで備え付けられた厨房があって工夫された料理が出てくる。料理のために街や遊牧している人を見つけて買い出しに行っているんだ。


「ヒョーリの『失せ物問い』で近くのテントが解らないか?」


マチャを操る笛を片手に窓の外を見ていたウズケルさんが尋ねてくる。遊牧をしている人は持ち物が少ないから多くの買い出しはできないけれど、少しは足しになる。


「無理ですよ。せめて集落の名前くらい解らないと。」


ボクの『失せ物問い』の妖精は誰かの持ち物じゃないと答えてくれない物が多い。人間は探せないし、物の名前から絞れないと難しいみたいなんだ。たまに子供とか木の実とか例外があるから良く分からないんだけど。


だから、特定できない『誰かの集落』なんて曖昧な質問には答えてくれないんだ。念のためジルが言葉を考えて『失せ物問い』に問いかけてくれているけれど。成果は期待できそうにないよね。


「そうか。オマエがいれば、いちいち頭を使わなくて済むから便利なんだけどなぁ。」


あまり、期待をしていなかったのかサスネェさんは気を落とさなかったのでホッとする。


「街みたいに名前があれば方向が分かるんですけれど。」


「たしか、この辺りに街が有ったはずだ。街があれば考えずに済むよな。」


うきうきとしたサスネェさんが机の上の地図を指でなぞる。遊牧の人たちの国でもオアシスの街のような街がいくつかあるらしいけれど少ない。地図で示された街の名前で『失せ物問い』の妖精に尋ねた。


「えっと、ここからだと、あっちに5日くらいですよ。本当にこの街ですか?」


ボクは船の後ろに向かって指さした。


そう言えば、最近は方向の確認はあっても距離までは聞かれていなかった。


「ん?ちょっとおかしくないか?なんで5日も戻るんだよ?」


地図との位置を確認しようと変な形の杖を使って太陽の角度を測っていたサスネェさんが眉をひそめた。何度も杖の位置を動かして地平線と太陽の位置を調整しているけど、思った通りの結果が出ないらしい。


「あ~、この角度だと今はこの辺りっス。」


山も森も目印の無いツルガルでも太陽や星の位置から位置を計算することはある。でも、それは遊牧をする人たちの知恵で海を行く船乗りほど頻繁には行わないし、ましてや王都で暮らしているサスネェさん達は習ってはいたけれど、使いこなせていなかった。


ヴァロアの指摘に騒然とした時、マチャを操る笛を片手にしたウズケルさんが驚きの声を上げた。


「おい、もう白の大地が見えてきたぞ。」


予定よりも早い到着に騒然として、みんなで窓へと近寄っていく。


信じられないほど透き通った空にくっきりと浮かぶ地平線に、地面が白く輝いて見えていた。



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次回:豪快なオバちゃんの『焼き団子』



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