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第8章:ドラゴンなんて怖くないんだ。

--『船』--


あらすじ:ずいぶん遠くに行かなきゃならないらしい。

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出発は朝早くだった。


陽の昇る前の薄ぼんやりとした空の頃には、王都を乗せたアズマシィ様を降りてカプリオの背の上の旅人に戻った。ドラゴンに会うための旅人に。


とは言え、今度のたびはツルガルの国を挙げての旅になるから、ボク達の他にも多くの人がいる。10名からなるドラゴン探索隊と、見送りに5人の兵士がいる。


ドラゴン捜索隊で知っている顔ぶれは、『英雄劇薬』のサスネェさん。『禁じられた羽ばたき』のウズケルさん。そして、『ふわふわりんりん』のアグド。


そう、アグドまでいるんだよ。


レースでヴァロアが手に入れたマティちゃんの元の飼い主で、レースで街を5周まわる所を4周しかしなくて失格になったアグドは、普段は他のツルガルの人と同じようにアマフルを放牧して暮らしている。


そのアマフルを盗んだと言いがかりをつけられてボク達はレースに参加する事になってしまったんだけど。


ただ彼の場合は他の遊牧している人たちとは違って、ずっとアズマシィ様の足元について周っているのだそうだ。とても有効な『ギフト』を持っているから。


脚だけでも魔王の背丈数人分の長さの大きな魔獣であるアズマシィ様の上に王都がある。


王都は柵で囲まれているけれど時々その柵から身を乗り出して越えてしまう人がいる。酔っ払いとか。ほとんどの人はアズマシィ様の体にへばりついている間に救助されるけれども、極稀に力尽きて落ちてしまう人がいる。巨大なアズマシィ様から落ちれば助からないよね。


その時がアグドの本当の出番だ。


『ふわふわりんりん』の『ギフト』は硬い地面や触る事の出来ない空気を柔らかくすることができる。レースで足止めをさせられた時に触れたけれど、ふわふわして踏ん張って立つことができなくなるんだ。


そう、『ふわふわりんりん』をアズマシィ様や高い所から落ちてしまった人を助ける事が彼の本当の仕事なんだ。本来なら王都の衛兵として雇われるんだけど、性格に問題があるからって衛兵になれなかったんだって。


レースのスタートでもゴールでも邪魔してきたし、いきなりボク達に切りかかってきたんだから当然だと思う。


「なんだよ?また笑いものにしたいのか?」


「いえ、別に。」


隣で欠伸をする憎らしい顔を見ている内に自然と唇が尖ってしまったボクをアグドが咎める。彼がボクの護衛だなんて信じられないよね。変えてもらいたかったけれど、『ふわふわりんりん』の他の使い手は衛兵として働いていて王都から離せなかったらしい。


彼に白羽の矢が立ったのは解るけれど、何か有るたびに突っかかってきて居心地が悪いし、いざという時に裏切られそうで怖いんだ。


「そろそろ予定の場所だ。ここで一息入れるから最後の確認をしてくれ。」


『走禽類の矜持』のエパダタさんがビスに乗るドラゴン探索隊に向かって声をかける。残念ながら彼は留守番でここから引き返す事になっている。


アグドが帰ってくれれば良かったのに。


エパダタさんの『走禽類の矜持』はビスの走る速度を速めるだけでは無かった。彼の『ギフト』を使えば誰も乗っていなくても、ビスを自在に操ることができるんだ。ドラゴンを探すために出発した総勢10名の乗る10羽のビスをまとめて王都へ連れて帰るために彼はいるんだそうだ。


ドラゴン捜索隊の人たちが準備をしている間に、見送りの兵士が人気が無い事を確認してアマフルのフンを焚いて狼煙を作った。


ここはツルガルの遮る物も何もない大地の中でも特に何もない場所。まっ平らな地平線が四方に続いて丸くなっている。ツルガル王妃、ツラケット様の奥の手を言葉通り『ナイショ』にできる場所。


白い狼煙が朝焼けの空に赤い筋になり、しばらくすると影ができ空が落ちてきた。薄い点だった影が徐々に楕円を描いて大きくなる。


見上げれば円を前後に伸ばしたような楕円の大きな球、エパダタさんの説明だと軽気玉と呼ぶみたいだ、その軽気玉の下にはニシジオリの大きな川でも見た事もない大きな船が付いていた。


「大きいね。」


「遠海に出る船はこんなもんじゃないッス。そうッスね。大きめの小型船ってトコッスか。小さな船が海に浮かぶだけでも不思議だったッスけど、空にまで浮かぶなんて信じられないッス。」


「はん。田舎者めが!」


「こら!アグド!」


ボクは軽気玉を含めた全体を指して言ったつもりだったけれど、『帆船の水先守』の『ギフト』を持つヴァロアは船の方に興味があるらしく海の船との違いを探している。ツラケット様から『浮揚船』の話を聞いた時から目がキラキラしてたもの。


『ドラゴンを少しでも早く見つけるために船を使うわ。』


『船ッスか?海も川も無いっすよ?』


あの日、ツラケット様の言葉に被せるように問い返したのはヴァロアだった。男の格好をしたヴァロアがツラケット様達に気に入られているとはいえ、もう少し大人しい言動をして欲しいと思ったのは何度目か解らない。


『空飛ぶ船なのよ。だからナイショにしていてね。』


『船が空を飛ぶんスか!?見たいッス!大冒険ッス!歌いたいッス!』


興奮するヴァロアを宥めたツラケット様の話だと最近になって大型化に成功した最新の舟なんだそうだ。成功とは言ってもまだ試作品みたいで、あちこちが手直しされていて継ぎ接ぎになっている。


船を空に浮かべるためには風の魔法で『早い空気』と『遅い空気』に分けて、大きな袋の中に『早い空気』だけを詰め込めば浮くようになるらしい。言っている意味はさっぱり解らないから話は右から左へと抜けていった。


『そんなに簡単にツルガルの秘密を話しちゃって良いんスか?』


『大丈夫よ。貴女たちはきっと黙ってくれるもの。それに空気の速さにも違いがあるという知識を教えてくれたのはこの子を作った賢者なのよ。私達はその知識を研究して船を空に浮かべるために使っただけ。』


ボクは『歌いたいと』言っていたヴァロアに黙っているように睨んでいたけれど、ツラケット様は体を預けていたカプリオを愛おしそうに撫でていた。この子と呼ばれたカプリオを作った賢者様は勇者グルコマに勇者の剣と愚者の剣を作でもある。


さすが賢者様名だけあって色々な事を知っている。


カプリオは懐かしそうに目を細めた。


ただ、空気に『早い空気』と『遅い空気』があるという知識だけじゃ浮揚船は作れないみたいで、そこから先は秘密だと言われてしまった。特別な場所に行って特別な袋に風の魔法を操って『早い空気』だけを入れないといけないらしい。いや、それも言っちゃいけない秘密だと思うんだけど。


『その船で王都まで迎えに来てもらえないんスか?』


『もちろん王宮にも飛んでくる事は出来るわ。でも、言ったようにナイショなのよ。どこに技術を盗もうとしている人が居るのか解らないでしょ?できればオイナイにも知られたくないわ。』


勇者を擁するニシジオリが戦争を仕掛けてきた時、空飛ぶ船はツルガルにとってアズマシィ様に次ぐ切り札になるかも知れないらしい。勇者アンクスですら手の届かない空まで飛んで、上から石を落とすだけでも勝てるかも知れないからね。


だから大使であるオイナイ様をはじめニシジオリの人間にはなるべく知られたくなかった。でも、その切り札を切ってでもアズマシィ様の鼻のムズムズを止める事が優先されたんだ。


羽根を持つ鳥以外にはドラゴンしか飛ぶこと許されなかった空。


「おい!ボヤボヤしてないで、さっさと乗り込め!置いて行くぞ。」


アグドに急かされて、ボク達は空を飛ぶ舟に乗り込んだんだ。



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次回:柔らかそうな『白い雲』



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