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持ち物

第8章:ドラゴンなんて怖くないんだ。

--『持ち物』--


あらすじ:ドラゴンの住処を探す事になった。

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ドラゴンの持ち物を探す事は難しかった。


ジルがどんな問いかけをしても『失せ物問い』が返事をくれなかったんだ。


ドラゴンの鱗はどこにあるか?ドラゴンの宝物はどこにあるか?ドラゴンの宝剣はどこにあるか?ジルだけじゃなく、ツラケット様やオイナイ様に協力してもらってドラゴンの持っていそうな物を考えて貰ったんだけど、上手くいかなかった。


今から思えばきっと人間の髪の毛はどこにあるか?人間の宝物はどこにあるか?人間の宝剣はどこにあるか?と聞いていたようなものだったんだと思う。『失せ物問い』の妖精が答えないのも当たり前だよね。


人間が喉から手が出るほど欲しいと望むドラゴンの鱗も、ドラゴンにとってはありふれた物だったんだよね。人間の髪の毛みたいに。宝物だってたくさんあるし持っているし、人によって宝物と呼ぶものは違う。


宝剣だってありふれている。ボクが腰にしている薪割りの剣、勇者が使ったという愚者の剣だって宝剣と言えるかも知れないよね。


そう、ドラゴンは1頭じゃない。


『魔法の始まりの話』では、神様から魔法を授かったドラゴンは複数いた。どれだけの数のドラゴンがいるのかは解らないけれど。そして、物語の途中で1頭のドラゴンに焦点を変える文がある。それはツラケット様の資料室で調べ直した本でもヴァロアの歌でも同じだった。


ドラゴンはたくさんいるんだ。


ジルのためにと震い起こした勇気がぽろぽろと崩れてしまいそうだった。


ドラゴンだよ?1頭でも怖いと思うのに、たくさんのドラゴンがいるかも知れないんだ。それに、もし1頭だけではぐれているドラゴンと出会えたとしても、ドラゴンの点鼻薬を知らないかもしれないじゃない。そうなれば振り出しに戻ってしまう。


でも、ツルガルの王妃様に自分からお願いした以上、今さらやめるとは言いだせなかった。隣にはジルだっているんだ。


ドラゴンは複数存在すると気付いてから、ボクはドラゴン以外の資料を探し始めた。その頃調べていたドラゴンに関係ありそうな資料では『失せ物問い』の妖精が応えてくれ無くて行き詰っていたのもあるけれど、人間が記したドラゴンの資料には個別の名前なんて書かれてなかった。


ドラゴンに嫌われた人間が複数のドラゴンに会う事は少なかったから、資料にはただドラゴンとだけ記しておけば事足りたんだ。


『魔法の始まりの話』にはドラゴンと人間以外にも登場人物がいる。『森の人』だ。


ボク達は『森の人』の資料を探した。ドラゴンといっしょに住んでいるなら彼らはドラゴンを名前で呼んでいるかも知れないからね。ジルの受け売りだけど。


『森の人』の側にいるドラゴンは人間を嫌っている可能性が高い。『魔法の始まりの話』で『緑の人』から人間がドラゴンの魔法を盗んでいるからね。でも他に思いつく方法も無かった。


『森の人』は人間とほとんど接点の無かったらしく資料もほとんど無かったけれど、『魔法の始まりの話』よりも古いと思われる森の人の資料にはいくつかの名前が出てきた。その度にドラゴンの時と同じように『失せ物問い』の妖精に問いかけてみたけれど失敗が続いた。


その時の名前はドラゴンの名前じゃ無く、『森の人』の名前だったんじゃないかと思う。森の人だって1人じゃ無いかも知れないよね。


苦労の末にボク達はひとつの名前を発見した。


『森の人』が大切にしている物。


「そう。それが『ソンドシタ様の心臓』と言うわけね。」


いつも通りツラケット様はカプリオにもたれかかってボクの話を聞いていた。


何度もこの広間に呼び出されているからなのか、訪れるたびに色々な物が増えて便利になっている。最初に通された時の人を迎え入れるために不自由のない部屋と言う印象は薄れて、ツラケット様がカプリオにもたれて1日を過ごすために快適な部屋に変わっている。


ボクがツラケット様に資料室を借りている間に、ツラケット様はカプリオを招き入れていたからね。ニシジオリの王妃アテナ様もカプリオを気にいって図書館に色々な物を運び込んでいたから、王妃様ってワガママなのかも知れない。


侍女の人たちも大変だよね。


ラケット様の謁見で前回と違っているのは、2人の王女様がいない事と、ツラケット様が最初から為政者の目をしている事だ。最初から為政者の目をするならカプリオじゃなくテーブルに着いた方が威厳が出ると思うんだけどね。


「はい。その『ソンドシタ様の心臓』と呼ばれる物がこの辺りにあると、ボクの『ギフト』は告げました。」


ツラケット様の前の床に広げられた大きな1枚の地図の空白の一点を差してボクは答えた。ボクから見て地図の手前の右側。地図はツラケット様に向けて広げられているから北東の端になる。


ツルガルの地図なんて初めて見るけれど、ジルの助けを借りて問いかけた『失せ物問い』の妖精の囁きは迷うことが無かった。


「この太い線が囲っている場所が私達の治めている土地で、今はこの辺りに居るのよね。そして、ここがレースをした街で、ここがニシジオリの国の王都。これで解るかしら?」


カプリオに寝そべったまま細長い棒で地図を指し示してツラケット様はボクに地図を説明してくれる。地図にはいくつかの曲がりくねった太い線で囲まれた場所があって、それぞれが国を示しているらしい。ツルガルは地図の中央よりすこし上にあって広い。ニシジオリの国がいくつも入ってしまいそうだ。


それを踏まえてツラケット様の問いかけを考えると、ボクがニシジオリの王都からレースをしたオアシスの街まで旅をした距離と、今のツルガルの王都がある位置から『ソンドシタ様の心臓』がある距離まで、だいたい3倍の距離がある。


つまり今までの旅の道程の3倍、いや往復したら6倍の距離を行かなければならない。遠く昔の話にしか出てこないドラゴンは、こんなにも人間と離れて暮らしていたんだ。


「ものすごく遠いんですね。」


「間には山もあるから半年や1年では済まないわね。それにそこは寒いのよ。」


『魔法の始まりの話』でドラゴンが神様から暖を取る魔法を与えられたくらいに寒い場所で、人間は到底住む事ができない。だから、ツルガルの国を囲む線もドラゴンの住んでいる場所を囲えないそうだ。


「北の方に氷で閉ざされた土地があるって聞いた事があります。」


「私達の領域の外で解からない部分もあるわ。長い時間がかかる。戻って来るまでアズマシィ様が持ちこたえて下さるかどうか。」


5年の月日を持ちこたえてくれたんだから、まだ大丈夫だと楽観していたけれど、アズマシイ様の意志を感じられるツラケット様はあまり時間が残されていないように感じているらしい。


「だからね、奥の手を使おうと思うの。ナイショにしてくれる?」


ツラケット様は為政者の目を緩めて笑顔になると人差し指を口に当てたんだ。



数日後、ボク達は空の旅に出た。


信じられる?ツルガルの船は空を飛ぶんだよ!



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次回:空を飛ぶ『船』



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