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大きな穴

第8章:ドラゴンなんて怖くないんだ。

--大きな穴--


あらすじ:まだ本題が残っているらしい。

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ボクは大きな穴の前でゴクリと唾を飲んだ。


泉の水を飲み終えたアズマシィ様はオアシスの街を離れて歩き出しているから、景色はゆっくりと動いていた。王妃様にお目通りしてからも数日、王都に泊まっているけれど、歩く大きな魔獣の上で暮らしているなんて思わないほど静かに歩いているんだ。


ここは街の外が良く見える場所。


遠くまで見渡せるんだ。


(危険は少ないって話だ。気楽に行こうぜ。相棒。)


ジルとヴァロアの他に10人のツルガルの精鋭たちが並んでいる。今からこの大きな穴に入るための精鋭だ。いや、ここまで来るだけでもアズマシィ様の背中から降りたり登ったりして大変だったんだから、すでに戦友と呼べるかも知れない。


まぁ、ボクはヴァロアといっしょにカプリオに乗っていただけだけど。


10人の精鋭の中にはレースで前回の優勝者、『黄金鐘の調律』のカラキジさんに、『英雄劇薬』を使うサスネェさんも混じっている。彼らは王都を護る兵士だったんだ。王様にレースで認められて雇われて、それ以来もレースに参加して腕を磨いているのだそうだ。


ボクは今からこの暗く深く続く穴の中に入らなければならない。戦友と共に。


カラキジさん達はすでに何度かこの穴に入ったことがある。でも、その全貌は計り知れなくて、未だに最奥まで辿り着いた者はいない。途中には立つこともできないほどの風が吹く場所や、地面が脈打つ場所。触れるだけで体を溶かす池だって有るのだそうだ。


「がんばってね。お土産はいらないよ。」


残念ながらカプリオは見送る側にいる。広い穴とはいっても、この先にカプリを連れて行く事はできなかったんだ。穴の中は枝分かれして狭くなる部分もあるし、ボクがカプリオを連れて行けば他の人たちもビスを連れて行きたがるよね。


暗く濁った穴からは、じっとりと獣臭さの混じる湿った空気が噴き出してくるけど、定期的に風向きが変わって外の乾いた空気を取り込むんだ。穴の高さはボクの身長の何倍もあって、10人が横に並んで進める。


洞窟。


そう呼ぶのは不適切だ。


なにしろ、これはアズマシィ様の鼻の穴なんだから。



ツルガルの王妃、ツラケット様が最後に言いだした『本題』はボクにあるものを探して欲しいとのことだった。それは簡単には見つからなくて、でも、放っておけばツルガルの王都崩壊の危機になりかねない。


「鼻がムズムズする。」


アズマシィ様の背中の上に造られているツルガルの王都には、『大街獣の耳打ち』というアズマシィ様と意思の疎通ができる『ギフト』を持つ人がいる。ツルガル王妃、ツラケット様だ。『大街獣の耳打ち』を受け継いでいるから王族として認められ統治しているんだ。


けど、アズマシィ様はカプリオのように自在に話せる訳では無くて、断片的な言葉で語りかけてくるだけだし、ツラケット様の願いをすべて叶えてくれるとは限らないらしい。つまり、ツラケット様がアズマシィ様を操って自在に行き先を決めたり、街を踏み潰させたりはできないのだそうだ。


アズマシィ様が自ら潰す意思を持てば別だらしいけども。


それでもアズマシィ様の行き先を事前に知り人間の都合を伝えて、アズマシィ様の軌跡とも呼ばれる主食、モンジの栽培を計画できるだけでも十分に利益のある『ギフト』となるとオイナイ様は言っていた。


ある日、ツラケット様は『鼻がムズムズする』というアズマシィ様の言葉を聞いた。アズマシィ様の鼻がムズムズするだけなら問題ないと思うよね。だけど、王様、ひいては王都に住んでいる人たちにとっては大問題だった。


アズマシィ様がくしゃみをするかもしれない。


ボク達がくしゃみをすした時も肩が跳ねたり、場合によっては足が浮いてしまうこともある。ツルガルの王都を乗せているアズマシィ様がくしゃみをすればどうなるか。考えるまでもなく大惨事が引き起こされる。


家具は倒れ人々が宙に浮き、叩き落される。


幸いにして王都の家はアズマシイ様の背中に貼りついているので家が倒壊する事はないみたいだけれども、屋根が落ちたり花瓶が飛んだり、店に並んだ商品だってどこに飛んで行くか分かったものじゃ無い。


では、なぜ人間は王都から逃げ出さないのか?


アズマシィ様の鼻はすでに5年ほど前からムズムズしているからなんだ。数日王都から逃げ出すだけなら暮らしていけるかもしれないけれど、何年も王都の外で暮らすだけの地盤を作ることは難しい事だった。いちどは逃げ出した人たちも1月も経たずに戻ってきたんだ。


アズマシィ様に乗っていれば、それだけであちこちを回って商売ができる。特別にビスの商隊を組んで歩き回らなくても、家に住みながらにしてツルガルの国中を回れるし、食べ物にも困らない。


ツルガルの人もボク達ニシジオリの人間と同じように『ギフト』を授かっているから、新しい仕事に『ギフト』が合わなければ生活がままならなくなってしまう。『ギフト』を持たなければ、いくら努力しても足りないんだ。


野菜を作っても『土の聞手』の『ギフト』を持つ人と同じだけの量を作れないし、味だって敵わないものね。


アズマシィ様がムズムズすると言ってから5年もの間、都の人たちは緊張のなか暮らしてきた。王様もツラケット様もその解決に頭を痛め、何度も鼻の穴の中にカラキジさん達による調査隊を送ってみたけれど原因は解らなかったんだ。


ワラにもすがる思いでニシジオリの国へも使いを出した。それが、ボクがツルガルへ来る原因にもなったんだ。ボクの『ギフト』、『失せ物問い』で確実に見つかるとは限らないけれど、ニシジオリの王妃、アテラ様はツラケット様を助けるつもりだったんだ。


先に言ってくれれば逃げられたのに。


いや、王女様の侍女、カナンナさんに魔王の森での苦労話をした時に何度も行きたくなかったとボヤいてしまったのが悪かったのかもしれない。アテラ様はボクを逃げられないようにしたんだ。もしかすると、ボクがツラケット様に話を聞いて驚く姿を想像していたのかもしれない。


あの方は本当に人を驚かせるのが好きなんだから。


ボクの家庭教師をしてくれた時のように。


ともあれ、逃げられないようにお膳立てされた依頼だったけれど、ボクの『失せ物問い』は原因を教えてくれた。いや、正確には原因ではなく、原因となる物がある場所を教えてくれたんだ。


『アズマシィ様を悩ませる鼻をムズムズさせる物はどこにある?』


『失せ物問い』では人や原因を探してくれないけれど、物は探してくれる。ボクとジルとで悩んで、悩んで言葉を探して『失せ物問い』の妖精に聞いたんだ。1日近くも悩んだんだ。


結果を聞いて大喜びした王妃様は王様に報告して再調査隊が組まれる事になった。再調査隊は以前にも鼻の穴の中を探検している人から選ばれる事になったんだ。


その時には嫌な予感がしてたんだ。


勇者の剣を探しに行く時がそうだったんだから。


ボクはアズマシィ様の鼻の穴の奥へと行く再調査隊に加わることになってしまったんだ。



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次回:鼻の穴を行く『再調査隊』



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