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招待

第8章:ドラゴンなんて怖くないんだ。

--招待--


あらすじ:ツルガルの王妃様に会うように言われた。

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ここはツルガルの王宮の一室。


ツルガルの王妃様の名前はツケラット様とおっしゃった。


広い部屋の真ん中にでんと座るカプリオにツルガルの王妃様、ツケラット様は寄りかかり寝そべっていた。


まだあどけなさの残る幼い2人の王女様達も。


ボクは目を丸くするしか無かったんだ。



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勇者アンクスを殴ったことを知って気を良くしたオイナイ様の家でお世話になる事になった晩は、ヴァロアが王宮へと招待された日だった。ヴァロアはレースで優勝したご褒美に王様が開くパーティに招待されたんだ。


レースあった日の晩に大勢の街の人の前で表彰されていたけれど、小樽いっぱいにもなる賞金は警備の問題でその場では渡される事は無かった。


そこにはレースが終わってエフリゴキ様が主催した慰労会で酔いつぶれるほど飲ませると言う配慮があったのだけれども、ボク達は酔いつぶれるよりも早く、疲れて泊めてもらっているお屋敷へと戻ってしまった。


賞金も受け取らなきゃならないし、王様に招待される事も名誉な事だし、ヴァロアは喜んで出かけていった。王様の主催するパーティで歌声を披露することができれば吟遊詩人として売り込むときに謳い文句になるって喜んでいたよ。


ボクは招かれていなかったので、オイナイ様と夕食の約束してたんだ。


機嫌を良くしたオイナイ様は饒舌だった。いや、壁に向かってしゃべり続けるくらい元から口は達者なようだから、今まで壁に向けられていた事がボクに向かってきただけなのだけれども。


夕食の席にはニシジオリの食べ物とお酒が並べられた。


どれもこれもボク達がカプリオの牽く幌馬車に載せて運んできたもので、オイナイ様が久しく食べていない味ばかりだ。ニシジオリの生まれだと言うオイナイ様といっしょに働く人や下働きの人、20人ほどの人たちが集まっての食事会になった。


王妃様の言う通り彼らはみんなニシジオリの味に飢えていた。


定期的にくる配達人は速さを優先しているのであまり多くの物を持ってくる事ができないらしい。幌馬車から降ろして並べたニシジオリの品々を摘まんでは喜んで口々にボク達を労ってくれたんだ。


わざわざ持ってきた甲斐があったよね。


オイナイ様といっしょに働く人たちはボクが持ってきた手紙を早急にツルガルの王様へと運んでくれると息巻いてくれた。さっさと仕事を終わらせてゆっくりしてくれという事らしい。


ボクの仕事は手紙を持ってくるだけで終わりだと思っていたけれど、ツルガルの王妃様に会わなくちゃならなくなったからね。


それに早くオイナイ様の家を出たいとも思っている。


貴族様が住む豪華な家にお世話になるのは疲れるんだ。


オアシスの街の領主様、エフリゴキ様に貸してもらった部屋だって綺麗な風景が描かれた壺や色とりどりのガラスのランプ。高そうな家具が置いてあって、いつ壊してしまうかとヒヤヒヤして心臓に悪かったんだから。


オイナイ様に案内された部屋はエフリゴキさんの部屋よりも装飾が少なかったけれど、それでも、ベッドには質のいい生地が使われていて柔らかい。つやつやの布地が破けそうだからベッドに腰を掛ける事も怖かった。


身の置き所の無い部屋の窓際からひときわ明るい王宮を見ていた。


そこはヴァロアが招待された場所で、ボクに頬に触れた柔らかさを思い出させる。


彼女はその日のうちに帰ってきた。


王様の招待だからね。羽目を外して飲み潰れる人もいないよね。


でも、帰ってきたヴァロアは顔を真っ赤にしてボクの方を見てくれない。オイナイ様の家ではすれ違いになるし、次の日に街の見物に誘ってもよそよそしく離れていたんだ。


あの日から少しだけヴァロアとの距離が広がった気がした。



オイナイ様の家でお世話になってから数日が過ぎ、ボクはカプリオとヴァロアとツルガルの王妃様、ツケラット様に招待されることになった。


オイナイ様はオイナイ様とボクだけが会えるようにしたかったみたいだけれども、ツケラット様はボクとカプリオとヴァロアを招待したんだ。


オイナイ様は怒っていたけれど、ツケラット様からは政治の話を抜きにしてボクの朗読を楽しみたいと返事が来た。大使であるオイナイ様を招待すれば自然と国同士の話にも話題に上ってしまうし、他にもいろいろと面倒らしい。


ツケラット様はオイナイ様の代わりにカプリオとヴァロアを指名した。


ボクをレースで活躍させてくれたカプリオと、レースで優勝したヴァロア。ツケラット様からレースでの話を聞きたいとせがまれて、お褒めの言葉を与えたいと返事を貰えばオイナイ様も引き下がるしかなかった。


案内された部屋は体の大きなカプリオを迎え入れることができるくらい広くて、ツケラット様と2人の王女様の周りにはたくさんの侍女の人が働いていた。カプリオを男と判定しないなら男はボクだけだ。


広い部屋はさっぱりとしていて風通しが良い。


普段はいろいろな事に使えるようなホールを飾って出迎えてくれたみたいだ。


こんなホールに人を招いて対面だけするという事は少ないだろうけれど、飾られている品々は急場しのぎのようには見えなくて、それぞれが誂えられて作られているように見える。ちぐはぐな印象をまったく受けない。


その真ん中でツケラット様はだらしない顔を見せていた。


2人の王女様といっしょにカプリオにもたれて。


それだけがちぐはぐだ。


「はぁああ、まぶた重いわ。」


いや、ボクの朗読を聞くんじゃ無かったんだっけ?


もうすでに長い時間、王妃様達の前に立って次の声がかかるのを待っているんだけれども、王妃様はカプリオの寝心地の良さに感動してボクの方へと向き直ってくれない。


ボクは招待されたんだよね?


今日のためにオイナイ様に許可を貰って毎日朗読の練習なんかもして来たんだよ。まったくボクに興味を示してくれない。


一番最初の挨拶ですら聞き流されていた気がする。ずっとカプリオを見てソワソワしてたんだ。


早く朗読を終わらせたいボクの気持ちは伝わらずに王妃様は寝返りを打ってカプリオに顔を埋めようとする。カプリオに顔を埋めなんてしたら、ボクは夜までここで立ったまま待つ事になるかもしれない。


ニシジオリの王妃、アテラ様はそうだったからね。


アテラ様が顔を埋めて寝てしまった時、侍女をしているノーナッテさんが見かねてボクを部屋の外へと出してくれたから助かった。それからしばらくアテラ様は王妃様なのにカプリオに触れていられる時間を制限されたんだ。仕事が終わるまでお預けだって。


カプリオのもこもこの毛に顔を埋めればツラケット様も同じ道を辿ると思う。上の王女様なんてさっきまでしっかり眠っていたものね。可愛い寝息を立てて怒られていた。


「ツラケット様、化粧が崩れます。それよりも、そろそろお客様の相手をしてくださいませ。」


カプリオに顔を埋めようとするツラケット様の首をつかんだ侍女が見かねて声をかけてくれた。王妃様に一番近い立ち位置と身形から、侍女の人の中でも高い立場の人だと思う。王妃様にお小言を言えるくらいだしね。


「良いじゃない。そこの彼がいる時じゃ無いと私はこのコと遊べないんでしょ?アテラが自慢するだけあって、なかなかの寝心地なのよ。」


カプリオの寝心地を十分すぎるほど堪能したツラケット様は、やっとボクの方へとその切れ長の美しい目を向けてくれた。ゴクリと唾を飲んで、ボクは詩の朗読の指示を待つ。


カプリオを背もたれに座り直してキリリと真面目な顔をすると、先ほどまでのだらしない顔が嘘のようで、1つの国を治める王様を支える人だと信じられた。


「それで、どっちが攻めなの?」


お王妃様が疑問を口にした瞬間、ホールの中にいるボクとヴァロア以外の全員の目がギラリと輝いた気がした。たぶん、気のせいじゃない。その証拠に動きやすいようにまとめられた髪の間から見える耳がぴくぴくと動いている。


ボクに気を使って顔を合わせないようにしているけれど、その場にいるみんなが聞き耳を立てているんだ。


たくさんの目、しかも全部が女の人だ、に晒されてボクは焦るけれど、肝心の質問の意図がさっぱり解らなかった。攻めるってなんだろう?何をどう攻めるんだろう。こういう時に頼りになるジルを横目で見てもただの棒きれのようにまったく返事がない。


助けを求めるように隣のヴァロアを見ると、真っ赤な顔でうつむいていた。



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次回:ヴァロアの『着替え』


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