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バケモノ

第7章:隣の国は広かったんだ。

--バケモノ--


あらすじ:カラキジさん達に追い抜かれた。

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「ボクは変じゃない!」


と怒って走り出したカプリオだけれど、彼は全力を出すほど頭に血が上っていない、それよりもちょっと楽しそうだ。


まだ第5チェックポイントを過ぎたばかりでゴールのあるオアシスの街までは距離がある。街に入った後も街の中を5周も走らなければならないからね。いくら第5チェックポイントまでゆっくりして体力が残っていたとしても、今から全力を出したらすぐに疲れてしまう。


走り出したのが抜かれ様に言われた悪口の後だから、ボク達は10羽のビスを追いかける形になってしまった。さっきまで彼らの前を走っていたのに。魔王の城で魔族に追いかけられて走った時よりも遅いけど、少しずつじりじりと追い上げていく。


(ちょ、カプリオ。大丈夫?)


(大丈夫だよ。最後まで走る事は忘れてないよ。)


(もう優勝したって良いんだろ?カプリオに任せろよ。)


余裕が残っているとは解っていても、ついつい口を挟んでしまう。幌馬車を牽いているカプリオに乗ってはいても、背に乗って走ることはほとんどない。ゴールまで走り切れるかどうかは解らない。


スタートをカプリオに任せたて失敗したしね。ボクがあれこれ言っても失敗したと思うけれど。


ジルはまだ優勝するつもりでいるしボクも1番への執着が湧いてきたけれど、棄権したって問題は無い。


街まで着いてしまえばゴールできなくても困らないし、たとえ街に戻れずに途中で力尽きてもゆっくりと歩いてでも帰れる。夜をしのぐマントもあるしまだモンジの団子も残っているから食べ物にも困らない。ヘズネさんは道に迷った時を見越してお弁当の団子を多く入れてくれていたのかもしれない。


このまま旅に出るには足りないけれど、一晩くらいなら大丈夫だよね。


「ちっ!追ってきたぞ。」

「なんだあのバケモノ。喋れるのか?」

「逃げろヤッティっちゃん!!チロルの如く!」


人を背に乗せて走るビスだけれども、カプリオよりは一回り背が小さい。ボク達が彼らを追いかけていると、見下ろすような形になる。


「バケモノじゃないよぉ~!」


「バケモノがシャベッタ~!」

「怖い怖い、喰われるぞぉ~!」

「ヤッティちゃん!甘辛串肉の如く!じゃねぇ!」


彼らの頭の上からカプリオが否定するたびに、ビスに乗った人たちからからかうような声が帰ってくる。


「兄さん。後ろ貸してもらうッス。」


カプリオの強く走る背中には強い風が轟々と吹いているのだけれども、ふわりと風が耳元に触れてヴァロアの声が聞こえた。風の魔法を使って遠くに声を飛ばす事ができると聞いたことがあるけれど、彼女はそれを使ったんだと思う。


ニシジオリの王都ではあまり使える人を見た事が無いしボクも使えないけれど、ツルガルでは放牧しているアマフルにあわせて遠くの人同士が話をする時に使われると聞いた。


ヴァロアの国の船乗りたちの間でも同じように遠く離れた船と船の間で話をする技術があって、ツルガルで使われる方法とは違うらしい。


遮るものが何もない場所で暮らすツルガルの人たちは流れる風に音を乗せるだけなのだけど、波波風のある海の上では文章をまとめて風のかたまりに入れるのだとか。ツルガルの方法の方が遠くへ飛ばせるけれど、船乗りの方法の方が騒音の中でも伝える事ができるのだとか。


説明されても良く分からなかったけれど。


これも『帆船の水先守』と関係があるのかもしれない。


体をよじって後ろを振り返ればカプリオの蹴り上げる砂埃の切れ目に、ヴァロアはマティちゃんを操りながら片手に風の魔法陣を乗せている。


「人の後ろを走ると風を避ける事ができるッス。」


魔法の風に声を乗せる方法を知らないからボクからは話しかけられないけれど、不思議そうなボクの顔を見て、ヴァロアは再び声の魔法を送ってきた。よく見るとカプリオの蹴り上げた砂埃を避けて風の無い場所を選んでいるみたいだ。


強い風の中で誰かの後ろにいると楽なように、馬やビスが走る後ろにいた方が疲れなくて済むんだそうだ。他の人には簡単に真似ができない事だけれど、ヴァロアの『帆船の水先守』にはカプリオの大きな体が空を切った隙間が見えるらしい。


さっきまで並走していたヴァロアはボクにウィンクをして見せた。ちゃっかりとマティちゃんの体力の温存をはかるらしい。


「バカな!オレのラッティちゃんに追い付くだとぉ!」

「ラッキーで砂煙の中を抜けただけじゃ無いのか!?」

「逃げろ逃げろ!やべぇぞヤッティちゃん。」


ヴァロアの話を聞くうちにカプリオは10羽のビスの後ろへと追いついていた。彼らの言葉の端からは何となく、みんなが砂煙の中でキナモに襲われている間に、羽が無くて襲われる事が無かったボク達が幸運だけで1位になったと考えていたようにうかがえる。


砂煙の中を力を合わせてがんばって走ったんだけれどね。


カプリオががんばってくれたから10羽のビスの後ろにはつく事ができたけれど、10羽のビスたちはいつの間にか横に広がっていて、ボク達の走る先を無くしていた。彼らを追い抜くには大きく回り込まなければならないけれど、そうすれば彼らよりもたくさん走る事になって疲れてしまう。


何も無いツルガルの大地では目標に向かって真っすぐに走るのが近道になるからね。特徴のあるアズマシィ様の軌跡が見える位置からオアシスの街に戻るんだから、彼らが道を間違えるはずもない。


魔王の城の屋根を移動したように飛び跳ねて彼らを抜ければ良いのだけれど、砂煙の中でやっていたように、カプリオが飛び跳ねるよりも高くビスたちは高く飛び跳ねる事ができるし、羽ばたいて長く滑空できる。


このままではカプリオは彼らの前には出られない。


体の大きいカプリオに追われているからか、彼らも怖がって少しずつ早くなっているような感じがする。追いついたと思えば逃げられて、逃げられたから追いかけて。


じりじり追い続けるだけの時間が過ぎる。


(王が降りてきたみたいだぜ。)


ジルの言葉に王都の方を振り返ると、アズマシィ様からたくさんの人が降りてきていた。その集団の中央には小さな空間があって、立派な馬車の隣に一羽のビスが輝いていた。その頭には太陽を反射して輝く光。王冠が光っているから間違いないよね。


レースの先頭を見終えた王様はオアシスの街に行くみたいだ。街の中を5周もするから何度もボク達の姿を見る事ができるし、優勝するビスがゴールする瞬間を見たいんじゃ無いかな。最後の最後に激戦になっていれば、力を振り絞ってラストスパートをかけるよね。


ボクだって見たいもの。


でも、今は目の前の彼らをどうにかしないと。彼らは壁のように広がっていて追い抜く事ができない。


青い空の下カプリオが10羽のビスを追いかける。


その先にはカラキジさんが独走している。


彼が1番前を走っている。


1日をかけたレースを見守っていた空も、もうすぐ赤く染まってしまうだろう。


街の入り口が見えてきた。



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次回:走れ!『走禽類の矜持』


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