道
第7章:隣の国は広かったんだ。
--道--
あらすじ:カラキジさんが追い付いてきた。
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「やっと追いついたぜぇ!!」
見る見る間に迫ってくるカラキジさんの形相は怖かった。今まで影もほとんど見る事もないくらい後ろを走っていた去年の優勝者は、第5チェックポイントでは休憩も取らずに追いかけてくるくらい気合が入っている。
(ヒョーリ。どうする?逃げる?)
(行ってもらおうよ。)
ボクはカラキジさんが通りやすいように針路をずらして道を空けるようにお願いした。
アズマシィ様の進路を基準として動く今までのチェックポイントとは違って、動く事のないオアシスの街を目指しているので、カラキジさんもまっすぐに街の入り口を目指していた。だからボクが進路をずらして道を空けた事も解ってくれた。
「ふざけてんのか!?今さら道を空け渡すなんてよ!」
第4チェックポイントでも、第5チェックポイントでもボクはカラキジさんが到着する前に出発した。それを彼はボクが追いつかれたくないんだと思ったんだ。
1度目は気のせいかとも考えたみたいだけれども、2度目、第5チェックポイントではヴァロアと話をしながら休憩場所に入るところで引き返してし走り出した。
ボクはただ、一緒の場所で休憩したくなくて逃げていただけなんだけどね。
でも、やっとの事で追いついたら今度は道を空ける。
ボクがワザとカラキジさんを待っていてからかっているんだと彼は感じたみたいだ。
「そんな事をするくらいなら最初からレースに出るんじゃねぇ!」
「兄さん。それはあからさますぎるッス。」
怒鳴りながらもボクを追い抜いて去っていくカラキジさんをホッとした気持ちで見送る。けど、少しだけ悔しい気持ちが生まれてきた。
せっかく1番だったのに。
今まで1番だった事なんて無かったのに。
カラキジさんの背中がものすごく広く感じる。
レースのために頑張って練習してきたんだろうな。真剣に怒っていたもの。自分から明け渡した1番が無くなって何かを失った感じがする。
(せっかくここまで1番で来たんだからさ。やっぱり頑張ろうよ。)
今まで黙ってボクの言う事を聞いてくれていたカプリオだけど、ここに来て初めて異を唱えた。
(でも…。)
勝っても賞金が貰えるだけだ。
賞金は小さい樽にいっぱいの金貨。馬車に乗せて持って帰るのも一苦労だ。そして、オアシスの街の長、エフリゴキさんが追加で金貨をくれる。重たくなりそうだ。
(金が重ければ宝石に変えれば良いさ。)
ボクの言い訳にジルが素っ気なく答える。
金貨として持ち歩くと重たくなるけれど、小さくも希少な宝石は珍しくて価値が上がる。更に巧妙な細工を施したアクセサリーや芸術品に変えれば価値は変わらずに重さだけを減らす事ができる。
小さな村では交換できないけれど、今回の旅には2人の王族が関わっている。ツルガルの王様とニシジオリの王妃様だ。
ツルガルの王様も優勝した上にニシジオリの王妃様の手紙を持ってきてボクが願えば無下にはできないだろう。誰かに命じてきっと宝石と交換してくれる。そんなに手間ではないはずだ。エフリゴキさんに頼んだって良いかもしれない。
ニシジオリに戻れば王妃様が宝石を金貨に戻してくれる。王妃様の方も断定はできないけれど、八方に手を尽くしてくれるはずだ。侍女のカナンナさんだってドゴ宰相の娘なんだから伝手があるかもしれない。
同等の価値のあるものとの交換だし、ボクの方は多少価値を減らしたって構わない。もともと貰う予定じゃなかったものだもの。
けど、マティちゃんは連れて行けない。
王都が見えたから連れて行く事を考えなくても良くなったように思えたけれど、今度はニシジオリの国へと連れて帰る事を考えなきゃならない。昼も夜も歩いてくれるカプリオの旅路に彼女はきっとついていけない。
(鳥なんて売れば良いさ。)
ボク達が負けてもアグドにマティちゃんを返せばいい。負けたアグドが彼女を返されるのを拒んだとしても、街にはビスを扱う店がいくらでもある。そう、馬と同じように売り買いされていたんだ。
広いツルガルの国で家畜のアマフルを飼うのにも、遊牧のためのテントを運ぶにもビスの脚は絶対に必要だ。だけど、ビスだって病気にもなるし新しいヒナが生まれたりする。
人間なら治癒の魔法でほとんどの病気が治せるけれど、ビスは馬や家畜、魔族と同じように治癒の魔法が効かないんだ。
ジルは『なんなら肉にすれば良いさ』と笑う。屋台に夕食を買いに行ってくれたヘズネさんの提案の中にビスの肉の串焼きもあったんだからツルガルの人も食べない事は無いんだと思う。
ビスは大切な友人として扱われる事も多いけれどお肉となることもある。ニシジオリでも余分になってしまった馬の肉を食べるよね。
ジルの活動も気になるところだ。
ジルはきっとツルガルの王宮でも王妃様のために『小さな内緒話』で聞き耳を立てるだろうし、それは時にボクのためにもなる。ボクが目立ってしまうとジルをどこかに隠して置いておくときに気付かれる可能性がある。
(優勝しなきゃ入れない場所もあるかも知れねえ。)
ニシジオリで開かれる勝負事でも上位の人達を招いてのお祝いのパーティーが行われる。王様が開催していると王様は勝者を祝いに来てくれるらしい。
このレースでも勝者を称えてパーティーをすると思えるし、王様の目に止まれば、お祝いの席とは別に呼ばれたりするかもしれない。
それは普段は入り込めない場所に潜り込めて、普段は会えない身分の高い人たちに会えるチャンスだ。パーティーならお酒も入るだろうし、ボクが目立ってしまった分を考えても余るほどおつりが来るとジルは笑う。
オイナイさんにも目立たないようにと釘をさされたよね。
(いや、あのジジイの事なんて気にしなくて良いぞ。)
オイナイさんは頭が良くて仕事もできる。でも、少し頑固すぎるところがあって、ニシジオリの王様とケンカをしたそうだ。それで、要職ではあるけれど王様から遠ざけられるツルガルの国の大使にされてしまったらしい。
ずっとニシジオリの王宮の占い師の元に居たジルは、王妃様の秘密の耳として遠く異国の地に送られた大使の事も知っていた。彼が大使を任せられる前の若かった頃から知っていたらしい。
(せっかくだから、優勝しちまおうぜ!)
そうこう話している内に、カラキジさんの次のビスが走ってきた。ほとんど休憩を取らずに走り続けて追いついたんだろう。
今度は10羽ほどの集団だ。
王様の前を走る前の区間でも決着がつかないで絡まるように追い抜き追い越そうと走っている。
「相手はカラキジに道を譲った腰抜けだ!」
「オレ達にも道を開けてくれるんだよなぁ?!」
「走れヤッティっちゃん!風の如く!!」
遠目からボクらの行動を見ていたらしい。
「変な魔獣なんかに負けるんじゃねぇ!」
「ボクは変じゃない!」
ボクが声をかけるよりも早く、カプリオはツルガルの乾いた大地を強く蹴り飛ばしたんだ。
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次回:『バケモノ』と呼ばれて。




