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休憩

第7章:隣の国は広かったんだ。

--休憩--


あらすじ:第4チェックポイント1番乗り。

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第4チェックポイントでハンコを押して貰って、休憩を取ってカプリオのもこもこの毛を手入れをすることにした。その場に用意されていた道具はビスの物ばかりだから都合のいい櫛が無かったけど、ビスに使う物でも無いよりはマシだよね。


カプリオのもこもこの毛を梳くと小さな砂粒がパラパラと落ちる。彼は目を閉じて気持ちよさそうにしていた。


「今年はだいぶ南に寄っていらっしゃるな。」

「参加者はアズマシィ様を基準にコースを取っているからな。道を間違えなきゃいいのだが。」

「迷子になったって、あの背中が見えてる限りは街には帰れるさ。」


ハンコをくれた係の人たちの話しに聞き耳を立てると、例年から予想していたアズマシィ様の軌跡よりも随分と離れているそうだ。


アズマシィ様の軌跡が変われば、その周りを走るボク達のコースも変わってくる。


ボクは『失せ物問い』でチェックポイントを知ることができるけれど、他の走者は目印の無いツルガルで動くアズマシィ様の位置を目安にチェックポイントに走って行かなければならない。


係の人たちもアズマシィ様に踏まれないように急いでチェックポイントの場所を変えたらしく、みんな疲れているみたいだ。これからたくさんの走者がハンコを貰いに来るから、大変なのはこれからなんだけどね。


そうして急いで場所を変えたチェックポイントにボク達が到着して、他の人たちが来ない理由を尋ねられた。


係員さん達には大きな鳥、キナモが騒いでいた事を伝えたけれど、今まで蹴とばしたぐらいでキナモが集団で大暴れした事は無かったらしい。もちろん、ボク達が蹴とばしたから暴れたなんて言わなかったけどね。


「やっと到着したか。」

「去年の優勝者カラキジか。今年は偉くゆっくりとしたご登場だな。」

「キナモが騒いだくらいで遅れやがって。」


ボクとヴァロアが第4チェックポイントにいるから今はカラキジという人が3位だ。このまま彼に抜かれれば優勝しなくてすむから、もう少しカプリオの手入れをしているフリをして待ってても良いかな。魔道具の魔獣は砂煙に巻かれて手入れに時間がかかると思われてもおかしくないよね。


「機嫌悪そうッスね。」


耳の良いヴァロアにはビスに乗って駆けてくるキナモという人の声が聞こえたらしい。近付いてくるキナモさんはボロボロのマントを撫でながら大きな声で悪態を吐いているそうだ。


キナモに襲われたのかな?


「そ、そろそろ毛並みもそろって来たかな?」


「えぇ~もっと、もっと!」


「でも、早く行かないと追いつかれちゃうよ。」


ゆっくりしようと思っていたけれど、ボクはカプリオのもこもこの毛を梳いていた手を止めて櫛を道具箱に戻すと、慌てて出発の準備を始める。


この場所にビスの世話をする道具があるなら、キナモさんも到着したらしばらくはここで休憩をするはずだ。


砂煙の中を走るのは大変だから休憩を取りたいだろうし、飛び跳ねて走るビスにだって負担は残る。きっちり休憩を取らないとこの先の2つの区間を走り切るのも大変だよね。今日は、ただでさえ大変な砂煙の中をキナモに頭をつつかれながら走ってきたんだ。


(ボク達がキナモを蹴とばしたって知られたら怒鳴られそうじゃない?)


ボク達だけキナモの被害に遭っていないのを見たら理由を聞かれるかもしれない。その話の中には蹴とばしたことをポロリとこぼしてしまうかもしれない。


(オレ達の責任とも思えないんだがな。)


ジルが『小さな内緒話』で聞いた中でもキナモが暴れた事なんて無かったらしい。タイミングよくキナモの噂話をしている人なんて居なかったみたいだけどね。


(面倒なことになる前に逃げちゃおうよ。)


先を急いだキナモさんが例え休憩を取らなくてもチェックポイントに到着する前に逃げてしまえば顔を会わさなくて済むよね。少なくとも長い話をしないで済む。


(仕方ないなぁ。街に戻ったら、いつもの櫛でちゃんと手入れしてよ。)


休憩の時ならボクを質問攻めにする事もできるけれど、レースで走っている途中ならわざわざ話しかけて来ないだろう。追いかけてきたとしてもカプリオの背に乗っていれば逃げる事もできる。レースだから近づいてくる走者から逃げていても不自然じゃ無いよね。


「次の人も来たみたいだし、ボク達はそろそろ行きます。」


係の人に早口で告げてボクは急いでカプリオの背中に乗った。レースの最中だから他の参加者と顔を会わせたくないかのように思えるような仕草をしていれば、追いつかれるのを嫌がっている風にも見えるんじゃないかな。


「あ、兄さん!自分もいっしょに行くッス!」


マティちゃんも十分に休めたのか慌てて立ち上がるヴァロアに駆けよって、ひょいと首を器用に使って彼女を拾い上げた。


「あ、ああ、がんばってください。」


キナモさんの為にハンコを用意したり休憩の場所を整えたりと慌ただしく受け入れの準備をしていた係の人たちは、突然出発するボク達にはすでに興味が無いのか振り返りもせずに答える。


ツルガルの人としては外から来たボク達よりもキナモさんを勝たせたいに違いない。


第4チェックポイントを後にしたボクとヴァロアは急ぐ事もなくカプリオとマティちゃんを走らせた。ボク達の目的は優勝じゃないからね。十分に休憩を取ったキナモさんが追い抜いてくれれば良いんだけど。いや、アグドにも抜かれなきゃだめなんだっけ。


「なにか聞こえる?」


風に乗って囁かれた言葉が聞こえたような気がする。


「細かい内容までは解らないッスけど、王都の方からッスね。」


ヴァロアに言われてアズマシィ様を見上げれば、背中の手摺に人が集まっているのが見える。けど、耳の良い彼女でも言葉として聞き取るのは難しかったらしい。


お弁当を食べる時にジルから第4チェックポイントから先は王都からも見やすくなるから、王都の人たちが観戦に訪れると聞いた事を思い出した。観戦する人たちが増えるから、この区間では参加者は張り切って良い所を見せようとすると。


小さな頭が走ってどこかに行っては数を増やして戻って来る。戻ってきた人影はひそひそと囁き合うように寄り添ったり覗き込むように柵から身を乗り出したりしているように見える。


ボク達を見ている。


ボク達に注目が集まっている。


王都の人たちからしたらツルガルのトップ走者のデットヒートが見れると思ったら、見た事もない魔獣が見知らぬ走者と仲良くのんびり走っているんだ。街の人だって何が起こったのか気になったりするよね。


居心地悪く走っていたらアズマシィ様の背中から5羽のビスに乗った人たちが降りてきた。


(なんだか慌てているようだが、何があったんだ?)


降りてきた人たちは2手に分かれて、2人は手を振って第4チェックポイントへと向かって走っていく。


残った3人はボク達の方へと走ってきたんだ。



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次回:王都からやって来た『ビスに乗った男』



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