チェックポイント
第7章:隣の国は広かったんだ。
--チェックポイント--
あらすじ:ビスの群れに追いつくように心を決めた。
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地平線に浮かぶソレは今まで見た蜃気楼のようにゆらゆらと揺れていなくて、しっかりと地面に立って青空にくっきりと浮かんでいた。王都を乗せて歩く魔獣、アズマシィ様。
まだまだ遠くてはっきりとは見えなくて、何もない大地に比べ物るものは無いけれど、大きくてまるでそこに山があるかのようだった
(あそこに行くんだよね?)
ボクはゴクリと唾を飲む。
(ああ、あれより少し右の方に2つ目のチェックポイントがあるはずだ。)
ボクは旅の目的地のつもりで聞いたのだけど、ジルはアズマシィ様に興味が無いのかレースのチェックポイントだと思ったようだ。ジルの言う通り5つあるうちの2つ目のチェックポイントがあるはずで、目先のレースに集中してたんだ。
(いちおう確認しとくか。最初のチェックポイントはどこだ?)
何も無い大地だけれども、多少の起伏があるのかチェックポイントを肉眼で見つける事はできなかった。ジルの声に反応して、いつものように『失せ物問い』の精霊が囁く。
(カプリオ。もう少し右。)
(これくらい?)
(そう、ビスたちの群れよりもっと右の方にあるみたいだ。)
先を走るビスたちの群れと未だ見えないチェックポイントが少しずれていたのでカプリオに行き先を修正してもらう。少しでも短い道を走ることができればカプリオも疲れなくて済むよね。
傍から見るとボクが順路から逸脱しているように見えるだろうけれど、ボクは『失せ物問い』の精霊を信じた。『失せ物問い』のギフトは神様からもらった物で、間違ったことを囁いた事は一度も無いから。
ボク達を監視しようとしてビスに乗っていた人たちは、少しずつズレていくボク達を追いかけるか、それともビスたちの群れの後尾につけて見守るか迷っていたみたいだった。
ボクがビスの群れの足跡を外れていくのに何か他の意図があれば彼らはボクを見失ってしまうことになる。でも、ボク達を追いかければビスの群れから出てしまって、ボクにも他の人も監視しているのが解っちゃうものね。
結局、ボク達に知られるのを恐れたのか、ビスの群れの方に残ったみたいだ。ボクが見えなくなるくらい離れれば、追いかけてくるかもしれないけれど。生憎そこまで外れるほど行き先は間違っていない。見えなくなるほど近道ができればカプリオに負担をかけなくて済んだんだけどね。
カプリオがぐんぐんとビスの群れの足跡から外れているあいだに、ジルといっしょに2つ目、3つ目とすべてのチェックポイントを確認してみたところ、王都を乗せて歩く魔獣の周りをぐるっと1周するようにコースが作られているのが確認できた。
(地図で見ると王都なんて無かったのにね。)
レースが始まる前にエフリゴキさんに見せてもらった地図にはまっすぐに引かれたアズマシィ様の軌跡と、街とあわせて6角形に配置されたチェックポイントが大まかにしか描かれていなかった。
(移動する目印を地図に書きこめないさ。)
(まるで王都が来ることを予測してコースを作っているみたいだ。)
(いや、予測してたんだぜ。)
ジルが聞いたところによると、オアシスの街のお祭りは王都がこの時期に街に立ち寄ることを祝うための物らしい。1年をかけてあてどなく彷徨う王都を乗せたアズマシィ様もいくつか必ず立ち寄る場所があって、そのひとつがこのオアシスの街だ。
オアシスの水を飲むために立ち寄るらしい。
(街の泉に溜め込まれた水は空っぽになってしまうらしいが、王都が通れば『アズマシィ様の恵み』もばら撒かれるからな。モンジを主食にしているヤツ等が祝うのも当然だろう。)
ツルガルの大地を練り歩くアズマシィ様の軌跡は決まっていなくて、毎年違う場所に軌跡ができる。でも、必ず立ち寄るオアシスの街まで来れば、アズマシィ様の恵みと呼ばれるモンジを必ず手に入れる事ができるんだ。
アズマシィ様はモンジをお尻の方から撒かれるらしく街まで軌跡は続いていない。アズマシィ様は水を飲みに来るからね。背中に乗った王都がすっぽり入ってしまうくらいの距離だけオアシスの街と軌跡だけ離れている。
街と奇跡の間に雲のように見えるほどのアマフルの群れがいてアグドに襲われたんだからアズマシィ様がどれだけ大きいのか良く分かる。カプリオの足で半日くらい歩いたんじゃ無いかな。
ビスの走るコースはその大きな王都の周りをぐるっと走り、アズマシィ様の上に住んでいる王都の人たちは見下ろして観戦できる。王都に君臨する王様やお妃様も見ているんだ。
上からレースを全部見渡せるから、優秀な人、ビスの操作が上手い人や駆け引きが上手な人なんかが認められて、そのまま王様に雇われるなんて事も有るそうだ。レースの上位を占める人はお金をかけてビスを育てる貴族の人が多いけれど優勝者だけが注目されるんじゃない。
エフリゴキさんがレースが好きな事もあるかもしれないけれど、その特典がよりこのレースの参加者を奮い立たせる。王様に召し抱えられれば、魔獣の上の王都に住むことができるんだもの。
少しずつビスの群れがボクの方へと寄ってきた頃、最初のチェックポイントを示す旗が見えるようになっていた。ボク達を監視していた人たちが、ボク達が最短距離を選んでいたことに気付いてびっくりした顔をしているのが少し面白い。
チェックポイントでは木札にハンコを押してもらわなきゃならない。5か所あるチェックポイントの5つの印がそろって初めてゴールを認められる。
「おい!早くしろよ!」
「オレが先に着いたんだ!」
「ちくしょう!あっちの列に着けばよかったぜ!」
たくさんの人たちがハンコを押すために待っていてくれているけれど、いっぺんに来るビスたちの群れを処理しきれずに混雑している。ボク達も空いていそうな列を探して並ぶと、ヴァロアの姿が見えた。
「お、兄さん!遅かったッスね。」
「もうハンコを貰ったの?」
「ばっちりッス。それじゃ、お先に行くッス!」
スタートでまごついて見失ったヴァロアが無事だったのを見て安心した。砂ぼこりの中でビスが飛んだりヴァロアを見失っていたからね。先頭の方でも少し遅いくらいの位置にヴァロアはいるようだ。やっぱり鞍が合って無いから他のビスより遅くなっちゃうのかな。
アグドの姿はどの列を見回しても見えなかった。きっとヴァロアよりも先に出たんだろう。最初の出だしはびっくりしたけれど順調にいっているようだ。
1つ目のチェックポイントを通ると今度は今のアズマシィ様の足元へと針路をとることになる。街の泉を目指すアズマシィ様と街から出発したボク達と逆方向へと進んでいるからきっとボク達が次のチェックポイントに辿り着く頃にはアズマシィ様はもっと街に近づいているはずだ。
アズマシィ様の足元へと進むのは怖かったけど、ボクは次へと進む事にしたんだ。
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次回:街を乗せた『魔獣の脚』




