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面子

太守を領主に訂正いたします。


領主と言う単語を忘れていました。調べたのに。

第7章:隣の国は広かったんだ。

--面子--


あらずじ:カプリオでの参加を提案された。

------------------------------



「この魔獣に乗ってレースに参加してもらえないか?祭りも盛り上がるし、私も面子を潰さずに済む。」


エフリゴキさんはボクから目を外してカプリオの方へと足を進める。ビスが走るレースに魔道具の魔獣のカプリオを参加させれば、ボクが出場する以上の話題になってレースが面白くなるかもしれない。ビスの中に魔獣が居るだけで目立つからね。


衛兵さんも幌馬車を牽いている姿しか見ていないカプリオの走力はエフリゴキさんには未知数だ。でも、話題になれば少なくとも街からレースを見に来る見学者が増えるだろうし、次のお祭りでもなにか変わったことをするかと見に来る人が増えるかも知れない。


噂を広めてしまったエフリゴキさんの面子も保たれるだろうしね。


(やめとけ、やめとけ。オレ達が参加しても何の得にもならないぜ。)


(だよね。)


タダでさえ負けるつもりのレースなのに出たって疲れるだけで良い事なんてない。負けるつもりだからボクが参加すれば目立ってしまってボクの面子が無くなってしまう。


そうだよ。ヴァロアががんばってくれているあいだにボクはゆっくりと寝ていれば良いんだ。今夜もヴァロアと同じ部屋に泊まらなければならないなら、明日も寝不足になっているに違いないんだから。


(魔道具の魔獣の性能を知りたいだけに決まっている。)


戦争になればカプリオはともかくライダル様のアラスカが参加する可能性がある。ライダル様がアラスカと同じ形の魔獣を作って参加させる可能性もある。その前にアラスカの力を知っておきたいんじゃ無いかとジルは考えていた。


魔道具の魔獣の性能を知らないとツルガルはニシジオリの進軍の予想さえできなくなる。もしもビスより早い魔道具の魔獣がいれば脅威になる。


「こんなに立派な魔獣の雄姿をツルガルの者が誰も知らないなんて悲しいじゃ無いか。」


大仰に悲しそうな顔をするエフリゴキさんはレースの事しか考えていないようにも見える。ジルの言うように戦争のために魔道具の魔獣の事を調べているのか、レースを盛り上げようとしているのか、あるいは両方なのか。ボクには解らない。


でも、ボクがレースで負ければ恥をかくのは解る。


『小さな内緒話』を使ってジルと参加しないことを決めている内にも、エフリゴキさんはカプリオの周りをぐるぐると周って首をかしげる。もこもこの彼の体をあちらこちらから見ては不思議そうな顔をしている。立派な魔獣とは言っているけれど、カプリオののっぺりとした顔はとても立派には見えないよね。


外見からじゃカプリオの細い脚で幌馬車を牽いたり、魔族の操る魔獣に追いつかれないくらいのスピードで魔王城を上に下にと走り回ったなんて解らないよね。


カプリオのすごい脚力を自慢したいとも思うけれど、きっと明日も寝不足だと思うと、めんどうくさいとさえ思う。


「大変興味深いお誘いですけれど、彼は長旅の間中ずっと幌馬車を牽いてくれていました。この先、王都へ向かうためにも無理をさせたくありませんし、休める時に休ませてあげたいんです。」


「なに、王都までならさほど歩かなくても大丈夫だ。それに祭りの後もゆっくりと休めるように手配する。親書を持っているとはいえ急ぎでは無いのだろう?」


どうしてもボクを参加させたいらしく、今度はレースの面白さを情熱的に語り始めた。この人は戦争とか関係なく本当にレースが好きで、だからこの街でレースをしているのかもしれない。そう思えるほどに事細かにレースの面白さを熱弁してくれる。


ビスの肉付きの違いや蹴った土ぼこりの違いなんて興味が無いけれど。


「ただいま戻ったッス~!」


辟易していた所に聞こえてきた明るい声には疲れが無くて、本当に助かったと思えたんだ。ヴァロアとマティちゃんとの相性は良かったようで、レースに備えて結構な距離を走って来たのにマティちゃんが幸せそうだ。


「おお!オマエがレースに参加する者か?」


熱弁を中断したエフリゴキさんがマティちゃんとヴァロアを見て幸せそうな顔をする。「瞳の輝きも羽根の艶も良いビスだ。乗り手の肉付きが少し寂しいが、なに、ビス乗りは小さければ小さいほど良いに決まっている。」と独り頷いている。


「誰ッスか?このオッサン。」


「ちょ、ヴァロア!領主さんだって!!」


慌ててヴァロアの口を塞いで謝らせる。高そうな生地を見れば偉い人だって判るのに、装飾が少ないから偉い人だって判らなかったのかな。


「オマエからも、この者に参加するように言ってくれないか?」


エフリゴキさんはヴァロアに経緯を話してボクを説得するように頼んだ。


「良いじゃないッスか!兄さんも出ましょうよ!レースに勝てば賞金も出るッスよ?」


ヴァロアはボクの参加を喜んだ。ボクかヴァロアが勝てば賞金が転がり込んでくる。もしかしたらヴァロアはマティちゃんに乗って自分も優勝することを望んでいるのかもしれない。彼女の手持ちのお金は少なくなっているはずだから。


「そうだな、貴公が勝ったらそれに加えて別途褒美を取らせよう。」


エフリゴキさんは集まった貴族たちと賭けをしているそうで、その賭けにボクを混ぜて、ボクが勝ったら取り分を全部くれると言った。まだ賭けは閉め切っていないからおおよその額しか提示されなかったけど、ボクが勝ったらすごい額が貰える事になる。


ボクの分はエフリゴキさんが立て替えてくれるので、勝ってもエフリゴキさんは褒美の全額を払うワケじゃ無いし、負けても掛け金だけしか払わなくて済む。


「いえ、お金が欲しいわけじゃ…。」


「なんだ、ニシジオリの魔獣はへっぴり腰でビスと走っても勝ち目は無いと言うのか?それなら仕方ない。」


どう考えてもエフリゴキさんの言葉は挑発にしか聞こえない。現に顔がニヤニヤしているもの。


「カプリオは絶対に負けません!!」


(ヒョーリ!!?)


でも、ボクは挑発だと考える前に反射的に答えてしまった。大切な友達をバカにされたような気分になってしまったから。カプリオは絶対に負けない。


「いいッスね!!兄さん!新しい伝説を作っるッス!!」


ボクが遠く離れた異国の地のレースで彗星のように勝利を搔っ攫っていく出来事を歌にできると喜んでいる。


「良し、なら参加してそれを証明して見せろ。スゲネ。この者が十分にレースで力を発揮できるように万全の手配を。昨晩のような適当な部屋をあてがうんじゃないぞ!」


そう指示をだしたエフリゴキさんは踵を返すとボクの方を振り向く事もなく去って行った。



(ヒョーリィ~。)


その日の晩、ボク達にはふかふかのベッドがある部屋を貸してもらえた。スゲネと言う人の手配で部屋をやりくりして開けてくれて、その上最初の日にボクが望んだとおりに2部屋を与えられた。


残念なことにヴァロアと別の部屋でゆっくりと寝る事ができたんだ。



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次回:熱気渦巻く『スタートライン』



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