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アマフルの群れ

第7章:隣の国は広かったんだ。

--アマフルの群れ--


あらすじ:見えた王都は蜃気楼だった。

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白い雲を落としたようなアマフルの群れが地面を覆っていた。今までボク達が見た群れの何十倍もの大きさがあって、遠くから見ていると本当の雲が地面を這っているようにさえ見える。


「あれは蜃気楼じゃないッスよね?」


先日見えたツルガルの王都の蜃気楼で懲りたのかヴァロアは疑う。あれからも雨上がりに蜃気楼が見える事があって、その度に彼女は冷えたエールのために水を飲むのを我慢するか真剣に悩んで肩を落としていた。虹が見えるだけなら嬉しいんだけど。


「たぶん本物のアマフルの群れなんじゃ無いかな。」


雲のようにうごめくアマフルの群れは地平線よりも手前に見える。今まで見た蜃気楼は地平線より上に映し出されていたから間違いは無いと思うけど、地平線の手前に映し出される事もあるかもしれない。ボクだって片手で数えるくらいしか蜃気楼を見た事が無いからね。


アマフルを連れて遊牧していたオジサンに見分け方を聞いておけば良かった。今まで疑問に思わなかったけど。


「ヒョーリィ。どうする?行ってみる?」


大きなアマフルの群れはアズマシィ様の軌跡から少し外れた場所に集まっている。目的の王都に行くにはアズマシィ様の軌跡を辿って行かなきゃならないから、離れた場所にあるアマフルの群れに行くなら遠回りをすることになる。


「何があるか見てこようか。面白いものがあるかもしれない。」


遠回りになるけれどボク達は退屈していた。広くてまっ平らで何もないツルガルの景色は変わらなくて、アマフルに食い散らかされた短い牧草は風に揺れる事も無い。同じ歌ばかりで同じ曲ばかりで、ブルベリの練習で指も切れてしまった。治癒の魔法で治したけれどね。


「いいッスね。何か珍しい物でもあればいいッスね。」


(オレも喧騒が恋しいぜ。)


大きな群れがあるという事はそれだけ多くの人が集まっているという事だ。モンジをごちそうしてくれたお爺さんのテントのように家族で集まっているだけかもしれないけれど、中には変わった人がいるかも知れない。大きな期待はしていないけど息抜きにはなるよね。


「それじゃぁ、あっちへ向けて、しゅっぱ~つ!」


カプリオは方向を変えて進むけど地面のデコボコは同じように続く。もともと街道が無い地面の上を進んでいたからアズマシィ様の軌跡を外れても道が良くなることも悪くなることも無い。


ゆっくりとアズマシィ様の軌跡と幌馬車の(わだち)とが離れていく。ぐんぐんと近付いてくるアマフルの群れの近くにツルガルの人の住むテントが見えやしないかと目を凝らす。


「何ッスかね。テントにしては色が違うッスね」


白いアマフルの群れの真ん中で何かがきらきらと光る。太陽の光を反射して白く見えるけど色が良く分からない。


ツルガルの人たちが住むテントは薄く黄ばんだ色をしている。()って糸にしたアマフルの毛は白いけど、布にしてテントにするとお日様に照らされて色がくすんでいく。黄ばんだ糸は丈夫になるそうだ。


「緑…。あれは木かな?」


きらきらと太陽の光を照り返す緑の葉が近づくにつれて見分けがつくようになってきた。深い魔王の森の木々たちよりも背が低いけど、細くても立派な木が薄茶色のレンガの屋根よりも高くそびえている。そう、緑の影に建物があるんだ。


「テントじゃないッス。」


てっきりテントが見えるかと探していたけれど、見えてきたのは建物だった。それもひとつふたつの小さな集落じゃない。見えているだけでも100を数えるほどの大きな街だ。きっと奥の方にも続いているに違いない。


「街なのかな。」


「く~!今日こそ水を飲まなければ良かったッス!」


ヴァロアはがっくりとうなだれる。


建物があって街があるという事は、そこで暮らしている人たちがいる。あれだけ大きな街なら泊まれる所があってきっとそこにはヴァロアの待ち望んでいたエールがあるはずだよね。でも彼女はさっきたくさん水を飲んだばかりだ。


ガタガタ揺れる幌馬車から見える街は薄茶色のレンガの塀で覆われていて、こんもりと盛り上がった中央に森のように木が生い茂っている。森を取り囲むように街ができている。


「今晩はあの街でゆっくりしようよ。」


蜃気楼で見た王都に早く辿り着きたいとカプリオは夜中も歩いてくれるけど、幌馬車に張ったハンモックは地面のでこぼこに応じて大きく揺れてニシジオリの国の街道を進んでいた時よりも寝心地が悪い。ハンモックの布の曲線に合わせて丸くなった背中が痛くなるんだ。


「そうッスよ!まだ自分達にはベッドと言う幸せが待っているッス!諦めるには早いッス!」


元気を取り戻したヴァロアが立ち上がると幌馬車は傾いて街のある方向からさらに外側へと進路がずれた。


「座っていてよぉ。ヴァロア!」


「危ないよ!」


「あれ?何か来るッス。」


御者席の上で器用にバランスを取るヴァロアが街をよく見ようとかざした手から見たのは、白いアマフルの群れの間から駆けてくる一頭のビスとそれに乗った男だった。すぐにボクも見つける事ができて蜃気楼騒ぎの時に来たオジサンの事を思い出す。


あの時もビスに乗ったオジサンが現れて、せっかく見えたと思った王都が実は蜃気楼だったなんて言われた。今見えている街も蜃気楼かも知れないと身構えたんだ。


2本足で走るビスも他に見るビスよりも足が速く男を乗せているとは思えないくらい早くてそれほど時間を置かずに近づいてきた。


「こっちに向かってくるね。カプリオ!止まってくれるかな?」


「ここで何をしている!?」


男の話を聞くために幌馬車を止めたボク達の前で、駆けてきたビスが止めてピィと鳴くと、何の前置きも無く男の誰何(すいか)を飛ばした。日に焼けた男はがっしりとした体つきでボクよりも年上に見える。小さな子供がいるくらいの年かな。


「ボク達はあの街へ行こうと思っているんですけれど、あれは街ですよね?蜃気楼じゃないですよね?」


「ウチのアマフルを盗みに来たんじゃないのか?」


ボクの質問に答える様子もなく眼光厳しく男が問い詰めてくる。彼はビスの手綱を左手だけで握り直すと右手を剣にかけた。


「いえいえいえ、ボ、ボク達はアズマシィ様の軌跡を辿って王都に行くつもりだったんですけど、たくさんのアマフルを見ているうちに街を見つけて、それで、それで、今夜は街で泊れたら良いなぁって。だってベットで寝るなんて久しぶりで。ねぇ、ヴァロア。」


助けを求めるためにヴァロアに目を向けると、彼女は御者席に立てかけておいた薪割りの剣に手をかけていた。ボクが彼女に話かけたから男の目も彼女に向けられる。


剣に手をかけて低く身構えるヴァロアの姿を男にバッチリと見られてしまった。


「動くな!1人が気を逸らせている間にオレを殺ろうってのかよ?」


「いやいやいや、そんなつもりはまったく無くて…。」


「黙れ!オレを騙そうったってそうはいかないぞ!」


そんなつもりだったら最初からヴァロアの方へ眼を向けていない。彼の意識をボクに引き付けている間にヴァロアに剣を叩き落してもらっていたよ。


でも、男は聞く耳を持たないようで問答無用で剣を抜き放った。



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次回:『人鳥一体』走りくるビス。



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