モンジの団子
第7章:隣の国は広かったんだ。
--モンジの団子--
あらすじ:やっとツルガルの国に来ることができた。
------------------------------
「晴れた空にぃ~白い月ぃ~♪アズマシィ様の軌跡を辿りぃ~♪」
アズマシィ様の軌跡と呼ばれる緑の絨毯を辿っていくと、動く魔獣の上に作られた王宮のある街に辿り着くと聞いて、カプリオの牽く幌馬車を進めた。
地平線まで見える薄茶色の大地とアズマシィ様の軌跡と呼ばれる緑色の絨毯の景色は変わることなく続いてすぐに見飽きた。暇つぶしにブルベリの練習をすれば手元が揺れて音を外すけど、それを笑ってカプリオとヴァロアは調子を合わせて歌ってくれる。もちろんジルも。
ニシジオリの国の街道のように何百年も踏みつけられてできた平らな道をたどる訳じゃないから、車輪が路面のデコボコを拾って大きく揺れる。歌うたびに声も揺れるんだ。
ふらふらとあちらこちらを歩く魔獣、アズマシィ様の軌跡は毎年のように変わり、人に踏みつけられていない地面はデコボコしていて削られていない。
変わらない景色の中で時折、白い雲が落ちてきたかのような塊がわらわらと歩いているのが見える。ツルガルの人たちの育てている家畜、アマフルだ。アマフルは大地に広がる背の低い硬い草を食んで、薄茶色の地面の色に変えていく。
「どうだ?うちのアマフルは可愛かろう?」
揺れる幌馬車で痛くなった腰を伸ばしながらアマフルが草食べる様子を近くで観察していると、暑い日差しに焼かれた真っ黒な顔の瘦身のお爺さんが人懐っこく声をかけてくれた。
「すっげえ可愛いッスね!」
きらきらと目を輝かせるヴァロアの誉め言葉にボクも顔をほころばせて同意する。
「お邪魔ついでに聞きたいんですけど、モンジを扱っているお店を知っていますか?」
「ここらに店なんてねぇぞ。」
「やっぱり、近くに村は無いですか…。」
ツルガルの人はアマフルのために背の低い草のある場所を追って、丈夫な布のテントを張って住み、一か所にはとどまらない。アマフルが背の低い草を食べつくす前に違う場所へとテントを移していく。
馬車を進めていれば村に辿り着くと思っていたけれど、毎年行き先の変わるアズマシィ様の軌跡を辿っていても村を見つける事はできなかった。どこかの村に立ち寄れば主食であるモンジを口にできると思っていたけれど、宿どころかお店すら見つからない。
「オレが集めたので良ければ分けてやろう。」
お金よりも品物を欲しがったお爺さんは幌馬車の荷物を見て物々交換を申し出てくれた。ニシジオリの国の食べ物は珍しいらしく彼らは喜んで交換に応じてくれて、予想より多くのモンジと毛布や布なんかも分けてもらえた。
「ありがとうよ。もうすぐ日も暮れる。よければオレのテントで泊って行きな。」
お爺さんのテントの周りではでは30人ほどが集まって暮らしていた。お爺さんとその奥さん。お爺さんの子供とその孫たちと家族だけで集まっているそうだ。
お爺さんのテントの片隅を進めてくれるけど、知らない人たちと一緒に寝るのは気兼ねする。ボクだけならともかくヴァロアがいるからね。女の子を初めて会ったばかりの男もいるテントで寝かせても良いものかと悩む。
貸衣装を返したヴァロアは男の子の格好をしているからお爺さんは気づかないかもしれないけど。
ツルガルの国に入ってからもハンモックで寝ていたんだけど、夜明けはものすごく冷える。日中は暑いほどなのに。
(ツルガルは山よりも高い場所にあるのさ。だから昼間は太陽が近くて暑いが、夜は地面の下にもぐった太陽は遠くなって冷えるんだそうだ。)
だけど、今夜からはお爺さんに分けてもらった毛布で温かく眠れると思うんだ。
「お言葉は嬉しいですけど、ボク達には他にも一緒に居るべき友達がいるので。」
視線を幌馬車に繋がれたカプリオに向けるとお爺さんは嬉しそうに笑った。
「そうか、そうか。オマエさんは相棒を大切にするんだな。」
カプリオを言い訳に使わせてもらったけど、お爺さんはボクがカプリオを大切にしているから泊まれないと考えてくれたみたいだ。遊牧の民は自分たちの家畜を大事にする。それは食料であり財産だからだ。お爺さんの人懐こそうな顔が一層柔らかくなった気がした。
「泊まれねぇってんならメシくらいは食っていきな。」
「いえいえいえ、色々と交換してくれただけで十分ですって。」
バンバンと背中を叩くお爺さんにテントで寝る事を辞退すれば今度は夕飯を勧めてくれた。遊牧の民のお爺さんはあちこちを歩いて暮らしていてめったに人が尋ねてくることが無いらしく、滅多な事では知り合いにも会う事はできない。だからなのか旅人を厚くもてなす文化が根付いたみたいだ。
宿泊を断った手前、食事まで断り切れずに呼ばれて見れば、満天の星空の下で干したレンガで作った竈の周りに串に刺してモンジを丸めた団子を焼いてくれた。
薪の代わりに家畜のフンにアズマシィ様の恵みを採り終えた藁を混ぜて燃料にしていて驚いたけれど、木が生えていないこの土地では他に燃やすものが無いのだそうだ。
ボク達は今まで藁だけを集めて燃やしていた。フンを混ぜた方が長持ちすると言われても幌馬車にフンを乗せるのも嫌だけどね。魔王の森の木をここまで持ってくることができれば良いんだけど。
「ほれ、焼けたぞ。」
「あちぃッス!」
初めて食べるモンジの団子は磨り潰して粉にしたものに水で丸めて焼いた物だった。鉄の串に刺さったモンジはねっとりと歯にくっついて中々噛み切れない。もぐもぐと口の中で悪戦苦闘をしていると爺さんたち家族に笑いが起こる。
焼きたてのモンジの団子は香ばしくて、ほのかな甘みがあって美味しかった。パンよりも少し甘く感じるかな。もちもちと歯にくっつく触感にはもう少し慣れなきゃいけないけれど。他にもアマフルの干し肉を野菜といっしょに炒めた物や、何かの根っこを磨り潰した物と色々と振舞ってくれる。
食後にはヴァロアのブルベリが焚火の夜を飾ってくれた。
「美味かったッス。こんな事でしか感謝を表現できないッスけど、楽しんでくれると嬉しいッス。」
彼女らしく気軽に奏でているけど、ブルベリを弾く事で糧を得ているような人しか弾けないような曲を惜しげもなく披露する。ボクが弾いたんじゃあれだけ感動できる音にならない。ボクもこういう時にさりげなくお礼としてブルベリを弾けたらいいなと嫉妬する。
ボクは今でも押さえる弦を間違えてジルとカプリオに笑われるんだ。人前で弾くなんてしばらくは難しいよね。
初めて聞くブルベリの音色にお爺さんも喜んでくれて、お爺さんの家族も交えて合唱が起きる。気のいい彼らは歌をすぐに覚えて即興でリズムを刻みでたらめに踊り始める。
「星の空にぃ~赤い月ぃ~♪モンジの団子を丸めつつ~♪」
ヴァロアの歌のお礼にとお爺さんの歌も教えてもらう。
暗い空は青みを帯びて、空が近いからかいつもよりくっきりと見える月は赤くって、星の河がくっきりと見える。
気軽に音楽を奏でられるって羨ましいよね。
------------------------------
次回:迫りくる『黒い雲』




