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吟遊詩人ギルド

第6章:手紙を届けるだけだったんだ。

--吟遊詩人ギルド--


あらすじ:吟遊詩人ギルドに行こう。

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冒険者ギルドで手紙を渡してボク達は吟遊詩人ギルドに向かった。


冒険者ギルドではマッテーナさんの手紙を喜んでくれて会議室ですこし話をした。マッテーナさんの事、王都の事。ボク達の通ってきた道の事。山賊の事。迂回してくる人はいるけれど、最新の情報に飢えていたようで、大切にもてなされて宿屋や食事処などをいくつか案内してもらえた。


幌馬車とカプリオを預けて、先に吟遊詩人ギルドに徒歩で向かう事にした。占い師ギルドより近くに建てられているという事もあるけれど、顔色を曇らせるヴァロアが逃げ出しそうだったんだ。


「ちはッス。」


「いらっしゃい。見ない顔ね。」


ぶっきらぼうに挨拶するヴァロアに受付のお姉さんは素敵な笑顔で応える。視線を落とすとネクタイを緩めたブラウスが、たゆんと揺れた。ヴァロアの胸より大きいのかな。ふかふかしていそうだ。いや、ヴァロアと比較したかっただけで顔を埋めたいとか思ってないよ。


「こっちは初めてっス。今晩、営業したいんスけど。」


「あら、今晩だけ?どんな曲を歌うの?」


「有名どころだと、『勇者と魔王城』『カンニーンナ家の令嬢』『恋の果てに』ッスかね。英雄譚と恋愛譚とか王都の方の曲を覚えてきたッス。」


「王都の方から来たの?あっちの新しい曲とか覚えていない?」


旅人と一口で言っても色々ある。旅の商人、冒険者、芸人。集団で旅をする商人や芸人の一座は迂回路を通って街まで少しは来ているけど、独りで旅する吟遊詩人の足は、山賊のせいで途絶えていたらしい。一座に所属している歌い手や弾き手たちは吟遊詩人ギルドに寄らないみたいだった。


村でも喜ばれていたからね。ホントに往来が減っていたようだ。


「最近、覚えたのは『コレナンボの夜』ッスね。恋物語ッス。」


「聞いた事無い題名ね。ちょっと時間良いかしら?」


キラリと目を光らせるお姉さんさんを見て、ヴァロアがボクの方を(うかが)うので頷き返した。嬉しそうなお姉さんと一緒に音楽堂に向かう事になった。


歌が響く室内でブルベリを弾くヴァロアの口から歌があふれると、お姉さんのペンが紙の上をさらさらと走り、たゆたゆと揺れる。


柔らかそうな指がすごい勢いで紙を埋めていくけれどボクには読めない記号ばかりだ。後でヴァロアに聞くと、吟遊詩人独特の符丁で歌詞もリズムも全てあの記号で記すことができるらしい。リズムの早い歌でも、書き写せるように進化した独特の文字らしい。


一曲が終わった所でボクはその場を離れる事にした。早く書き写されていくと言っても確認も含めて同じ曲を何度か繰り返された。今の曲は旅の途中にもヴァロアに何度も聞かせて貰ったからね。退屈になったんだ。


それに今日はゆっくりと聞いている暇がない。日が暮れる前に宿屋に馬車を移動させて、占い師ギルドにも顔を出しておかなくちゃならない。そうそう、予定より減ったオイナイ様へのお土産も補充しなきゃね。


待ち合わせは『ヌーボォの(さえず)り亭』に決まった。お姉さんの話だと舞台のある大きな食事処で、店の名前の通りに音楽を聞かせる事を売りにしたお店らしい。


最近は似たような曲ばかりが繰り返し歌われているので、新しい曲を持った人が来たら紹介して欲しいと店の主人に依頼されていたのだそうだ。場末の店じゃ無かったのでヴァロアも満足そうに微笑んだ。


(今日は逃げ出さなくていいのか?)


久しぶりに3人になるとジルが軽口を言う。前の街でヴァロアを置いてきぼりにしたことを言っているんだよね。


(久しぶりにベッドで寝たいからね。ゆっくりしたいんだ。)


ハンモックで寝続けているから背中が丸まってきた気がする。


(おっぱいと離れたくないんじゃないか?)


(そんなんじゃないよ。)


(本当か?受付嬢の胸にも見蕩れていただろう?)


言い返せなくなって黙ってお土産になりそうなものを探して店をからかいながら歩く。いや、確かに今まで胸を気にして見るなんてしたことなかったけど、柔らかさを知ったら気になるよね。ボクの胸はあんなに柔らかくないもの。


国境を越えてからの品物はお土産にはならないと思う。故郷の味を伝えたいという王妃様の意向もあったので日持ちする食べ物や果物、香辛料を見覚えのあるものを中心に選んだ。


国境の街なので、ツルガル国の食べ物らしき物もある。美味しいと宣伝された物を自分たちが食べるために少し買い込んだ。


(おっぱいも料理ができれば良いんだがな。)


(誰にも苦手な事はあるから…。知らない食材ならなおさらじゃない?)


ブルベリを美しく弾いて凄腕の剣を使うけど、ヴァロアは料理ができなかった。料理ができないから鍋も持たずに少ない荷物で旅をしていて、だぼだぼのマントに隠れるくらいの小さなカバンしか持っていなかった。


おかげでいつもボクが料理当番だ。


食事をすべて食べ物屋で賄っていた彼女が料理を作ると肉は炭に、スープはなぜか酸っぱくなった。家の手伝いとかしたこと無いんだろうか。まぁ、ボクだって適当に焼いたり煮たりしかできないけどね。


宿屋までくると幌馬車を停めてカプリオと別れた。占い師ギルドは裏通りの細い道の奥にあるそうだ。


宿屋で聞いた通りに道を進むと、丸い水晶の玉をモチーフにしたボロボロの看板が斜めになって掲げられていた。薄暗い路地の片隅の古ぼけた小さな建物に間借りしている建物の日当たりの良くない部屋には、よどんだ空気の中で占い用のカードを使ってゲームに興じる無精ヒゲの生えた2人のオジサンがいた。


この街の占い師ギルドには受付のお姉さんはいないらしい。残念。


「こんにちは。旅の途中だけど、仕事ってできるかな?」


「ん。んじゃ、そこに名前だけ書いといて。」


オジサンはカードを見つめて唸りながら受付台の上に置かれた紙を指さした。どうやらボクの前にこの街に訪れた占い師は数年前にさかのぼるらしい。埃の積もった名簿にはかすれた文字で所属と名前が記されていた。


「『ヌーボォの(さえず)り亭』ってどうかな?」


「店主が良いと言うなら良いんだろうさ。」


選び抜いたカードを引いて絶望したオジサンはボクに目もくれなかった。旅の占い師なんて滅多にいないだろうし、力のある占い師は有力者に囲われていてここのギルドに顔を出さないのかもしれない。ギルド員ですらまったく寄り付いていないみたいだ。


耳に届いていないようだったけど、お礼を言って占い師ギルドを出た。思った以上に早く終わって、ふらふらと露店を覗きながら大通りに出る。冒険者ギルドも吟遊詩人ギルドも忙しそうだったけど、占い師ギルドだけ暇そうだったよね。あれでお金が貰えるんだろうか。


楽器を扱う店を見つけたので覗くとブルベリには数字がたくさん連なった値札が貼られていた。12弦もあって形も美しいブルベリは職人の技でしか作れないらしい。買えない事は無いけれど、高い買い物だからヴァロアの意見を聞いた方が良いかな。


日も傾いてきた所で、ボクは『ヌーボォの(さえず)り亭』に入った。まだ食事の時間には早いけれど、厨房が忙しくなる前に占いの許可をもぎ取らないとね。


「あん?占い師だって?ダメダメ。うちは音楽を売りにしてる店だぜ。陰気臭いのに居られちゃ迷惑なんだよ。」


「ボクの知り合いが…。」


断られるのはいつもの事なので、めげずにヴァロアを引き合いに交渉しようとした時、カランカランとベルの鳴った。


「ちはッス。吟遊詩人のギルドで紹介されて来たッスけど。」


バタンと勢いよく開かれた入り口のドアには、青色のスカートを履いた女の子の姿があった。



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次回:誤解を生む『ヌーボォの囀り亭』



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