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国境の街

第6章:手紙を届けるだけだったんだ。

--国境の街--


あらすじ:いや、見てないよ。

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雨の中山賊から逃げてカモノ大渓谷の横をガタゴトと進んだ。大渓谷は大きくて隣の国までつながっていた。途中いくつかの村を通ったけど、結局、ヴァロアを下ろす事はできなかった。


小さな村ではヴァロアの歌は歓迎された。山賊が出る山道を抜けてくる商人や旅人は少なくなっていて噂話も少なくなっていたからだ。王都の方はどうだったかと聞かれることも有るし、久しぶりにきた吟遊詩人に物語をせがむ子供たちが多かった。


だからヴァロアの懐は温かくなったし、山賊からの村々への害もあって荷物を売って稼ぐことができた。最初に着いた村なんて特に被害が大きかった。オイナイ様への王都のお土産が減ったけど、少しくらいは良いよね?


でも、懐は温まっても彼女を置いていく事はできなかった。


村の人たちに喜んで迎え入れられても、吟遊詩人として生きていく事は難しい。ヴァロアも沢山の歌を知っていたけれど、同じ人しか集まらない小さな村で毎日歌えば飽きられてしまう。村人だって毎日お金を払うと大変な額になるよね。


吟遊詩人として生きていくなら、お客さんを求めて旅をするか、お客さんの多い大きな街に行くしかない。村には人をひとりを余剰に留めておけるだけの収益が村には無かった。雨で足を止められた時、ボクでも感じられるほど実入りは少なくなったんだ。


稼げない村に置いて行く事も、彼女に独りで旅をさせる事も、ボクにはできなかった。


ジルとカプリオに「おっぱい?」って散々からかわれたけど。


「お~あれがアイナワの街ッスね。」


弾いていたブルベリの手を止めて、ヴァロアは眩しそうに手をかざした。眺める先に大きな街が見える。王都にはかなわないけど、ツルガル王国との国境に位置するアイナワの街は交易の要衝として栄えてきた。あの街を越えたらツルガルの王国に入る。


「やっと着いたね。」


今までの旅とは違って女の子がいると言うだけで気を遣った。疲れた。彼女は気にしていないようだったけど、だぼだぼのマントから時折見える白いシャツに柔らかさを思いだして頬が熱くなる。いや、気にして欲しいってワケじゃ無いけど。


旅の途中、話が途切れると沈黙に耐えられなくて頭を悩ませた。彼女の得意なブルベリを教えて貰う事になったんだけど、12弦もある楽器にボクは手間取った。あちこちを押さえたり弾いたり指の動きが忙しい。指が()って動が止まるたびに彼女の細い指がボクの手に触れて導いてくれた。


教えてもらっている間は音が流れてジルやカプリオも歌っていたから楽しかったし、簡単な曲なら弾けるようになって嬉しかった。今度は自分用のブルベリを買っても良いかもしれない。魔王の森からの川下りの時も歌うのは楽しかったし帰りの道も長い。旅の道連れにはもってこいだよね。


「最初は冒険者ギルドッスか?」


恐々とカプリオを取り巻く門番さんに王妃様の紋章を見せて街に入ると市場が広がっていた。あちらこちらから商人が訪れていて色々な物があふれて活気に満ちている。カプリオを見た街の人がギョッとして目を見開いているけどね。


「そうだね。忘れないうちにマッテーナさんからの手紙を届けなきゃ。」


せっかく何日もかけて旅をしてきたのに用事を忘れるわけにはいかない。冒険者ギルドの用事は例えついでだとしても。それにギルド長のマッテーナさんの手紙を渡す事で、美味しい料理屋や質の良い宿屋を案内してもらえるんだ。


前の街ではその宿屋に迷惑をかけたかも知れないけど。まぁ、ヴァロアの名前で予約を取ったって言ってたから、マッテーナさんに迷惑がかかる事はないよね。帰りは別の宿屋を探そう。


「それから宿を決めるッスよね。」


ニヒヒヒと笑うヴァロアは嬉しそうだ。夜中もカプリオが歩いてくれるのは良いけれど、その間はハンモックで寝る事になる。久しぶりに揺れないベッドで眠れることが素直に嬉しい。もちろん部屋は別だよ。


「吟遊詩人のギルドには行かなくて良いの?」


占い師の仕事でもギルドがある大きな街で商売をする時はギルドに挨拶をしないと面倒な事になる。街にいるギルド員たちにも縄張りがあって、適当な店で仕事をする事を嫌がる。彼らにも生活があるからね。ギルドでは他所からの旅人を歓迎してくれる店や断られる店を教えて貰えたりもするんだ。


小さな村でも村長さんや地主さんに挨拶をしておいた方が良いのと同じだね。


「新しい歌ッスか?それもいいっスけど、この街には新しい歌なんて無いんじゃないッスか?」


山賊に分断されて行商人が来なくなっていた村々で歓迎されたことから、ヴァロアは新しい歌がこの街には無いと考えたようだ。商人がたくさん来ているみたいだから、王都の方向からの旅人だけじゃないだろうに。


「いや、お金を貰うなら断りくらい入れておかないと、また揉めるんじゃない?」


ボクと出会った時、ヴァロアは縄張りが強くて追い出されたと言っていた。面倒事に巻き込まれるのはイヤだよね。


「ん~。でも、アイツ等、場末の酒場しか案内してくれないんッスよ。自分はもっと多くの人に聞いて貰いたいのに。」


歌を聞いてお金を払うのはお客さんだから、どこで歌おうと自分にも勝手だとヴァロアは主張した。個別に対面する占い師とは違って、同じ酒場に2人の歌い手がいると片方が歌っている間は違う歌が歌えない。


飛び入りの吟遊詩人はギルドから、他の歌い手がいない店しか案内してもらえないのだそうだ。場所を提供してくれる酒場の主に直接交渉すると言う。


「交代で歌うワケにはいかないの?」


歌を歌うのだって疲れるし、ブルベリを弾く指だって弦で切れてしまうこともある。交代で歌えば良いじゃないとボクは考えた。


「こういう街の酒場だと、すでに何組かの歌い手がいてお客さんに曲をリクエストしてもらって歌うッスからね。よそから来た珍しい歌い手と、いつもいる聞き飽きた歌い手とだとどっちが聞きたいッスか?」


歌を聞きに酒場に来るお客さんの懐にも限度というものがある。同じお金を払うなら聞き飽きた曲よりも新しくきた歌い手の物珍しい曲に興味を引かれやすいのだそうだ。いつもの歌い手はいつでも聞けるしね。


トラブルを避けるために酒場の主人は通り過ぎる旅の歌い手には大きな場所代を取って、安定して来てくれる馴染みの歌い手を大切にする。場所代を安くしようとすれば歌でお客を引かないような店になって、お金を払ってまで曲を聞きたいという客さんが減ってしまうそうだ。


「でもね、ボクは王妃様の命令を受けてここに来てるんだ。厄介事を起こしてもらいたくないよ。」


ここで厄介事を起こしてしまったら王妃様の名前に傷がつくかもしれない。ボク達の幌馬車にヴァロアが乗っている事は見られているし、カプリオは目立つから印象に残りやすい。


ヴァロアをこの街に置いていく口実になるかもとも思ったけど、騒ぎが大きくなって王妃様の耳に入ったら怒られるかも知れないよね。


「う~わかったッス。ギルドには挨拶しに行くッス。」


眉の間にシワを作ったヴァロアを乗せて幌馬車はゆっくりと街の中を進んでいった。



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次回:『吟遊詩人ギルド』に行こう!


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