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山刀

第6章:手紙を届けるだけだったんだ。

--山刀--


あらすじ:他にも山賊がいた。

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明るくなってきた深い霧を刃こぼれした山刀で切り裂いてふたりの山賊が現れる。


「おとなしくしろよ。まずは金目の物を渡してもらおおうか。」


山賊の大男が付きだす山刀は、刃こぼれしているだけじゃなく錆びも浮いていてロクな手入れをしてないのがわかる。切れない刀で無理やり相手の肉を押し潰してきたのだろう。


鋭利な刃で切られるのとは違って切れ味の悪い剣で切られると、肉が潰れて骨を砕かれた人はより壮絶な悲鳴を上げるそうだ。悲鳴は周りにいる人たちの恐怖を呼ぶ。


この山賊がそれを意識して手入れをしていないのか分からないけど、赤さびた山刀に恐怖を覚えた。絶対に切られたくないよね。


髭を生やした顔をニタニタと嗤わせながら、山刀を見せびらかして嬲るようにゆっくりと近づいて来る。隣に小柄な山賊を引き連れて。


「親分には逆らわない方が良いぜぇ!これまで何十人とそこの渓谷に突き落としてるんだからな。お前たちも落とされたくなかったら、さっさと馬車を降りて降伏しな!」


幌馬車の向こうからも2人の山賊も現れて回り込んできていたから、彼らの準備が整うまでの時間稼ぎをしていたのだろう。4人の山賊が幌馬車を包囲する。


「ひっ!親分!馬じゃねぇ!!」


カプリオの口を取ろうとした山賊が悲鳴を上げる。馬だと思っていたら魔獣のような様相のカプリオがいたからびっくりしたんだろう。それ以上、近づけないでいる。


(相棒!しっかり馬車につかまってろよ。カプリオを走らせて逃げるぞ。)


ボクは今、幌馬車に片手をかけている状態だ。山賊に馬車を取り囲むようにしているけど、すぐには手を出せない距離にいる。ジルの作戦はちゃんと馬車に乗っていないボクを引きずってでも逃げる事だった。


たぶん馬が引く馬車ではできないだろう。普通の馬なら鞭を入れて歩き出すまでに時間がかかるし、走り出すまでにはさらに時間がかかる。ボクらの意図を汲むことができるカプリオだからこそできる作戦だから、山賊たちの意表を突く事がでいるだろう。


ボクにだって山賊に襲われる前に両手で馬車の縁をつかむくらいできるよね。ね。


(ヒョーリ。行くよ。)


カプリオは合図をすると同時に力いっぱい大地を蹴った。


「ヴァロア!つかまって!!」


「え!?あ、わぁ!」


地面を蹴って幌馬車の荷台にしがみついて、山賊に注意を払って腰を浮かせていたヴァロアに注意を呼び掛けた。いつもならゆっくりと動き始める幌馬車がガタンと音を立てて走り出す。ヴァロアを振り落としそうになったけど、馬車の縁につかまって何とか踏みとどまってくれた。


「てめぇ!待たねぇか!」


魔王の城で魔族の乗る魔獣を置いてきぼりにしたカプリオの俊足も幌馬車を牽いてる今は発揮できない。大柄な山賊が叫ぶ中、小柄な山賊が瞬時に動いてひるがえっていたボクのマントをつかんだ。


「はなして!」


「逃げようなんて舐めた真似するからさ。」


ボクは馬車から引き剥がされないように両手でしがみつくので精いっぱいだ。右足はステップに掛ける事が出来たけど、左足を置く場所が無くて空を蹴る。


「ヒョーリィ!前が見えないよォ!」


「カプリオさん右ッス!右に曲がってるッス!!」


深い霧で前が見えなくてカプリオが泣き言にヴァロアが応える。足元の地面はボクが蹴るよりも早く変わって行って、空振りした足が地面に触れて持って行かれそうになる。


たまらなくなって魔王の腕輪に魔力を込めて黒いモヤを山賊の頭にまとわりつかせたけど、「うわっ!」と怯みはするもののマントをつかむ手は緩まなかった。


「兄さん!伏せるッス!」


慌てて頭をすくめると、黒いモヤの中でベゴッと何かが砕ける音がして、赤いモノを飛び散らせた小柄な山賊がドサリと後ろへと崩れ落ちていく。


「大丈夫ッスか?」


ヴァロアが鞘付きの薪割りの剣を片手にボクの手を引っ張ってくれる。鞘には血が付いていて黒いモヤで見えない山賊の鼻面にクリーンヒットしたようだ。


「このやろう!よくもベッズを!!」


引き上げてもらったお礼を言う暇もなく、幌伝いに近寄ってきた山賊の親分の怒鳴り声が響く。カプリオのスピードが十分に乗る前に幌馬車の後ろに取り付かれたようだ。顔を上げるとヴァロアの後ろに2つの影。幌馬車の影になっていて見えなかった山賊だ。


「失礼するッス!」


真っ青になるボクの肩にヴァロアは手をかけるとふわりと舞った。


ドサ、ボキ、ガゴン。


薪割りの剣がかろやかに振られて三つの鈍い音が深い霧に鳴ると、山賊たちが馬車から落ちていく。剣を振り切った細い右手でだぼだぼの青いマントがひるがえり、その下からただぼだぼの白いシャツが露出した。


「また剣に頼ってしまったッス。」


鞘に納めた薪割りの剣を振り払った姿勢のまま、後悔するようにヴァロアはまぶたを閉じて眉をひそめた。残心の後に剣を納める姿は、並の兵士にはできないだろう。


「…剣を使うのが上手だね。」


あっという間に3人の山賊を叩き落としたヴァロアの腕は見事というほかなかった。いや、なんでこんなに強いのに最初に山賊に追われていたんだろう?剣を持って歩けば山賊なんて目じゃ無いよね。


「いやッス。『帆船の水先守』のおかげで少しだけ人より上手く剣を使えるッスけどね。『歌は剣より強し』って言うじゃないッスか。自分としては剣なんて使わないで歌で解決できるようになりたいッス。」


後からヴァロアに聞いた話によれば、ヴァロアの家では12弦のブルベリを趣味にする他に、剣を振る趣味もあるそうだ。どんな家庭なのかボクには予想が付かなかった。遠く東の国に歌で戦争を止めたという歌姫様を称えた『歌は剣より強し』という言葉に憧れて歌の道に進んだらしい。


けど、この時のボクには悠長に尋ねている時間がなかった。


「まだだ!この程度でオレを落とせると思うなよ!!!」


真っ赤な顔をした山賊の親分がボクの髪をつかんで引っ張る。


幌馬車から落ちたと思っていた親分が、ヴァロアの打撃に耐えて登ってきたんだ。親分に幌馬車を乗っ取られれば、すぐに3人の手下が追い付いて来る。


「!!?」


髪を引っ張られてのけぞるボクは、伸び切った喉で息をすることもできなくなった。赤い意識の中で、鼻をかすめた鞘付きの薪割りの剣が走り過ぎる。


ドゴン!という音といっしょに更に後ろに引っ張られるけど、親分の指がほどけて重しが無くなったのが解った。朝霧を切り分けて頭の上に地面が見える。


「兄さん!!」


のけぞって馬車から落ちそうなボクの腕を引っ張ってヴァロアが御者台に引き戻してくれた。


ぽふん。


勢い余って彼の胸に飛び込むと、はだけられたマントの下でしっとりと朝霧を含んだ白いシャツに顔が埋もれた。彼の温かく豊かなふくらみがボクを柔らかくうけとめる。


「あふんッス。」


シャツの下にはふくらみがふたつあった。



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次回:やわらかな『双丘』


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