真似事
第6章:手紙を届けるだけだったんだ。
--真似事--
あらすじ:届ける手紙が増えた。
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「おまたせ。」
マッテーナさんとの話が長くなったので、ハイデスネの作ったお昼ご飯を食べてから冒険者ギルドを出て駐車場に戻ると、カプリオが子供たちに囲まれていた。
魔獣に見えるカプリオが怖いからか、勇者に盾突いたのを知ってるからか、おそるおそる遠くから見ている大人たちが子供たちに離れるように注意している。
魔道具の魔獣であることを目立たなくするためにカプリオの体にかけられた布にニシジオリ国の紋章が入っているせいなのか乱暴には扱われたりしてなくて、子供たちは思い思いにもこもこの毛を撫でたり、のっぺりとした顔の横にある角に刺さった小さな帽子を興味深そうに見ている。
小さな帽子はボクが牢屋に入っている間にカナンナさんが作ったもので、右の角の先には灰色に黒い帯のシルクハット。左の角の先には黄色のリボンの付いた麦藁帽子風のキャプリーヌ。詰め物をして角の先に刺してカプリオが人間を傷つけないようにしているんだ。
カプリオの角はそんなに尖っていないけど、王妃様がもたれかかったりしていたからね。ボクが牢屋にいる間も王妃様は図書館でカプリオに寄りかかって仕事をしていたみたいで、カプリオは残るように言われたようだ。
でも、カプリオは彼のご主人様のお願いだからと、御者台に立てかけられた愚者の剣に着いて行くと言って断った。愚者の剣は未だにボクの手元に有る。他の道具といっしょに返してもらったんだ。
「遅いよ~。」
「しゃべった~!」
カプリオが喋ったのがそんなに面白いのか、小さな子供たちがきゃいきゃいと歓声を上げる。王宮の前の広場で喋ったのだから、多くの人に知られていると思ったのだけど、目の前で喋ると驚くらしい。後ろから誰かが声を当てているとでも思っていたのかな。
「ごめんね。ツルガルの国の事を色々教えて貰っていたんだ。」
「ふぅん。これがカプリオか。」
謝るボクの後ろからマッテーナさん達もギルドを出てくる。受付嬢が受付に居なくても良いのか心配だったけど、彼女たちは気にしていないみたいだ。
馬車に冒険者ギルドで買ったばかりの荷物を乗せて、中に入っていたアンベワリィのお弁当を入れていたカバンを取り出した。魔王の森の帰り道でカプリオが背負っていたカバンだ。カバンの中に王妃様から預かった手紙やマッテーナさんから預かった手紙を移し替えるためだ。
マッテーナさんに幌馬車に乗せるより安全じゃないかと言われたんだ。魔獣に見えるカプリオから盗むには勇気がいるし、寝る時にもカプリオに身に着けていてもらえば安心だ。寝る時はカプリオを幌馬車から外すからね。
空いた場所に数日分の保存食とお金の半分を隠しておくのも忘れないように言われる。
「なかなか良い馬車ね。さすが王妃様の特使さんだ。お、予備の車輪も付いてるじゃない。」
アーノネネが幌馬車の車輪の根元を覗き込む。車軸を見て長い旅に耐えられるかどうか確かめてくれている。冒険者ギルドの受付嬢って何でもできるんだね。
「もうちょっと風通しが良ければいいのだけど。」
荷台の方では食堂担当のハイデスネが綺麗な眉をひそめる。保存食の状態や積み方がおかしくないか見てくれているんだ。ボクが積んだんじゃないけれど、まるで自分が吟味されているみたいで彼女の体が動くたびにドキドキする。
マッテーナさんとソーデスカには馬車の扱い方やハンモックを簡単に取り外せるロープの結び方、馬車の旅で気を付ける事を教えて貰う。
馬車のフックと木の間にハンモックをかければ1本の木でも眠る事ができるとか、当たり前のことなのに言われなければ気が付かなかった。実際にフックのある場所を教えて貰えたので、夜の暗がりで探し回らなくて済みそうだ。
旅に使う4輪の幌馬車は実家に有った2輪の荷車よりも旅に使いやすいように便利にできている。大きめの子供たちも初めて知ることが多いのか、カプリオを離れて聞き込んでいる。遠く離れていた大人たちの中にも近寄ってきて聞き耳を立てていたりするんだ。
「それじゃ、行ってきます。」
「気を付けろよ!」
「またね~!」
「今度こそお土産よろしく!」
「高いやつね!」
「今から行くと野宿になるぞ。」というマッテーナさんの忠告はあったけど、ボク達は出発することにした。だって街に留まっていてもボク達には泊るところが無い。カナンナさんに見送られて出てきてしまったから王宮のいつもの部屋に戻るのもバツが悪いよね。
前に森に行った時に使えなかった狩り小屋に泊ると言い張って出る事にした。あの時は止まる予定だったけど、崖から落ちて野宿することになったんだ。今から行っても野草を採ってる時間は無いけどね。
いつの間にか小さな集団になっていた人たちに手を振られ出発する。おとなしく子供にされるがままになっていたカプリオに大人たちも警戒を緩めてくれていた。
手綱を握るとカプリオがゆっくりと歩き出した。ボクが言わなくても、彼は自分で進んでくれる。
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「おう!小さなパレードだな!」
街の外に出る門で見慣れた門番さんが手をあげてくれた。裏路地で占い師をしていた時に仕事をくれていた衛兵さんのひとりだ。ボクがアンクス達といっしょに勇者のパレードに出ていた事を知っているからからかっているのだろう。
「ボクにはもったいない立派なパレードだよ。」
かなり出発が遅くなったから、もう少し遅くなっても良いかとコロアンちゃんの孤児院にも寄ったんだ。孤児院からはぞろぞろと子供たちが街の入り口の門まで付いて来てまるで小さなパレードのように見える。
子供たちはパレードの先頭に胸を張ってあるいたり、カプリオの口取りをしたり通りの人の交通の邪魔にならないように整理してくれたりと、思い思いに衛兵を真似た行進をしてくれる。
多くの人が見送ってくれた勇者様を見送るパレードよりささやかで見送る人もいないけど、小さな子供たちが居てくれたおかげでボクは街の人たちのヒソヒソ声を聞かずに済んだ。アンクスを殴ったことは町中に知れ渡っていたし、体の大きなカプリオはどこにいても目立つんだ。
でも、子供たちはここまでだ。
「今から街を出たいんだけど良いかな?」
門番さんに王妃様からもらった書類をだして見せる。ボクが牢屋から逃げ出したのではなく、ちゃんと仕事で通るという事が書いてある。
「今からじゃ宿のある街まで行けないぜ。大丈夫か?」
「森の狩り小屋に泊めてもらうよ。なにせ、自分のアパートはもう無いからね。」
心配する門番さんにマッテーナさんに言ったことと同じ言い訳をしてボクは門を通してもらう事にした。パレードをしてくれたお礼にと、荷物の中から乾燥させた果物を別けてあげると多くの子供が歓声をあげて去っていく。
ツルガルの国に居るオイナイさんへのお土産だけど、途中で売っても良いって言ってたいから、ボクが買ったことにすれば問題ないよね。
最後まで残って大きく手をふるコロアンちゃんと門番に手を振って、ボク達は手紙を届ける旅に、ようやく出る事ができる。
「気を付けてね、おじちゃ~ん!」
陽はすでに傾きかけていた。
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次回:『鉄の剣』と勇者グルコマ




