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買い物

第6章:手紙を届けるだけだったんだ。

--買い物--


あらすじ:カナンナさんに見送られて冒険者ギルドに行く事にした。

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「島流しじゃ無いのか?」


カプリオが牽いた馬車を冒険者ギルドの裏の駐車場に停めて受付カウンターに行くと、受付嬢のソーデスカがギルド長のマッテーナさんを呼んでくれた。久しぶりのギルドが懐かしく感じられる。1年ぶりくらいかな。


朝の仕事がひと段落したらしく閑散としたギルドの食堂で、久しぶりに会ったアーノネネやハイデスネを交えて今までの事と隣の国へ行く経緯を話すとマッテーナさんに『島流し』と評されてしまった。


『島流し』とは犯罪者が孤島に送られる事だけを指すんじゃなくて、僻地の住みにくい場所に追いやって隠遁させる事を指すのだそうだ。ボクの住む国には海も大きな湖も無いから島なんて見た事が無いけどね。


貴族にとって死罪ほどではないけれど、牢屋に監禁されたり屋敷に軟禁されたりよりもずっと重い罰だそうだ。料理も野草の見分けも付かない貴族には独りで旅をする事すら困難で死罪よりも辛いとも言われている。島流しに着いて行く家臣もいるみたいだけど。


「一応、特使として任命されてるし、帰ってくる予定だけど。」


ちゃんと王様の印が入った任命の書類を渡されているし、王女様から貰ったナイフにも新しい刻印が追加されている。


「普通は集団で、それも数人の護衛が付くんだ。険しい道を通って野宿をすれば交代で夜警もしなきゃならない。何よりツルガルの王都は『彷徨(さまよ)う街』と呼ばれていて簡単に辿り着ける場所じゃ無いのさ。」


ツルガルの街は魔獣の上に建てられていて同じ所に存在していない。国中を歩いて周って彷徨っているのだそうだ。魔獣を手懐けているって事なのかな。


「普通の人はどうやって行くの?」


「ん、アーノネネ。ちょっと資料を…。ヒョーリ、ツルガルの資料はどこにある?」


マッテーナさんは秘書的な仕事もする受付嬢、アーノネネに資料を取って来させようとしてボクに場所を尋ねた。すかさず『失せ物問い』の精霊がボクに囁きかける。


「第二資料室の奥の棚の上、かな。上から5冊目。なんで棚の上に置いてあるの?」


「うるさい。整理する人手がいないんだ。アーノネネ、頼んだ。」


「え~、奥って、足の踏み場も無いのに?」


以前、整理をしてから一年近く経っているとはいえ、すでに資料は乱雑に散らかっているようだ。やっぱり冒険者ギルドの人たちは整理が苦手らしい。


アーノネネにお使いを頼んで薬草茶を飲んで、ハイデスネの作ったベスターメンをポリポリとかじりながら地図を見せられて、ツルガルまでの道を教えてもらったけど、あまりよく分からなかった。道中にはニシジオリ国のいくつかの村と大きな街が2か所あって、国境の手前に渓谷が横たわっているのだそうだ。


ちなみに、ツルガルは見渡す限りの赤茶けた平地で、森も林も少なく背の低い木々や草しか生えていないのだそうだ。森が無くても生活ができるなんて想像もつかない。焚き木なんかはどうしているんだろう。


「街の方向を示す魔道具もあるらしいが、普通の商人は国境で大体の予想を聞いて探していく。たまに会う遊牧民に会って目撃情報から方向を確認して探すんだ。まぁ、ヒョーリなら『彷徨う街』でも見つけられるか。」


「山が崩れた~!」


「なるほど、適任だ。」と独り頷きながらマッテーナさんは涙を堪えたアーノネネが持ってきた資料を受け取った。アーノネネが「ヒョーリのせいだからね。」と恨みがましい目で睨んでくるから眼を合わせないようにする。


ぱらぱらとめくった資料には大きく平べったい魔獣の上にそびえる大きな街の絵が載っている。大きな建物を中心に小さな家が並んでいるけど、この絵が本当なら魔王よりも大きな魔獣だ。


「これがその街?」


「ああ、ある程度は同じ場所を往復するらしいけど、まったく同じ場所を通るとは限らない。余分に食料を持って行かなきゃならない。オマエ以外は。」


彷徨う街を探すために余分な日数を旅しなきゃならないから、食料が多く必要になるらしい。あれだけ大きな街ならものすごく遠くからでも見る事ができそうなのに。


でも、ボクの『失せ物問い』があれば探す必要が無くなるよね。その分、旅の日数は減るし荷物を減らす事もできる。


「冒険者ってボクでも雇えるかな。」


王宮から特使として任命されているから、旅費としていくらかお金を預かっている。夜警はジルとカプリオがしてくれるけど、はぐれた魔獣に会ってしまったら逃げるしか方法は無い。幸い、食料が少なくて済む分、お金は少なくていい。


「隣の国まで行くヤツはあまり居ないよ。」


国境を越える商人は自分で護衛を雇っているし、冒険者ギルドはニシジオリ王国の中では連携をとっているけれど、さすがに隣の国ではほとんど交流が無いらしい。手紙を出すのも一苦労だしね。


「この国の中だけでも助けてくれないかな。これだけお金を貰って来たんだ。」


お金の入った袋をガチャリと机の上に置いた。今までこんな大金を持ったことが無いから大金持ちになった気分だ。


「バカ!全部見せてどうする。盗まれるぞ。」


大金を見せびらかしたらトラブルの原因になると注意を受けた。ついでに、いくつかに小分けにして少しずつ使ったり、ひとつが盗まれても買い物で困らないように工夫することを教えてもらい、今さらながら旅の注意点を色々と教わった。4人もいるからちょっと耳が痛い。


アーノネネが得意そうにすれば、ハイデスネがチャチャを入れてまったく話が進まない。


後でカプリオにもお金を持たせておこうと思いながら、ひきつらせた笑顔を浮かべるしかできなかった。


「ソーデスカ。空いてるヤツは居るか?」


「良くラスマの街の方へ行って腕が立つ人だとクワッセもタルヒも出払ってるね。昨日ならシタッケが居たんだけど、今は魔王の森方面の仕事が多いから、ツルガルの方へ行く人も少ないのよ。」


ツルガル方面に主に行く冒険者は出払っているらしい。魔王の森が広がったから、砦を作る護衛の仕事や、森からあふれてくる魔獣を駆除する為に駆り出されているらしい。


「アッチに行く仕事のついでなら強引に引き受けさせるんだけど、本格的に雇うには全然足りないし、全部使ったらお前の旅費が無くなるだろ。」


本格的に人を雇うなら仕事の報酬だけじゃなく全員分の旅費まで負担しなきゃならない。護衛が終わった場所からの帰りの分も。それにはボクの持っているお金じゃぜんぜん足りない。


ついでに、ボクが勇者を殴ったことは街中の人が知っている。王宮から特使として任命されてはいるけれど、トラブルに巻き込まれる可能性が高いから特別手当くらいは無いと割に合わないらしい。


「仕方ないね。すこし買い物をしたいんだけど。」


最初からジルとカプリオと三人で行くつもりだったんだ。王妃様も十分に行ってくることができると思ってボクに依頼をしてきたんじゃないかな。毛布とハンモックといくつかの薬に保存食。必要そうな物を買いこんで馬車に積み込んだ。冒険者ギルドに無い物はソーデスネが買ってきてくれたんだ。


「ありがとう。色々参考になったよ。」


「ああ、ちょっと待った。ついでだからコイツも届けてくれ。」


にんまりと笑ったマッテーナさんが手紙の束を渡してきた。


仕事が増えるらしい。



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次回:子供たちの『真似事』



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