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幌馬車

第6章:手紙を届けるだけだったんだ。

--幌馬車--


あらすじ:王妃様は戦争反対。

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「んっふ~!」


数日ぶりに牢屋から陽の当たる場所に出たボクは、めいいっぱい背伸びをして体を伸ばした。燦燦と降る太陽の日差しが気持ちいい。


「さっさと行くわよ。」


カナンナさんに(うなが)されて王宮の裏門までついてくと、馬小屋の前に(ほろ)の付いた馬車を牽いたカプリオが待っていた。


「ヒョーリ!遅い!」


「ごめんね。カプリオ。」


お詫びに頭を撫でてやるけれど、まだ朝も早いから遅いと言われる程でもない。でも、季節が変わるほど牢屋に入れられていれば遅いと言われても仕方がないかも知れない。


鉄格子の中は思ったより不自由しなかった。外に出て散歩をしたり運動したりすることができなかったけど、ジルの声も聞こえていたし魔法も使う事ができた。


時折、牢屋から出されて騎士たちに尋問される事もあったけど、大体は魔王の城での生活の事だった。怖い顔で机を叩いて威嚇されたけど、ボクの喋る事はいつも同じだった。魔王がボクを操ってるなんて絶対に無いのにね。


何も無い石の部屋は退屈かと思っていたけれど、王妃様から書き写しの仕事を貰った事を皮切りに見知った若い貴族たちからも清書や探し物の仕事を請け負い、それを知った騎士たちからも仕事を貰った。


最初に牢屋に入った頃は粗末な机だったのに、騎士たちから仕事を貰う事が増えるにつれて机や椅子だけじゃなく、灯りやペンもどんどん良いものになって行って住み心地が良くなった。最後にはお茶やお菓子も差し入れてくれたんだよね。その分、特急の仕事をやらされたけど。


屈強な騎士たちも書類仕事をするんだと思いながら、備品の管理書や帳簿を書き記した。やっぱり書類仕事をするのが苦手な騎士もいるらしく、ボクの事を怖い顔で尋問した騎士が猫なで声でやってきて新しい防具を購入するための申請書を書く事になった。


お礼に分厚いステーキを食べさせてくれた。牢屋の中でお金を貰っても仕方ないからね。物を貰う事が多かったんだ。


下書きも書くのが面倒だからと口頭で言われた言葉を必要な書式で文語に直したのだけど、騎士が怖い確認している間に生きた心地がしなくなるので、もうやりたくない。


運動不足でちょっぴり太った気もする。


アンクス達が旅立って、ボクが殴ったという噂が下火になるまで牢屋に入れられていた。アンクス達は魔王の森から出てすぐに立ち寄った新しい砦の再建のために旅立って行った。魔王の森から出てくる魔獣から砦を守るために行ったとの事だ。


できるなら、魔王の森を切り拓いて畑を作るのだそうだ。


昨日の内に返却された王妃様からもらった鎧とカナンナさんからもらったマントを身に着けて、ボクは王宮の裏口まで連れて行かれた。もちろん持っていた物もほとんど返してもらえたからジルと姫様にもらった腕輪と白い鍋も返してもらえたんだよ。


「はい、これが手紙よ。」


カナンナさんが手渡してきたのはリュックに入れたら一杯になりそうなくらい大きな木の箱だった。


「こんなにたくさん?」


「中には向こうの王様への親書と王妃様への親書。それから、大臣への親書に、ウチの国の大使、オイナイ様への指示書。向こうに着いたら荷物といっしょにオイナイ様に渡してくれれば手配は全部してくれるわ。他のは無くしても良いけれど、手紙は無くさないようにしてね。」


手紙といっしょにカプリオが繋がれた一台の幌の付いた馬車も預かることになった。カプリオが大きいから幌馬車が小さく見える。けど、大荷物だ。


「コレを独りで持って行かなくちゃならないの?」


大事な物ならボクじゃなくて腕の立つ騎士にでも持って行ってもらえば良いと思うのだけど、ボクとジル、カプリオの他にいっしょに隣の国まで行く人はいない。


街道は比較的安全とは言え、凶暴な動物に魔獣、魔王の森を抜けてきた凶悪な魔獣もいる。絶対に安全とは言えない。王宮から護衛の人を出してもらえれば安心なんだけど。


自分の国がニシジオリ王国という名前だという事は牢屋の中で騎士に教えて貰った。王様の家名、スキヤネン王国じゃなかったんだ。ちなみに、ボクが行く隣の国はツルガル。遊牧をする人たちが集まった国で広い土地を持っているらしい。


遊牧と言うのは、一か所に定住しないで家畜のエサとなる草があるところにどんどん移り住んでいきながら生計を立てるのだそうだ。


土地が余っているなら畑を作るべきだ。魔王の森に浸食されてどんどん耕せる土地も減っていくのだから家畜のエサよりも人間の食べ物を作るべきだ。そんな考えから王様は、いや、ニシジオリ王国は昔から隣の国へ侵略を虎視眈々と狙っているのだそうだ。


「大丈夫よ。カプリオがいるんだから。」


カナンナさんがカプリオを撫でると、のっぺりとした顔についた目が細められる。ボクが牢屋に入っている間に随分と懐いたみたいだ。


(魔王の森よりは安全だろうさ。)


ジルは言うけれど、魔王の森が危険なだけであって比較する対象がおかしいと思うんだ。安全だからって独りで行かなくても良いよね。


幌馬車の中を覗いてみれば荷物は加工された野菜や果物それに麦の入ったタルだった。土の匂いがする。相手の王様宛の手紙を運ぶのだから高価な贈り物でもするのかと思ったのだけど、違った。そりゃ、戦争をしようと思っていた相手に高価な贈り物なんてしないか。


「食べ物ばかりだね。」


「オイナイに故郷の味を食べさせてあげたいのよ。」


良い事を言われた気がしたけど、本音はオイナイさんに故郷の味を食べてもらって祖国への忠誠を思い出してもらいたいらしい。道すがら自分で食べても良いし向こうの国の人に食べさせても良い。行商のフリをしていた方が怪しまれずに村々を通ることができるのだそうだ。


ボクの住んでいた村でも商人以外の旅人って珍しかったからね。


せっかく隣の国まで行くんだから手ぶらで行かせるなんてもったいない、なんて理由もあるみたいだ。荷物よりも馬車の方が高いと思うのだけど、貴族様の考える事は良く分からない。


「馬車の荷物は放棄しても良いけれど、最悪、この筒の中の書簡だけでも届けてね。ベルトに下げておけば良いわ。」


マントをまくって腰のベルトの愚者の剣の隣に金属の筒から出た紐を縛り付ける。中には大きな木箱の中身をまとめた文書が入っているそうだ。最初からこれだけで良い気がするんだけど。箱の中には何が書かれているんだろう。


旅の荷物は魔王の森から帰って来た分を返してもらった。食料は荷物をつまみ食いしても良い。あとは、マントはあるけど毛布が欲しいかな。いや、ハンモックって売っているのかな。アンクス達といっしょに寝たくは無かったから使わなかったけど、ゆらゆらと揺れながら星を眺めてみたい気もする。


マッテーナさん達の顔も見たいし、今度は幌馬車があるから旅に使えそうな雑貨をもう少し手に入れたい。冒険者ギルドにも寄って行こう。


そう考えながらボクは幌馬車に乗り込むとカプリオはゆっくりと歩き出した。


「行ってきます。」


「行ってらっしゃい。気を付けてね。」


侍女の服装のカナンナさんが大きく手を振ってくれた。



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次回:冒険者ギルドで『買い物』


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