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凱旋パーティー

--凱旋パーティー--


あらすじ:カナンナさんが殺されてもボクはきっと勇者を殴る。

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(オレでも殴ってくれてたか?相棒。)


カナンナさんの問いに答えた『きっとね。』というボクの言葉にジルの声が聞こえた気がした。いや、本当に聞こえたんだ。きょろきょろと辺りを見回してもジルの細い体を見つける事はできなかった。


(それじゃ、積もるお説教は後でね。)


カナンナさんがもう一度ウィンクをして「おとなしくしているのよ。」とて2回紐を引く。牢屋のある部屋からの退出の合図だ。重たい扉が外から開けられて騎士たちに感謝をと他愛もない世間話を残して去って行った。


(そうそう、傷ぐらい治しなさいよ。痕が残るわよ。)


(ヒョ~リ~、傷だらけなの?)


カナンナさんの声に続いてカプリオの心配そうな声が聞こえてくる。重たいドアを越えてジルの『小さな内緒話』を通して。


慌てて自分に浄化と治癒の魔法をかけると、スッと体から埃っぽさが消えて傷が癒える。


(おいおい、返事も無いのかよ。)


(どうして…?)


どうして、ジルの声が聞こえるのだろう。さっきまでは聞こえなかったのに。


(そりゃ、カナンナに頼んで『小さな内緒話』が届く所まで連れて来てもらったからだ。)


ジルによると、カナンナさんがボクに夕食を差し入れるついでに、牢屋の近くの壺の中に差し込んでもらったのだという。騎士の下男たちが使う部屋に置いてある壺には古い槍やホウキなんかが差してあって、ボロボロの棒きれが一本増えた所で誰も気が付かないだろうという事だ。


(そうそう、こうして話せば、アンタを問い詰めてボロを出してもアイツ等には聞こえないでしょ)


カナンナさんが詰問してうっかりボクが不利な事を言ってしまっても、ボクを捕まえている騎士たちには『小さな内緒話』は聞こえない。知らなかったけれど、この牢屋がある部屋には『伝声管』と呼ばれる管が通してあって、捕まった人たちがうっかり口を滑らせないか聞き耳を立てているらしい。


ボクが入っている牢屋にカナンナさんを独りで入れたのも、騎士たちがボク達の話の中に何か無いかと探るためだったらしい。そうでなければいくら鉄格子があるとはいえ、か弱い女性を犯罪者と2人っきりにするなんて絶対にありえないそうだ。


普通は何かあった時のために牢屋のある部屋には2人以上で入れるハズだと笑って言われた。鉄格子越しに面会者を捕まえて首を絞めるなんて事が何回も起こっているんだそうだ。


(まったく。『魔族のお姫様に恋してました』なんて聞かれていたら面倒な事になっていたでしょう。なんのためにフランソワーズちゃんを使うのか分からないわ。)


(申し訳ありません。王妃様。はしゃぎ過ぎました。)


今度は王妃様の声が聞こえた。何が起こっているのか全く解らない。ジルとカプリオ、カナンナさんに王妃様。少なくとも4人が『小さな内緒話』で話をしている。


もしも、ボクが魔族の姫様に恋をしていて、それが今回の騒ぎの原因だったなら間違いなく死刑になっていたそうだ。恋心から生まれる復讐は根が深いから、許した後も同じような騒ぎを起こす事が多いのだそうだ。


ボクもまた、同じように姫様をけなされたと感じたら暴力を振るうかもしれない。気を付けよう。


(時間が無いから、さっさと話を続けるわ。)


この後、アンクスの魔王討伐のパーディは予定通り行われるらしい。いや、カプリオの『愚者の剣』という発言を受けてアンクスが偽物の勇者と言い出す人たちを押さえるために、絶対に開かなくてはならないそうだ。


(申し訳ありません。ボクのせいで。)


(良いのよ。あのまま勇者を持ち上げすぎていたら戦争になっていたかもしれないからね。)


(戦争に?)


(その話は長くなるから、後で聞いてね。)


後からカナンナさんに聞いた話だと、魔王の森が広がって減った領地を補うために、王様の号令で隣の国へ戦争を仕掛ける用意がされているという。そのために勇者アンクスを持ち上げる用意もされている。勇者の力を戦争に使おうとしていたんだ。


王様としては魔王の森が自分の国の法へ広がれば領地も減るし、森と接する境界が増える。森が広がって魔獣が出てくる可能性が増える上に、襲われる場所が増えてしまう。


だから、魔王を倒して森の拡大が収まっている間に、隣の国に進撃して畑にする領土と、森との境界を守る兵、そして森から遠い安全な街を増やしたいそうだ。


でも、王妃様は戦争に反対している。いくら自分たちが困っていても、隣の国に迷惑をかけるべきではないと、思っているそうだ。


(大体の事情はフランソワーズちゃんとカプリオちゃんに聞いたわ。それで、取引をしたいのよ。そこから出してあげるから、私の下につきなさい。悪いようにはしないわ。)


(ボクなんかで間に合うのでしょうか。)


ボクは探し物しかできない。ボクなんかが王妃様の助けになるとは思えなかった。返事を言いよどむボクに、王妃様が笑ったように思えた。ジルの『小さな内緒話』で話しているから顔なんて見えないのにね。


(前にも言ったように彼方は役に立つわ。魔王の城から生きて帰ってきただけでもね。でも、しばらくはウチナに付ける事もできないし、王宮に残っていられると困ることになるの。魔王城から帰ってきたばかりで悪いけど、ちょっとお使いに行ってもらうわ。)


ウチナ王女様に付いて海のある国へ行って物語や詩を読む仕事を言われたことがあったっけ。ホントに考えていたとは思っていなかったけど。でも、魔王がいなくなって王女様が疎開する必要も無くなった。王様の主催する会場を荒らしたボクが王女様に贔屓にされれば要らない不満も増える。


行き先は、隣の国。


王様が戦争を仕掛けようと考えている国だった。



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アンクスは本物の勇者である。


それは、その晩に開かれた魔王討伐のパーティーで王様の口から再び告げられた。魔王を倒したお祝いの言葉と共に、王様はアンクスの持っている剣を(かたく)なに『勇者の剣』だったと言い張った。


でも、王妃様は違った。


アンクスが持つ剣が『愚者の剣』であるという事は肯定して、その剣に付けられた名前の(いわ)れをカプリオに聞いた通りに話されたのだそうだ。


伝説の勇者グルコマ様は賢者に『勇者の剣』を作ってもらった。そして、『勇者の剣』で魔王を倒した後、剣の名前を変えた。『愚者の剣』へと。


魔王を倒したグルコマ様は隣の国へと攻め込むのを手伝うように、と当時の王様に言われたのだそうだ。アンクスと同じだね。アンクスはこれから言われるのだけど。


グルコマ様は戦争に駆り出されるのを嫌って、連れ帰った魔族の子供を連れて魔王の森の縁に村を開いたけれど、自分の意志に従わなかったと考える王様によって何度も村を攻められた。村を護るために『勇者の剣』は何度も振られた。


グルコマ様は村を護るためとは言え人間と争うために使われるなら『勇者の剣』とは言えない『愚者の剣』で十分だと、ずっと言っていたそうだ。


カプリオにもたれかかった王妃様は、その話をパーティーで広めて、アンクスは勇者なのだから愚者の剣を振らないでしょうと言って、勇者と『勇者の剣』が戦争に使わないように腐心(ふしん)していたそうだ。



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次回:新章『手紙を届けるだけだったんだ。』




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