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裏路地占い師の探し物 ~勇者様のせいで占い師を続けられなかったんだ。~  作者: 61
第1章:占い師を辞めなくちゃならなかったんだ。
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小会議室

--小会議室—


あらすじ:仕事が増えた。

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ソーデスカに頼まれた複写の仕事をするために机を探して小会議室を開けると、そこには資料の山が有った。備品室はきちんと整えられていたので安心していたのに。


(おいおい、ここもかよ。)


ジルの(なげ)き声が聞こえる。


資料室ほどではないけれど机の上に積まれた大量の資料の山。ソーデスカはどんな資料が有るのか判っているような事を言っていたけど、全然整理されていない


(小会議室の資料は把握(はあく)しているみたいだったけど、整理まではされていないんだね。)


(よく使う資料が入っているって事だろ。きっと資料を取りに来るたびに山がひっくり返るんだぜ。)


とにかくソーデスカに頼まれた複写をするには机を使えるようにしなきゃならない。


床にまで崩れた山を整理しつつ、新しく積み上げた山の上に机の上の山を乗せて作業が出来る場所を確保しなければならない。積まれていく資料の山がどんどん高くなっていく。


(こうやって資料がどこに行ったか判らなくなるんだな。)


ジルがしみじみと言うけど、山を作らなきゃ場所を空ける事ができない。複写の仕事の期限は言われなかったけど、文筆ギルドに依頼をしないで近場のボクに依頼をするくらいなのだから、早く欲しいのかもしれない。


(微妙なバランスをとっている山もあるから、きっと乱暴に扱われているよ。)


机の上にあった山は崩れるくらい乱雑に積まれている。崩れる山の隣で作業したくないので机の資料も整理したいけど、早く頼まれた仕事を片付けてしまわないと、いつソーデスカが取りに来るかわからない。


新しい山を作って、なんとか作業できる広さを確保した机の上に、道具を広げてカリカリと文字を書き写す。


(やっぱりオマエって字が綺麗だよな。)


(筋肉痛が痛くて、いつもより字が(ゆが)んでしまっているよ。)


(筋肉痛とは痛いものだよ。)


ジルにツッこまれる。


資料運びで疲れた腕に治癒の魔法をかけるけど、筋肉痛は怪我でも病気でも無いので効きが悪い。疲労回復のポーションでも使えれば良いのだけど、あいにく持ち合わせがない。


(師匠の代筆をやらされた時に字が汚いと、そのたびに怒られていたからね。もっとも師匠の文字が汚かったから代筆させられていたんだけど…。)


(厄介な師匠だな。)


(まぁ、1年前に喧嘩して飛び出してそれっきりだよ。師匠の所に居たのは3年くらいかな。)


(3年で上達するほど怒られていたのかよ!?)


(ああ、文字を習ったのも師匠からだったから。良く怒られていたね。)


(…まぁ、3年でこれだけ上達するなら、字をきれいに書く才能は有ったんだろうな。)


(そうかな?でも、文字が書けたって大したお金にはならないよ。)


文字を書き移すだけなのでカリカリと書く手は止めない。内容を読むくらいなら師匠の機嫌を見ているか、占いのお客さんが通らないか気にしている方が良かったからね。


(他人の文章を写している限りは儲けられないな。自分で文章を作る気はなかったのか?)


(たぶん文章を書く才能は無いよ。)


いつも書いてある文字をそのまま書き写すだけだ。


(練習すれば上手くいくかもよ。)


(何を書くにしても読む相手が居ないから、手紙も書く必要も無いんだよ。せいぜい言われたことを書き上げる代筆が良い所だよ。)


(文字を読める人なんて限られているからな。物語でも書いてみるか?)


(それこそ本が買える貴族くらいしか読む人が居ないよ。それに貴族が庶民の物語を読んで楽しいのかな?)


バタン。


小会議室のドアが開く。


「あ、ごめん。使ってた?って、この机の上に有ったノマンマの資料どこにやったのよ!」


ソーデスカと同じくギルドで受付をしているアーノネネが部屋に入って来るなり騒ぎ出した。資料の山を積み替えてしまったのでアーノネネが前に置いた場所が判らなくなったのだろう。


『失せ物問い』の妖精がアーノネネの質問に自動的に答えて囁いてくれている。


「ここの机に有った資料はそこの山の上に乗せたけど、そのノマンマの資料ってのはあっちの山の中に有るよ。」


「アンタが動かしたの?急ぎで使いたいから探すのを手伝って!」


と言ってアーノネネはボクが「あっちの山」と指さした方には目もくれず、机から動かしたと言った方の山をひっくり返し始めた。


(信用されてないな。相棒。)


(まぁ、ボクには場所が解っているから良いけどね。)


幸い、山の上の方に有るみたいだ。5冊ほど資料をどかしてノマンマの資料を掘り当ててアーノネネに渡してやる。


「これがノマンマの資料だよね?」


「え!?本当にそこに有ったの!?ごめんね疑ったりして。ありがとう。」


アーノネネはそういうと、ボクの腕から資料をひったくるように持ち去っていった。


(乱暴なヤツが多いな。)


(冒険者ギルドだから荒くれ者を相手にしてるウチにそうなるんだよ、きっと。この間もハイデスネがお尻を触られたとか言って冒険者を殴り飛ばしていたしね。)


このギルドの女性陣には何かしら武勇伝が有る。ギルドの食堂に居るハイデスネは特に手が出るのが早いから、受付嬢と同じようにカウンター越しに接客するようにした方が良いなんてジョークが言われていたりする。


アーノネネが居なくなって静かになった小会議室で、カリカリと文字を写す仕事に戻ることにする。


バタン。


「次はサワーパーペの資料よ。」


アーノネネが叫ぶと『失せ物問い』が自動的に囁く。資料を取り出すとアーノネネが奪っていく。そんな事が、5枚の複写を終えるまでに5回ほどあった。多すぎる。


これが資料室が山になっていく原因だよね、とジルと乾いた笑いを共有していた。



アーノネネが飛び込んでくる5回のアクシデントをこなしながら複写を終えて、カウンターのソーデスカに渡しに行くと、すでにお昼を過ぎていた。


「ヒョーリ!ご飯は食べたの?」


食堂に居たハイデスネが聞いてくる。


(きっと自分のトコロで食べさせる気だぜ。気を付けろよ相棒。)


ジルが注意してくれる。ギルドの食堂は安いからここで食べても良いのだけど、昨日からギルドで良いように使われているから警戒しているみたいだ。


「ゴメン。お昼は食べないつもりだったんだ。なにせお金が無くてね。」


朝食は安く買ったパンをかじれば済むけど、夕食は占いの客待ちをしたいから、少々高くても人の来る食堂でお客待ちをしながら食べなきゃならない。


お昼ご飯は抜いて少しでも節約しておきたかった。


「アーノネネが感謝の印にオゴるってさ。珍しいことだから食べていきなさいよ。」


アーノネネがオゴってくれたのは一番安い定食だったけど、すきっ腹に染みた。



「昼食ありがとう。美味しかったよ。」


食事を終えてアーノネネにお礼を言う。


「いえいえ、こちらこそありがとう。それと疑ったお詫びだからね。だから今度また資料を探す時に手伝ってよ。今度はタダでね。」


しっかりしてる。こうでなきゃ冒険者ギルドの受付嬢は務まらないんだろうね。


「しばらくは資料室に居る事になると思うから、その間に声をかけてくれれば手伝うよ。」


(おいおい、安請け合いするなよ。)


(気分転換にはなるだろ。)


(それで済めば良いけどな。)


複写の仕事と違って、『ギフト』を使えばすぐに終わるのだから大した手間もかからないだろうけど、ジルには不安が残るようだ。



さて、午後も残り少ないけれど作業を再開しよう。



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次回:仕事が詰まった『第2資料庫』



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