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カプリオの村

--カプリオの村--


あらすじ:魔王の腕輪は隠すことにした。

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鳥笛が聞こえると、ウルセブ様も緊張した面持ちになる。カプリオのいた村は、森の中の目印の無い場所と違って、明らかに開けた空間になっていて待ち伏せされる可能性が高い。さほど開けていない場所に置いてあったリュックを回収する時も辺りを警戒したくらいだからね。


セナ達がカプリオの村に来たことから、魔族だって村の存在を知っているのは明らかだ。まっすぐに森を進んでいれば、ジグザグに進んだボク達よりも先に村に着くこともできる。ボク達は魔族の追手から逃げるためにジグザグに進んで森の中で寝る事を増やしているんだ。


だからセナ達に連れられて魔王の城に行った時よりも時間がかかっている。セナ達は魔獣に乗っていたけど、ボク達は何日も森を歩いていたしね。


魔族が待ち構えているかも知れないのに村に寄る理由のひとつは、ウルセブ様の魔道具の魔獣と空飛ぶ青い馬車があるからだ。


魔王の城へ忍び込もうというのに、森の上を走る青い馬車を引いていくわけにはいかない。青い馬車が空にある分には、空の青に紛れて見づらくなるらしいんだけど、魔王城の高い場所から見下ろせば深い緑の森の中に青い点がぽつんとできてしまって目立ってしまう。


まぁ、せっかく空と同じように青くしたのに太陽を背にしてしまえば空に黒い点が浮いたようになってしまって、あまり役に立たなかったとは、ウルセブ様は言っていたけど。


馬車の色を決めるだけなのにそこまで考えていたとは驚きだった。てっきり勇者様がパレードで目立つためだけに綺麗な青にしているんだと思っていたよ。そう本音を伝えたらウルセブ様に怒られた。


もうひとつの理由は、魔族の追手を人間の村に近づけさせないため。


魔族はめったにカプリオの村まで来る事は無い事は姫様に聞いている。それを伝えても追手がいると想定して準備すべきで、村の開けた場所に魔族がいて先に見つける事ができれば戦いも有利に進める事ができるとライダル様は言っていた。


森の木々の間を跳ねまわる魔獣に乗った魔族達を相手にするのは骨が折れるし、待ち伏せされていても、こちらのタイミングで仕掛ける事ができる。アンクスの『破邪の千刃』を使うなら、森の中より見渡せる村の方が良いんだよね。


それに、森を抜けて人間の兵士たちといっしょに戦う事になると、アンクスの『破邪の千刃』は使えなくなる。広い範囲に刃が現れる『破邪の千刃』は仲間の兵士たちをも巻き込んでしまう。


ボクの『失せ物問い』で魔族の位置まで知ることができれば良かったんだけどね。


アンクスのように勇者の剣とか名のある品物でも持っていない限り、生きている物の場所までは問えないんだ。アンクスに『使えねぇ~。』と言われたのに腹が立った。


村の周りを含めて足跡や野営の跡が残っていないか確認する間、ボクは手持無沙汰になった。足跡なんて見分けられないボクが歩き回って下手に見つかるとアンクス達にも危険だからって、村から離れた場所で待機させられているんだ。


ボクみたいな素人がいても邪魔になるだけだからね。魔族に見つかってすぐに捕まっちゃうに決まってる。


(カプリオは本当にボクに付いてくるの?)


いつでも逃げられるようにカプリオに乗って、背中からボクは尋ねた。カプリオには夜も、魔王城に行く時も逃げる時もお世話になっているから付いて来てくれると嬉しい。


(村に埋もれていてもヒマだからねぇ~。)


(なんで今まで村から出なかったの?)


ご主人様の命令だと言うけれど、村に誰もいなくてヒマだというなら、さっさと出て行っていれば良かったのに。


(ボクだけで人間の街に出たら追いかけまわされるだろうからさ。)


一風変わった魔獣の姿をしているカプリオだけで人間の街に出たら大騒ぎになる。人間、つまりボクと一緒なら、他の人たちだって話くらいは聞いてくれるんじゃないかと思っていたんだって。


(それに、剣が2本もあったんだよ。ボクの腕じゃ持って歩けないからねぇ。)


カプリオは細い前足を器用に上げてヒヅメをひらひらさせた。1本なら口で咥えていくことができるけど、2本もあるとアゴが重さに耐えられないんだそうだ。ボクだったら1本でも剣を口に咥えて持ち運ぶなんてでき無いよ。


3歩進んだら、つま先に落としてしまいそうだ。



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その晩は、小さなパーティになった。


結局、魔族は待ち伏せなんてしていなかった。野営をした焚火の跡はおろか足跡さえ残っていない。セナ達が多くの兵士を連れて魔王の城を出てしまっていて、城の警備が手薄になってしまうから追跡は諦めたんだろうか。


魔王がボクを帰そうとした遺志を受け継いだと思うのは、自意識過剰なんだろうか。


村には結界があって魔獣を通す事は無いし、誰かが通ればカプリオが知ることができる。夜も広く足場のない場所で、青い馬車に乗って空の上で寝る事ができれば魔族だって簡単に手出しができない。魔王の森を警戒して進んでいた緊張がほぐれていく。


畑の野菜も『ギフト』で管理してないから少し小ぶりだけど新鮮で、時間も立っていないのにチロルが増えていたからお肉も沢山ある。森の中で回収したリュックとは違って、青い馬車にはお酒も積んであったからね。緊張がほぐれていくのも仕方ないよね。


ウルセブ様の作る料理の種類も増えて酒も手に入ったから、安全を確認しながら数日村に泊まって魔族の追手が居ないと判断できてから魔王の森を出る事になった。


いくら安全とは言えアンクス達と同じ青い馬車の中で寝る気は起きなかったので、森の中と同じようにカプリオに抱きついて寝る日々が続いた。カプリオが愚者の剣に付いてくると言ってくれなかったら、狭くて居心地の悪い青い馬車の中のハンモックで寝なければならなかったので大助かりだ。


村を出るとボクは空の上へ追いやられた。


ボクの事を守って戦うのは面倒なんだそうだ。ウルセブ様は自分の魔獣に乗って、魔法のロープで青い馬車を引っ張っている。空を飛んでいる所を魔族に見つかるかもしれない緊張は有ったけど、何事も無く順調に青い空を青い馬車が進んでいく。


空から深い森の中を見通す事はできないけど、森の木々が揺れればアンクス達に教えなきゃならない。魔族の乗る魔獣は木を蹴って移動するはずだ。責任は重大で教えられた方角と距離を表す暗号を唱えながらずっと笛を手に握ったままだった。


魔族の追手が居ないと確認できたので最初に村へ行った時と同じ最短の道を辿(たど)っている。眠った夜の数から考えると、もうすぐ魔獣の襲撃があったタガグナル砦が見えてくるはずだけど深い森には切れ目さえ見えない。。


タガグナル砦は石ででききていて背が高いし、そこに詰める人たちが作る広い畑があるから、見落とすとも考えにくい。何より、まだ魔王の森の端まで来ていない。


(もう森から抜けても良い頃なのにな。)


(見渡す限り緑だね。)


さすがに馬車にカプリオの乗る場所は無いから、ジルと二人きりで馬車の上だ。延々と続く魔王の森に辟易(へきえき)しながらジルが呟いた。深緑の木々は美しいけど、ずっと変わり映えのしない景色に飽きているんだ。ボクはいつ木が動くかとドキドキしたままなのに。


(おい、向こう!右の方に何かあるぞ!)


ジルに(うながさ)されて見た先には森に埋もれた石の砦の姿があった。



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次回:魔王の森に呑まれた『苔むす砦』


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