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お尻

--お尻--


あらすじ:モンドラ様怖い。

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ザクザクと歩く森の中。


「ヒョ~リ~、この人邪魔だよぉ~。」


カプリオが情けない声を上げた。


カプリオの背中には荷物が増えていた。


ひとつはアンクス達が持っていたカバン。もうひとつはアンクス達が途中で隠しておいた食料の入ったリュックだった。他にも2つ同じように隠してあるらしい。


魔王と戦うために邪魔だった帰りの分の食料を、逃げる時に回収できない可能性を考えて3か所に分けて隠したそうだ。魔王を倒して魔族の追手から逃げる時に狩りをできるとは限らなかったからね。


今はその2つ目のリュックがある場所を目指している。


一夜が明けた後、アンベワリィのお弁当をみんなで分けて言葉少なく出発した。マッシュポテトは日持ちがしない為か昨夜食べた分しか無かったけど、果物や野菜、干し肉が入っていた。


ありがたく分けて食べる。


お弁当だけでもかなりの量の食料になる。他にも獲れる動物や野草もあるから隠したリュックの食料が無くても足りそうだ。でも、まっすぐ人間の街を目指して進んでしまっては追手に見つかりやすいとモンドラ様が判断されたので、食料のリュックを目印にジグザグに進んでいる。


魔王を倒したのだからもっと魔族に追いかけられるかと思っていたけど、ジグザグに歩いている効果なのか、魔族には会わないでいる。


魔王の森で迷子になっても、ボクの『失せ物問い』で人間の街までの正しい方向が判るしね。


「あ、あの、もう少し離れてもらえませんか。」


カプリオの苦情は何度目かになるけれど、この変わった魔法使いは一向に聞く気が無い。普段は他の事にも興味を示すことが無いのに、魔法と魔道具、料理にだけ興味を向ける魔法使い。ウルセブ様。


他の3人は少し先を進んでいる。辺りを警戒しながら魔獣を倒す役目をしてくれている。ボクはその後を少し離れて着いて行っている。離れる事は少し危険かもしれないけど、アンクスとモンドラ様とギスギスした雰囲気から遠ざかりたかった。


いや、本当は彼らの倒す魔獣の死骸を見たくなかった。


ずぶずぶと崩れていく死骸を。


だから、彼らが見えない程度に離れて勇者の剣を『失せ物問い』で確認して追って歩く。


前方から時折、何かと戦う音が聞こえて足を止める。先に倒してくれるので魔獣には出会わない。戦いがあった場所を通る時にはジルやカプリオに足元を見てもらって、なるべく上を向いて歩いた。うっそうと茂る深い森の葉の重なりを見ながら。


血の匂いを嗅ぎながら。


「ん、ああ、なぁ、ちょっと分解しても良いか?やっぱり、ここの動きが気になってのぉ。」


歩きながらもカプリオのお尻を撫でまわすウルセブ様が素っ頓狂な事を言い始める。カプリオの中の魔道具の仕組みが知りたいらしく、動くカプリオのあちこちを撫でまわしていた。彼は今、カプリオのお尻に夢中だ。


(ねぇ、ボク達だけで魔王の森を抜けられないかな。カプリオの足の速さがあれば誰も追いつけないよね。)


歩きながら考えていた事をジルを通してカプリオに尋ねてみる。カプリオに直接尋ねる事もできるけど、ウルセブ様の前で彼らをおいて行く相談をするのは、『小さな内緒話』で隠れて聞かなきゃ体裁が悪いよね。


魔王の城を壁も屋根も使って縦横無尽に駆け回ったカプリオには誰も追いつけない。ボク達だけで森を抜ける事ができれば、カプリオもウルセブ様から解放される。ボクも魔獣に怯えなくて良いし、アンクス達といっしょに居る必要も無くなる。良い考えに思えたんだ。


(無理だよぉ。魔王城から逃げる時に魔力をたくさん使っちゃったからねぇ。)


普段、普通に動き回る分なら自動で回復して少しずつ魔力を溜めているけど、全速力で走る時には溜めていた魔力をたくさん使わなければならないらしい。魔王城を走り回ったカプリオの魔力の残りが少ない。


(ボクはご主人様のための人形だったんだもの。走り続けるようにはできていないのさ。)


それは以前にも聞いたことがある。カプリオのご主人様は賢者様のお孫さんだ。孫のキグリさんが赤ん坊の時に安らかに眠れるようにと賢者様が作った人形がカプリオの元になっているらしい。赤ん坊が抱く小さな人形だったと。


(だから、あんなに寝心地が良いんだね。)


昨夜も、魔王城で初めて寝た日も、カプリオのモコモコの毛皮に包まれて寝た。吐いて疑われて最悪の気分だったのに、カプリオに抱きつくと温もりと良い香りがして落ち着いて眠れた。


(でしょでしょ。でも、逃げる機能はご主人様が大きくなってから付け加えたモノだから、あんまり得意じゃ無いんだぁ。)


逃げるための力はカプリオのご主人様が独りで出歩くようになって、イザという時のために付け足された物らしい。ある程度逃げる事ができれば近くに必ず賢者様か勇者様が居た。勇者の剣を作った賢者様と、勇者の剣を持って戦った勇者グルコマ様が。


その後もご主人様が成長するにつれてできる事は増えたのだけど、村を治める補助的な物がほとんどで、その中に魔獣を避けながら何日も魔王の森を走る機能は残念ながら無かったそうだ。そんな力があれば真っ先に逃げてるよぉ、と嘆いていた。


となると、カプリオを助けるためには何かの話をして、ウルセブ様の気を逸らさなければならない。だけど、少し前に話しかけた時も失敗しているし、ウルセブ様が好きな魔道具、それも賢者様の作った魔獣の魔道具を越える話題なんて思いつかない。


「あ、あの、魔王に勝ったのに、なんかあまり嬉しそうじゃないですよね。」


ボクに魔道具の知識なんてないから仕方なく少し気が滅入る話題を出すことにした。共通の話題なんて魔王の話しか思いつかない。魔王にもお世話になったし、姫様の事を思い出してしまうけど、他の話題が思いつかない。


人間の街の様子を聞いても興味が無いのか生返事だったし、魔王の森の話をしたら2言くらいで終わってしまった。


それでも、料理を手伝ったりしているから、旅の初めに比べれば話せている方だと思うけど。


「ん、まだ、安心できる距離ではないからのぉ。」


ウルセブ様はお尻を撫でる手を止めない。魔獣に乗った魔族達なら徒歩のボク達に追いつけそうな距離だから当然か。やっぱり失敗だったかな、少し勇気を出したのにと、ため息を吐くと、意外にもウルセブ様は話を続けた。


「という事もあるが、今回の戦いについて不可解な事もあってな。」


魔族の街でも城でも、魔王と戦う前に出会う魔族が少なかった。グリコマ様の英雄譚から推測していた数と違って少なすぎるという事らしかった。当時から比べれば治癒の魔法のおかげで人間の数は数倍にも膨れ上がっているのに。


「たぶんそれは、魔族が討伐に出ていたからですよ。」


アンクス様達が来る前にヤンコの人たちが騒動を起こした。それで、セナは慌てて迎え撃つ砦を築くために兵士以外の魔族も多く連れて行ってしまった。


「魔王の部屋の前でさえ全く魔族がおらんかったのじゃぞ。いくら人手が足りなくても、大事な王の居る部屋の守りの手を無くすわけにはいくまい。例えそれが王のいない空の部屋だったとしてもじゃ。」


答えても良いものなのか少し言葉に詰まる。


「人間が侵入したと聞いた時、ボクは姫様と魔王といっしょに居たんです。その時、魔王はボクにウルセブ様達に会ったら部屋を教えるように言われていました。」


実際にはウルセブ様達に会った後にジルの『小さな内緒話』を通してカプリオに言われたのだけど、ジルは隠れていたいだろうから事前に言われていた事にした。少し違うけどおかしくないよね。


「なるほどのぉ。最初から仕組まれていたのか。警戒してコソコソしておったのがバカみたいじゃ。」


ウルセブ様は盛大にタメ息をつく。


それでも、カプリオのお尻を撫でる手を止めなかった。



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