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廊下

--廊下--


あらすじ:ジルにも心残りがあった。

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ジルと一緒に魔王の城に残ることを決めたけど、姫様の部屋にも戻れずにジルを抱えて石で作られた冷たい長い廊下をトボトボと歩いていると、ガチャガチャとした鎧の音と共に何人かの足音が近づいてきた。


「おい!止まれ!!」


魔族の兵隊たちだ。大部分の兵士たちはセナといっしょに街を守るために出て行ってしまったけど、魔王城を守るための兵隊はもちろん残っている。この人たちは城に乗り込んできたアンクス様達を探しているようだった。


「なんだ食堂で働いている人間か。紛らわしい。」


兵隊さんの中にいつも食堂を利用している人がいて、ボクの事を覚えている人がいたのは幸いだった。いつも隣にいるカプリオの方が目立つから、顔なんて覚えていないかとも思っていたんだ。ボクも良く喋る人以外は、あまり魔族の顔の区別なんてつかないからね。


「ごめんなさい。何かあったの?」


とっさにアンクス様達の事を知らないフリをして問いかけてしまった。姫様とジルが城にアンクス様が入り込んだとは言っていたけど、どういう状況になっているか聞いてみたかったんだ。


「城に人間が忍び込んだんだ。どこから入ってきたか解らんが、ちょろちょろと逃げ回っていてな。」


「何人くらいいたの?」


「数人いたらしいぞ。独りじゃなさそうだ。」


「へぇ。どんな人だろ。」


「知り合いか?いや、オマエが人間を引き入れた、とか?」


「いやいやいや、最近は城から出ても無いよ。」


兵士の黒い目が細くなり声も低く落とされたから慌てて否定した。


本当は知り合いだけど、ボクが招き入れただなんて疑いをかけられたら面倒だ。もっと剣の特徴を聞いたり、服装なんかを聞いたりしたかったのだけど。まぁ数からすると、アンクス様だけじゃ無くてライダル様にウルセブ様、モンドラ様もいるみたいだね。


「それもそうか。なら、食堂に行ってろ!間違えて槍で突いてしまうかもしれんぞ。」


鼻息も荒く槍を突き立てて脅した兵士たちが、魔獣を連れてガチャガチャと音を立てて去っていくのを見送っていると、不意に後ろから口元を押さえられて部屋の中に引き込まれた。魔族の4本指の手じゃない。ごつごつとした肉刺(まめ)のある人間の5本指の手だった。


「なんでオマエが居るんだよ!?」


押し殺した声でアンクス様が聞いてきた。


カーテンの引かれた薄暗い部屋の中で目を凝らすとライダル様にウルセブ様、モンドラ様もいた。しっかりと武装しているのは魔王を倒しに来たんなら当たり前か。


「なんでって…。」


「オマエは勇者の剣を手に入れた村で居なくなっただろ。探しても見つからねぇし。」


そっぽを向くアンクス様がボクを探してくれたと聞いて少しだけ心が動く。ボクなんて探しもしないで建物の下敷きになって死んだ事にして帰ったと思っていたからね。


「あの時は教会の下敷きになっていたんだ。」


アンクス様の破邪の千刃で倒壊した教会に巻き込まれて、カプリオの居た地下室まで落ちてしまった事、ようやく外に出たと思ったらアンクス様達が居なくなっていた事を説明する。


「で、穴から出たら魔族に捕まったと?チッ、アイツ等まで生きていたのかよ。あれで死なないとかバケモンだろ。」


アンクス様が悔しそうに頭を掻く。セナ達を巻き込んで教会が倒壊させたと思っていたようだったけど、森の中から出てきたんだから上手く撒き込まれずに逃げたのだろう。


「で、魔王ってどこに居るんだ?」


魔王の城まで忍び込んできたのは良いけれど、魔王を倒そうと探している間に魔族の兵士に見つかったらしい。広い城の中で扉を開けるだけでも人間には一苦労だからね。それも兵士が探し回っている間を縫ってだと思うように進まなかっただろう。


でも、ボクだって魔王の居場所を喋る訳にはいかない。恐ろしい存在だと思っていたけどボクを生かしてくれているし、なにより姫様のお父さんだ。


「魔王を倒しても魔獣は止まらないよ。」


「そんなワケねぇだろ!?現に、勇者グリコマん時は止まったんだ。」


その時に、なぜ魔王の森が広がるのが止まったのか解らない。


「けど、ボクは姫様に聞いたんだ。魔王には魔獣を操る力も森を広げる力も無いって。」


他の魔族ではなく魔王の片割れと言える黒い魔獣、カガラシィの前で姫様に聞いたんだから間違い無いハズだ。姫様の言葉には嘘は無さそうだったし、ボクに嘘を言っても仕方ないと信じている。


「姫様ってのが適当を吹いているだけじゃねぇか。グリコマの時の魔王のように死なせたくないだけだぜ。」


「でも、話を聞いて本当に魔王のせいじゃないって分かれば、戦わなくて済むなら、それでいいじゃない。」


「バカヤロウ!オレの村もめちゃくちゃにされたんだぞ!」


「大声出すなって。」


声を荒げてからライダル様に止められてアンクス様は拳を下げた。今は魔族の兵士から隠れている状態だから。


(今度は視線を動かさずに聞けよ。魔王が最初に会った部屋を教えてやれってさ。)


ジルが『小さな内緒話』で話しかけてくる言葉はアンクス様達には聞こえていない。注意して視線をジルに向けないように我慢した。


(誰が?)


(カプリオとカガラシィを通して魔王に聞いたのさ。アイツはまだ姫様の部屋に居るからな。)


姫様の部屋はまだ『小さな内緒話』の範囲に入っていたようで、カプリオと連絡を取り合っていたようだ。とすると、アンクス様の居る場所はすでに魔王が知っている。でも、魔王の部屋に入れたとしてどうするのだろう。


「オマエなら占いで場所が分かるんだろ?今度は魔王の居場所が判らねぇとは言わせないぞ。」


人間も魔族もボクの『失せ物問い』では探せはしない。勇者の剣ほどに名のある品物を持っていれば探せるようだけど、生き物を直接探す事はできないんだ。


「ボクの『ギフト』じゃ魔王を探せないよ。品物を探すだけだから生き物の場所は解らないんだ。」


「なんだよ。使えねぇな。」


「でも、居そうな部屋は知っている。この城に初めて来たときに魔王に会ったんだ。」


魔王の意図は解らないけど何か考えがあっての事だと思う。部屋にはすでに兵隊がいて取り押さえる準備をしているとか。姫様はアンクス様達を逃がしたいと言っていたし、ボクは魔王のいた部屋までの道のりを教える事にした。


「できれば、戦わないで欲しいんだけど。」


姫様のためにも魔王にも死んでほしくないけど、だからってアンクス様達が死ぬのも忍びない。剣を交えないで済むに越した事は無いよね。


「ああん?アイツ等から襲ってきたんだぜ。」


そもそも、それが誤解かも知れない。でも、ボクには本当の事も解らないし、例え本当の事を話せたとしてもアンクス様は信じてはくれないだろう。拳を固く握りしめて決意を固めてしまっている彼には。


「そう、そうだよね。でも、無理はしないでね。頭だけでもボクよりも大きいんだ。」


「心配ねぇさ。オレと勇者の剣にかかればイチコロだぜ!」


ボクと初めて会った時から、アンクス様は魔王を倒すことに(こだわ)っていた。ボクなんかが止めても聞きやしないと思っていた。彼は勇者の剣の柄に手をかけて笑うと、そのまま部屋を出て行った。


後にはウルセブ様とモンドラ様が続いて行く。ウルセブ様はボクの背中を叩いて、モンドラ様は怖い顔をしたまま静かに。


「いいか。オレ達は魔王だけを倒したらすぐにこの街から出て行く。魔族全員を相手になんてできないからな。付いてきたければ帰る支度をしてこい。」


ライダル様はそう言って大きな斧を肩に担ぐと扉を閉めた。



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次回:熱いカップと『カウンター』



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