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溺愛王子の許嫁  作者: まくのゆうき


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捕縛

騎士団一行が到着した翌朝、何も知らない領主はやはり朝早くからフランツを迎えに来た。


「おはようございます、フランツ様。今日はご要望の作業場をご案内いたします」

「ああ、頼む」


フランツが領主の馬車に乗り込むと、馬車はもう一つの作業場に向かって走り出した。

その馬車を気付かれないように騎士たちが追っていく。

今日も何かあるのだろう。

フランツからは体調不良ということにして今日も部屋から出ないようにと言われたアリシアはそう考えていた。

きっと昨日だけでは片付かなかった案件に違いない。

しかも今日は騎士が影で同行しているのだ、何もないわけがない。

アリシアは自分には何もできないことはわかっていながらも、その場に同行できないことを少しもどかしく感じていた。

そんな思いを抱えつつも足手まといになることはできないと自分を戒めて、宿を出ていく馬車とその後に続く騎士たちを、アリシアは部屋から見送ることしかできないのだった。



ほどなくもう一つの作業場に到着した領主とフランツは馬車から下りた。


「誰もいないようだが……」


フランツは辺りを見回して領主に問う。


「おかしいですね……今日はフランツ様がお見えになるので全員入口で待機しているように伝えたのですが……きっといいところを見せたくて、働き始めたのでしょう。とりあえず中をご案内いたします」


領主が入口の方に向かっていくため、フランツはその後に続いた。

領主の案内でフランツが中に入る直前、急に現れた騎士たちが二人を取り囲んだ。


「な、何事だ!」

「あなたには謀反の疑いがかかっている。おとなしく投降しなさい」


混乱した領主に、冷たい言葉を返したのは騎士団長である。


「謀反とは何ですか!私はフランツ様のご要望通り視察の案内をしておるだけですぞ!」


すでに数歩足を踏み入れていた穴の入口から出てきた領主が言った。

フランツはさらに穴の入口からそれとなく距離を取る。

実はこの時、作業員たちはすでに騎士たちによって一か所に集められ、兵士たちの監視下に置かれていた。

そのため、領主とフランツを取り囲んでいるのは騎士団長直轄の騎士たちである。

開き直った領主の言葉を聞いた騎士団長はそれとなく入口の方に歩いていくと、二人が中に入らないよう目を光らせながら、何かに気がついたように声を上げた。


「おい、これはなんだ!」


そう言って騎士団長は入口の近くにあったレバーの支えを足で蹴飛ばした。

すると間もなく、内部で地鳴りのような音が響き、しばらくすると砂煙が入口から外に流れ出てきた。

砂煙を吸い込んでしまった領主は逃げることはできず、その場で咳き込んでいる。

砂煙と地鳴りのような音が止んだ入口を見ると、そこには土砂と石の山ができており完全に封鎖された状態となっていた。

仕掛けが作動したことを確認すると、騎士団長の掛け声で取り囲んでいた騎士たちが即座に彼を捕縛した。


「さあ、どういうことか説明してもらおうか?」


領主は口をポカンと開けたまま首を横に振っている。


「そ、そんな、これは何かの間違いで……」


彼の知る限りこんなに都合よく動作する仕掛けにはなっていなかったはずである。

中を案内して、戻り際にうまく内部が崩壊するように支柱を刺激して、自分だけ洞窟内から逃げるつもりだったのだ。


「連れて行け!」


引きずられるように立たされて馬車に乗せられると、領主はまだこの状況が理解できないようで、まともな言葉を発することはなかった。



フランツが宿に戻った後、一行は騎士団長の指示の元、領主の仕掛けを外から作動させるための仕掛けを仕込んでいた。

外からこちらのタイミングで作動させることができれば、より仕掛けらしく見せることができる。

フランツの話から、仕掛けの周辺が崩れやすいことを利用し、爆破など大がかりなことをしなくても対応が可能であると判断したのである。

先ほど騎士団長の踏みつけたレバーは中の洞窟につながっており、そのレバーを動かすことで内部の崩れやすい支柱に衝撃が伝わり、仕掛けが外から作動するようにしたのである。

うまくいかなかった時のために、導線と少量の火薬も仕込んであったが、こちらは使用するまでもなかったようで、無事にレバーから伝わる衝撃だけでしっかりと仕掛けを作動させることに成功したのである。

ここまで段取りを済ませておけば、後はパフォーマンスを行うだけである。

領主とフランツが中に入る前に自分たちが姿を現し、彼らを中に入れないようにして、そこにはこのような仕掛けがあると言い、実際にその仕掛けを作動させ、領主がフランツを害そうとしたと罪に問えばいい。

フランツは中に入り自ら仕掛けを作動させるつもりだったようだが、それでは自分たちがいても助けることができない可能性が高い。

そのようなリスクは避けなければならなかった。



領主を乗せた馬車とは別の馬車に乗ったフランツは、移動中に同乗した騎士団長から事情の説明を受けていた。


「フランツ様の調査結果をもとに、レバーを踏んだら弱っている支柱に衝撃が与えられるシンプルな仕掛けを追加したまでです。動作確認を外で行って、本体の仕掛けが作動しないように注意しながら、運び込みました。フランツ様が昨日教えてくださいました通り、仕掛けの支えが非常にもろかったということです。壁や板に誤って触れたら仕掛けが破損して結果的に発動するという点を利用して相手の罠に手を加えた罠ですな」


外での活動が多く、臨機応変な対応に長けたメンバーである。

罠は持ち合わせのものや、途中の森まで戻って採取した木材を使って夜中に作成したのだという。


「御覧の通り、単純な仕掛けです。レバーを引いたら中の仕掛けが支柱や壁を叩く、それだけの簡易的なものです。ここまでうまくいくとは思っておりませんでしたが、フランツ様の情報が正確であったからこそできたこと。もちろん、中では声も出さず、壁にも一切触れることなく作業を行いました。おかげで誰も怪我をしておりません。これもいただいた情報があったからこそできたことです」


すでに入口が崩落しレバーは動かせる状態にないが、レバーを引いたら木材の先につけた石が壁を叩くというおもちゃのような仕掛けとなっている。

レバーが石の重みで仕掛けの方に倒れないよう、外のレバーを固定、それを外してレバーを引けば、石が支柱に当たるよう計算したという。

一度で崩落しなければレバーを複数回押し引きをすれば何度も叩けるし、ダメなら火薬も仕込んでいたというのでそのあたりは抜かりなかったということについても説明を受ける。


「そのような仕掛けで領主は自分が助かる気はあったのだろうか……?」


フランツはつい疑問を口にした。


「それはこれから本人を連行して話を聞きます故、報告をお待ちください」

「ああ、そうだな。まだ首謀者が残っているしな」


領主とフランツを乗せた馬車と、それを囲む一行は現場をそのままにして、次の目的地へと移動するのだった。



一方その頃、領主宅も騎士団と兵士が取り囲んでいた。

物々しい雰囲気に何が起こったか分からないミランダと使用人は邸宅から一歩も出ることなく、ただその様子を中から伺うことしかできなかった。

しばらくして包囲が完全であることが確認されると、全員が屋敷の方を向いてじっと何かを待っていた。

彼らが待っているものが届いたのは、彼らが到着してから約二時間、準備が整ってから一時間くらいしてからのことである。

到着したのは騎士に周りを囲まれた複数台の馬車で、馬車は到着すると門の中に通された。

そしてその馬車から両腕を縛られた領主が下ろされる。

中からその様子を見ていたミランダは、思わず玄関の扉を開けて父親の元に駆け寄った。


「お父様!」

「お前は中に入っていなさい」


両手を縛られて膝をついている領主を支えるように立ち上がらせると、ミランダは声を張り上げた。


「あなたがた、ここをどこだと思っているのですか!」

「じゃあ君は私を誰だと思っているんだ?」


遅れて別の馬車から下りてきたフランツはミランダから一定の距離を取ったところで立ち止まると言い放った。


「フランツ様?これは一体どういうことですか?なぜ父がこのようなことに」


フランツに駆け寄ろうとするミランダを兵士が押さえる。


「君たちは自分たちの欲のために少々やり過ぎてしまったんだよ。残念だったね」


言葉とは対照的に慈愛の笑みを浮かべたフランツがそう言うと、それを合図に兵士がミランダを捕える。


「彼らの聴取は君たちに任せる。協力者やその他の作業者についても調べておいてくれ」

「仰せのままに」


そう言い残してフランツは自分の馬車に戻っていった。

騎士団長は頭を下げてフランツを送り出すと、次の指示を出した。


「これからこの屋敷の調査、彼らの聴取を行うこととする。引き続きこの屋敷からは誰も外に出さないように!」

「はっ!」


屋敷の周囲には命を受けた者たちの返事が響いた。


「彼らはひとまず中に。使用人たちにも事情を聴かねばならぬ。彼らを一か所に集めよ。私も中へ行く」


騎士団長と捕縛したメンバーは、領主とミランダを連れて、領主の館に入っていった。

こうして彼らの罪は暴かれることになるのだった。


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