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溺愛王子の許嫁  作者: まくのゆうき


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鉱山の罠

「なあ、いいのか?」


馬を走らせて一人で現場に向かうフランツに同行したエルは言った。


「さすがに一度も見ていないものについて指示を出すのは難しいからね。それに自分で対処する可能性があるんだ。自分の目で確かめておきたい」

「ふーん」

「なんだ?」

「いやさ、フランツはさ、アリシアのことは言えないなって思っただけだよ」


アリシアが知ったらどう思うかはわからないが、アリシアに同じことをされたら気が気じゃない。

少なくとも、森でも海でも、早朝に部屋にいないだけで探し回ってしまったくらいだ。

アリシアが自分をどのくらい心配してくれるかはわからないが、部屋で話した様子では危険なところに行かないでほしいと言ってくれた。


「……そうだな」


そんな話をしているうちに無事現地に到着したフランツは、作業員が残っていないか、エルに確認してもらってから、初めて確認する洞窟の入口まで馬を進めた。

馬を下りたフランツは、とりあえず中には入らず、外から目を凝らして洞窟の中を見ることにした。

赤い空がだんだん暗くなってきており、もうすぐこの一帯が暗くなることがわかる。

とりあえず残り少ない太陽の光を頼りに中を確認する。

洞窟の中に仕掛けがあると思ってみると、確かに所々に妙なものがある。

穴を支えているはずの外枠や天井に不自然な歪みができていたり、下からの支えがないにもかかわらず天井部分の一部に板が出っ張ったりしているのである。

しかし、これが崩落の重みなのか、仕掛けによる重みなのか、仕掛けのために作られた物なのは分からない。

そうこうしているうちに夕日は沈みきろうとしていた。

外からの光が入らない洞窟は真っ暗で、目を凝らすにも限度がある。


「入口から少し明かりを照らして見てみるしかないか」

「おい。中に入るなよ?」


エルに止められたため入口から先には踏み込まず、ぎりぎりの場所から覗きこむことにした。

中を照らすために用意した灯りを持って腕だけを中に伸ばしている。


「エル?」

「そこの木のゆがみと出っ張りが気になってるんだろ?灯りがあれば見えるからちょっと見てくるよ」


その光を頼りにふらっとエルが洞窟の中に入っていった。

エルはフランツから見える位置より奥には行かないようだ。


「これ全部落ちてくるな。出っ張ってるところにはでっかい岩が乗ってるし、歪んでる板の上には大量の石が乗ってる。どっちも横の板を蹴ったりしただけで落ちるんじゃないかなー。まあ、明日使うんなら、明日崩れないといけないからこのくらいの強度がちょうどいいのかもな」


エルは上部の様子をフランツに伝えた。


「わかった。もう時間だから戻ろう」


フランツに呼ばれたエルはふわふわとフランツの灯りに吸い寄せられるように洞窟の中から出てきた。

フランツはエルが出てきたのを確認すると、アリシアとの夕食に間に合わせるため、急いで馬に乗って宿に戻るのだった。



その夜、夕食を済ませたフランツの元に客人が訪ねてきた。

フランツは相手を確認すると、アリシアに見つからないように彼と一緒に外に出た。

騎士の指揮に慣れないフランツのために、王族の側近すべての近衛騎士を束ね、統率している騎士団長という有能な統率者を一緒に送ってきたのだ。

二人は人目につかないよう、歩いて宿から少し離れた森の中に移動すると、暗い森にある一本の木の近くで話し始めた。


「まさかあなたが来るとは……国王陛下についていなくてよいのか?」


彼は普段であれば常に国王陛下の横に立っているべき人材である。


「国王陛下はああ見えて、フランツ様を心配しているのですよ」

「さあ、どうだろうな」

「まさに親の心子知らずとはこの事ですな」


穏やかな笑いを浮かべながら騎士団長はそう言ったが、国王陛下とフランツの間に親子の会話というのは特にない。

フランツが物心ついた頃にはすでに国宝陛下と殿下として接していたのだ。


「それより、今回の件だが……」


騎士団長の笑いがおさまるとすぐに要件を話し始めた。


「穴は二つ。一つは奥からガスが発生している。聞いているかもしれないが、そこですでにアリシアが一度体調を崩している。もう一つには岩盤が崩れる仕掛けが施されている。仕掛けがあるところまではわかったが、稼働方法がつかめていない。分かっているのは上から落ちてくる仕掛けのことだけで他の物までは確認できなかった。分かっている仕掛けが稼働した場合、想定されるのは岩盤の下敷きになるか、中に閉じ込められるかだ。あと、仕掛けのある方の穴の奥は非常に脆くなっているようだ。そこにも仕掛けの一部が繋がっているようなので、脆くなっている部分から洞窟が崩れる可能性がある。あと、明日私が中にいる間に崩すことが目的なのか、技術力なのかは分からないが、仕掛けの支えが非常にもろい。壁や板に誤って触れたら仕掛けが破損して結果的に発動したのと同じ状況になる可能性がある。中に入らずに対応できるのが一番いいが、中に入るつもりであれば気をつけてほしい」


宿に戻ってからこの時間まで、覚えている限りの情報を書き出したフランツはその紙を騎士団長に渡した。

それを受け取ると、すぐに中身の確認を始めた。

紙を見ながら時々うなっている騎士団長を見ながら、色々考えているのだろうとフランツは思った。


「かしこまりました。……それにしてもフランツ様、よくそこまでお調べになりましたね」

「さっき現地に行ってきたからな」

「なるほど。そうでしたか」


すると、にこやかな笑顔を浮かべて騎士団長は続けた。


「フランツ様はなかなか危ないことをなさいますね」

「それほどの事ではない」


笑顔の騎士団長に対して、遠い目をしてどこかを見ているフランツが言った。

自分に目を向けることのないフランツの意識をこちらに向けるため、今度は厳しい口調に変えて騎士団長は続けた。


「いいえ、守る立場で同行する者からすれば、あまり感心できることではございません」


急な変化に驚いたフランツは騎士団長の思惑通り彼の方を向いた。


「私は……」

「あなた様は、いえ、あなた様も王宮には欠かせない大事なお人です。アリシア様とお二人でこの国の未来を背負わなければならないのですよ?」

「それは兄上が戻らなければ、の話だ。兄上が戻れば、私たちも王宮から離れることになるだろう」


王宮内に対立派閥になるような者は不要である。

むしろ置いておく方が危険という考えもあるくらいだ。

フランツは王妃教育に苦労しているアリシアに申し訳なさを感じていた。

もしかしたら不要になるかもしれない教育を強制されて、味方のいないような環境に置いてしまったのだ。


「そうですかね……」

「私たちのことはいい。それよりも今回の件だ」

「そうですね。目の前の障害をどうにかしなければなりませんね」


まずはフランツとアリシアに危害を加えようとしている者を捕える必要がある。

首謀者はわかっているので、後はその証拠と現場を押さえるのみなのだ。


「私が彼と洞窟に行くのは決まっている。明日は罠のある方を案内されるはずだ。そこで領主を捕らえたい。できれば罠を稼働しないようにしておきたいが、急ごしらえでできるのは、出入口が塞がらないよう、見えない位置を補強するくらいだろう。私が中に入った時に彼が罠を発動させて崩しているところを捕らえれば、現行犯になる。うまくやってほしい」


フランツはあくまで自分が囮になるつもりである。


「必ずやお守りいたします。我々の名誉にかけて」

「ああ、頼んだ」


ひとしきり話が終わると、フランツは彼の前を後にした。


「困ったお方だ」


騎士団長はフランツの背中を見送り小さな声でそう呟いてから、周辺で聞き耳を立てていた騎士や兵士に声をかけた。


「さあ、皆聞いていたな。我々の力の見せ所だ。殿下が中の仕掛けをあらかじめ壊せと言わなかったのは、我々の身を案じてのことだ。必ずや証拠を掴み、首謀者を捕え、フランツ様をお守りする。それが我々の役目だ。主を危険にさらすなどあってはならぬ。いいな」


騎士団長の掛け声に応えるように聞いていた一同はその場で敬礼した。

そんな彼らに騎士団長は指示を出していく。


「一同指示通り明日の朝までに作業を終え、各所で待機するように」


その号令で指示を受けたものは次々と現場に散っていった。

こうしてフランツは、本人の知らないところで彼らに守られることになるのだった。


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