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溺愛王子の許嫁  作者: まくのゆうき


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定時連絡

部屋に戻ったフランツは、部屋で定時連絡の準備をしていた。

いつもは特に報告するようなことはないと、長い時間をかけることはないのだが、今回は王都から動いてもらう必要があるため、しっかりと報告内容を精査する。

定時連絡は、この視察が始まってから毎日行っている国王陛下への報告で、エルの力と、祭壇にいる妖精王の力を借りて行われている。

妖精と指輪の宿す力を使うが直接二人が会話をすることができない。

フランツはエルを通して妖精王に報告内容を伝えてもらい、指定時間の夜に指輪を持つ国王陛下が祭壇で受けるという形である。

国宝陛下からの返事も同じように二人の妖精の力を介する必要がある。

あまり長い報告や、長時間の会話は妖精にも本人たちにも負荷が大きくかかるので、できるだけ最低限で収まるよう工夫することが求められるのだ。


「なあ、昼から準備するのか?」


フランツの様子を近くで眺めながらエルが言った。


「時間があるからね。それに定時連絡のものだけじゃない。明日の視察で領主に探りを入れるための準備もしているんだ」


アリシアには外に出ないように言ったが、それは明日の視察で領主に探りを入れるためである。

アリシアを連れて出て、もし自分が下手なことをしてしまったら、彼女の身に危険が及ぶことになる。

幸いこの宿には自分の信頼のおけるものしかいない。

体調不良を理由に、宿に留めておくのが安全であり、安心だと判断したのである。

フランツは準備を進めながらエルに尋ねる。


「ところで、アリシアはあの時何を聞いたんだと思う?」

「あの時ねぇ……」


アリシアのことはエルに見張らせることが多い。

フランツは自分が領主と話をしている時に自分に背を向けていたことに気がついていた。


「領主と話をしている時は、あの穴からガスが出てるって警告を受けていただけみたいだけど?」

「そうか……」


公務をきっちりとこなすためにアリシアは知っていて入ったのだ。

しかし想像以上に体が受け付けなかったのだろう。


「まぁ、あの体調不良はガスのせいだけではなさそうだけどな」

「どういうことだ?」

「いや、たぶんだけどさ、あの洞窟で犠牲になった何かに干渉されたんじゃないかなって」


中にそのような動物の姿はなかった。

妖精が見えて、動物の言葉がなんとなく流れ込んでくるようになってから、最初はその情報量に頭を抱えたものの、今ではできるだけ多く情報を取り込むくらいのことはできているつもりだ。


「僕はなんでもなかったのに?」

「そりゃ、相手が誰を選んで語りかけてるのかってのもあるし、全てのやつの情報を習得できるほど強い力があるわけじゃないだろ?一緒にいるからって必ずしも共有できるわけじゃないんじゃないか?」


フランツの力はあくまで指輪に頼っている部分が大きい。

アリシアのように持ち合わせた能力があるわけではないのだ。

感覚として共有できることが増えているのは事実だが、この力のせいで、自分が全てを理解した気になっているのは間違いということなのだろう。


「僕の力不足か……」

「まあ、アリシアは、なんかさ、好かれるよね、ほんとに、ああいうのにさ」


エルが歯切れ悪く言った。


「ちなみにエルは、アリシアが何に干渉されたのか、彼女に何が起きたのかってことは分かっているのか?」


言いにくそうにしているエルにフランツは容赦なく突っ込む。


「あれはたぶん、あの中で命を落としたやつらに干渉されたんだよ。あの穴の中はそういう空気で満ち溢れていた。いかに多くのものがあそこで命を落としたのかよくわかる」

「そうなのか」

「結局そこなんだよなぁ。見えるものに干渉しようとして干渉することしかできないか、見えるものだけじゃなくて、見えないものからも干渉されてしまうのか。アリシアは色んなのから話しかけられるんじゃないか?あいつらにあんまり長いこと干渉されてたら、アリシアは森の泉の時みたいに寝たきりみたいになっちゃうかもしれないからさ、連れ出してよかったと思うぞ?」


森の辺境領に婚約の了承をもらいに行った時、彼女は森で泉の女神と長く話をしすぎて意識を失くしていた。

あの時は女神が助けてくれたし、彼女がアリシアに無理に干渉していたわけではない。

今回は彼らがアリシアに無理やり干渉しているので、アリシアの負担が大きいということになるというのだ。


「あのさー。明日はアリシアじゃなくてフランツについていく方がいいんじゃないか?できればあの穴にはあんまり近づきたくないんだけど、あの奥に入るのは勧められないからな」

「調査は任せるよ。僕じゃ……」

「はぁ……。領主なんとかするんだろ?全部一人でやる必要ないんじゃないか?」


フランツの言葉を大きなため息で遮って、エルが励ます。


「ああ、そうだな」


フランツはここまでの話をまとめ、今後のパターンについても考察を繰り返していた。

そうこうしているうちに、気がつけば日が落ちて辺りは暗くなっているのだった。



その夜、ゆっくり休んで体調が回復したアリシアと食事を終えたフランツは、定刻になると早速報告を始めた。

炭鉱への視察の際にアリシアが洞窟入口でガスによって体調を崩したこと、そのために視察が中止になったこと。

領主がアリシア、フランツのどちらか、もしくは双方を害することを目的に動いているということ。

本日の報告は主にこの二点である。


「証拠は明日までに揃えられるのだな」

「はい」


そのために明日は領主と二人で視察に向かうのだ。

エルには動物や洞窟内部の者に話を聞いてもらい、フランツは領主にカマをかけ続ける予定である。

そしてできる限り視察日程を引き延ばし、到着した兵に説明する時間も何とか作らなければならない。


「炭鉱の件、アリシア嬢の件、わかった。そちらに兵を向かわせるが、二日かかると思ってくれ」

「できるだけ時間は稼ぎます」


フランツは兵の派遣が認められたことで、少し安堵していた。

後は自分がどれだけうまくやるかを考えればいい。


「ようやく尻尾を出したというところだな」

「ええ。ようやくですね」


ここの領主とその娘は王宮の人間から見て、煩わしいだけの人間である。

権力や欲に忠実なため、それらを持つ者には媚を売り、それらを手に入れるためには手段を選ばないところがある。

領主の娘、ミランダもその性格をしっかりと受け継いでおり、フランツやフィリウスの妻の座と、王妃という権力を狙っていることが伺える。

一方のフランツは穏やかに交渉し、双方に良い条件を見出していくことは得意だが、力で制圧するという手段は苦手である。

しかし、煩わしい相手とはいえ、いざという時に兵まで出して機能しなければ意味がない。

国王陛下はそんなフランツの性格を知っているため、釘をさした。


「失敗することはないと思うが、お前は兵を動かすことには慣れていない。今回は情報が揃っているし、これは戦争ではないから命を落とす者はいないと思うが、兵を動かすということがどういうことなのか、よく考えておきなさい。以上だ」

「わかりました。よろしくお願いします」


こうして定時連絡を済ませたフランツは、エルの方を見た。

エルはそうでもないようだが、フランツ本人はいつもより疲労感が強い。


「エル、大丈夫か?」

「このぐらいは別に問題ないなぁ。フランツの方が疲れてるように見えるぞ?」

「ああ、いつもより疲れている」

「あのさー、国王に対して気負い過ぎなんじゃないか?それにこれは、やらなきゃ慣れないぞ?」


エルの言うことはもっともである。

国王陛下という父親と話すのに、フランツはものすごく気を使わねばならない。

今回の疲労はどちらから来ているか分からないくらいだ。


「慣れか……」

「とりあえず今日は寝なよ。明日そんなんじゃ領主と話なんてできないだろ?」

「そうだな。休むことにするよ」


エルに促される形でフランツはベッドに横になった。

そして、翌日からのことを考えながら眠りに就くことになるのだった。

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