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溺愛王子の許嫁  作者: まくのゆうき


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エルと海の街

「あのさ、エル。行方不明になった領主の娘とアリシアって、境遇が似てないか?」


自室に戻ったフランツは人がいないことを確認するとエルに声をかける。

するとエルは聞かれることを予期していたかのようにあっさりと答えた。


「そうだなー。確かに自然の妖精に好かれていて、彼らと意思疎通ができて、王族の結婚相手に望まれたっていうところは似ているな」

「エル、あの少女のこと、その時に起きたこと、何か知っているんじゃないのか?」


エルはここに来た時から少し様子がおかしかった。

森の妖精や動物、王宮にいた花の妖精たちとアリシアが一緒にいる時、エルに慌てる様子はなかった。

むしろ心配をして慌てたのはフランツで、エルは彼らがいるから安全だとフランツを諌める側だった。

しかし早朝のアリシアのことを報告された時、随分と海を警戒しているように見えた。

しかも一刻も早く彼女の元に辿り着かなければならないと、せっつかれているようにすら思えたのだ。

フランツはその理由と、少女の件が関係していると直感していた。


「ああ、あの子の婚約者、何代か前の王族なんだよね。だから彼と契約してからここに来るたびに彼女には会ってたよ。あと、海の妖精たちにも」


エルの主を決める指輪を先代の王族が使っていたということは、フランツが継承した後、すぐに知らされた。

今回、偶然にもフランツが手にした指輪を過去に継承していた人物の一人が、肖像画の少女の婚約者だったということのようだ。


「それで?」


フランツは続きを催促した。

自分が同じ轍を踏まないために、少しでも彼のことを知っておきたかった。

それに自分が目にしていない、海の妖精という存在が妙に気になったのである。


「いや、それだけだよ。昔の話だしね」


彼女が彼らに呼ばれて、自らの意思を持って海で命を落としたことも、妖精と意思疎通が取れる立場にあったのに、彼女のことを知ったのがすべて終わってしまった後で、彼がとても後悔したということも、エルにとっては昔話である。

ちなみにエルと彼女は直接交流をしたことはない。

ただエルが彼女を見て知っているというだけである。

彼らが王宮で一緒に暮らすようになれば、いずれ存在を知られてしまった可能性はあるが、二人はそこまでの関係に至らなかった。

それに結局、彼もエルも、彼女が海に取りこまれるのを止めることはできなかったのだ。

この事実は彼だけではなく、エルの中にも深い傷となって残っていた。


「まあでも、アリシアは大丈夫だと思うぞ?王宮の妖精ともうまくやっているし、海の奴らには出てくるなって言ってあるけど、海の生き物たちにはすでに好かれているみたいだし、行く先々で味方をつけていけるなんて、今までにはない快挙だよ。フィリウスみたいに自分から交流するために何かしているわけじゃないから、本当にアリシアが好かれる体質なんだろうな」


聞きたい内容から話が少し逸れているが、少女もアリシアと同じような力を持っていたということのようだ。

フランツは確認のため、そのまま話を進めることにした。


「彼女は違ったのか?」

「うーん。わからないんだよ。もしあの子にこの街を出る勇気があって、一度でも王都に来ていたら状況は変わっていたかもしれないけど、海の連中は彼女に他の場所のことを教えなかったみたいだし。人間からの情報だけだったら王都なんて自然も海もない、孤立する場所だって感じていた可能性はあるんじゃないか?」


フランツの予測は確信となった。

やはりアリシアと少女は同じように妖精たちと意思疎通ができる力を持っていたのだ。

そして知らない土地に一人で身を置くことが、どれだけ女性にとって負担の大きいことなのか、そしてこの制度がどれだけ相手に負荷を与えるものなのかということを改めて感じた。


「アリシアは、勇気があった……ってことか」

「うん、それもあるけど、アリシアの方が王都に行くハードルが低かったんじゃないかな。当時は女性が学校に行くなんてことはなかったし、留学みたいなものも盛んではなかったから、外の知識を得にくかったんだよ。それにアリシアの場合、森の妖精が彼女にちゃんと他の場所のことを教えていたようだし、稼働域の広い地上の動物や鳥たちのお気に入りだから、彼らがいざとなったら助けに入れるとでも言ったんだろう。たぶん彼女が王都でも安心して暮らせるように送りだしたと思うぞ。まあ、フィリウスが先回りしていた可能性もあるけどね」

「エル、今日は饒舌だな」


隠したい事実を隠すかのように気がつけば長々と自分の意見を述べていた。

エルにとっては久々のことである。


「ああ……。昔馴染みに会ったせいかもしれないなー」


エルは海の妖精たちのしたことが正しいとは思っていなかった。

本来、妖精が意図して人間を自分のところに引き込むということはあってはならない。

そのことをどこかで許せずにいるため、海の妖精とはあまり話をしていないのだが、フランツへの言い訳には彼らにあったと言っておけば通じるだろうとそう考えた。


「早朝にアリシアの行き先を教えてくれたのも彼らなのか?」

「ああ、そうだよ。追いかけていたら途中で見失ったんだけど、彼らが教えてくれたんだ」


エルはわざと彼らと仲のよさそうに聞こえる言い方をした。


「お礼は……いるかな?」

「いや、あいつらが散歩してたアリシアを誘ったんだ、お礼なんていらないよ」


厳密には妖精ではなく、鳥たちがアリシアを誘ったのだが、エルはあえて伏せた。

彼らは自分がエルに嫌悪されているなどとは思っていないようで、話しかければ喜んで答えるが、エルからすればできるだけ関わりたくない相手である。

そして、フランツとアリシアをできるだけ関わらせたくないとも思っている。


「そうか。わかった」


普段であれば交流しておいた方がいいと言いそうなものだと思いつつもフランツはうなずいた。

そして視線を移した先、窓の外には、穏やかに寄せては返す波と、反射して海に移る月が見えた。

そこに特に妖精たちの姿はないようである。


「どうかしたのか?」


エルに声をかけられたため、フランツは静かにカーテンを閉めた。


「いや、そろそろ休むことにするよ。エルも休んでくれ」

「ああ、わかった。おやすみー」


エルは部屋に用意されている籠の中にもぐりこんだ。

フランツも言葉通りベッドに入る。

そして天井を見詰めたまま、エルが海の妖精とあまり仲が良くないことを隠す理由について考えていた。

いくつかそれっぽい理由が浮かんだところで、エルが休んでいると思われる籠に目をやった。

そして、ごまかしていることが分からないほど付き合いは短くないといつか言ってやろうと決心しながら眠りにつくのだった。

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