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溺愛王子の許嫁  作者: まくのゆうき


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初めての視察

一通り話が終わると、領主の案内で領内を見て回ることになった。


「この時間、魚の引き上げは終わっていまして、今は貿易の船が荷をおろしているところでございます」


最初に移動した先は港である。

この街は広くないため、漁業と貿易であっても商品のやりとりは同じ港を使っている。


「荷を下ろした船は別の待機場に移動して、そこに船を止めることになっています。商品は街の近くに下ろしてもらって、船は広い所に停泊してもらうことで、この場所の混雑を減らしているのです」


王宮の馬車の乗り降りと同じ方法である。

大型の船が多いのでスケールは馬車とは違って壮大である。


「漁船区域と貿易区域で停泊するところを分けているのですが、どちらの周辺には酒場や宿が多いですね。ただ、同一区域に活動時間の同じ人たちがまとまっていますから、店もそれに合わせて営業している感じですね。漁業区域はこれから休憩に入ると思います。夜中から漁に出ていますからね。あと、貿易区域より一般の住宅が多いのも特徴でしょうか。一方の貿易区域は、ここで荷降ろしを終えて、船を止めた後、荷物を受け取って取引先を周る人もいれば、到着した日は休んで次の日から活動する人もいるようです。彼らは店の開店に合わせて動いていることが多いので、深夜に休まれる方が多いと思います。とはいえ、深夜営業の居酒屋なんかに納品しているところは活動していますから、基本的には眠らない街ですね」


そんな説明を受けながら船の動きを見ていると、入港し荷物を下ろした船は、港を出て一定の方向に向かって行く。

おそらくその方向に停泊区域があるのだろう。

船には様々な種類があり、見た目にも楽しく、いつまで眺めていても飽きない。


「アリシア、疲れない?」


フランツがずっと同じ方を向いて立っているアリシアの背に腕を回しながら声をかけた。

自分が起床する前から海にいたアリシアが疲れて立ちつくしているのではないかと心配になったのだ。


「なんだか賑やかで、とても楽しそうで、このままずっと見ていられそうです」


フランツの方を見てアリシアは答えた。

すぐに返事があったことにホッとして、フランツは言った。


「次は街の中を案内したいって言われているんだけど、疲れているなら馬車で休んでてもいいんだよ?」

「いいえ、大丈夫です。街もきっと活気があって楽しいところだと思いますから、是非見てみたいです」


あと数時間くらいなら立って歩いても問題ないくらいの体力は残っている。

街を歩くのは問題ないだろう。

アリシアにもこれが視察だという自覚はある。

本当のことを言えば早起きをしたせいで少し疲れは出ているが、早朝のことはここでは関係ない。


「じゃあ、移動しようか」

「はい」


目の前の船の行き交う景色に名残惜しさを感じながら、アリシアは街へ移動するため近くに用意された馬車に乗り込むのだった。



王都の街のように道の広さの違う碁盤の目でもなければ、森の辺境領のように中央から道が延びているわけでもない。

高低差のある、大変入り組んだ街である。


「なんだか迷路のような街ですね」

「そうですね……。初めて来た方はたいてい、迷われますね」

「どうしてこのような作りになっているのですか?」

「先ほど、海に館が沈んだ話をしましたね。実はその際、この辺りにあった家も一部水に浸かってしまったのです。この街の低い部分は水が届いたところなんですよ。石造りの家は掃除をすれば利用できたのですが、木造の家はその後、建材が腐ってしまったりしましてね。次に建てる家はもっと上に建築した方がいいだろうということで、どんどん上の方に家を建てる者が増えて行ったのですよ。それからは水害で被害が出る度に建物の位置が上へと移動していきまして、下にある建物に住んでいる者は、水害を前提に生活しているか、新しくこの街に来た者が多いのです。そして上下で往来ができるよう、さまざまなところに階段を作ったので、迷路のようになったというわけです」


この街は水害の度に増築を繰り返した街で、家が犠牲になって人がより安全を求めた結果現在の形になったのである。


「この階段を使って街から行く方が港に入りやすいですから、普段から往来が多いのです。ですから、下にある商店でも経営が成り立っています。それにこの階段は防災機能も兼ねていて、水害が発生したらこの階段を使って上に逃げることができるので、非常に合理的なんですよ。どの階段から上っても必ず最上部にたどり着くように設計されています。ですから、途中で取り残されるようなことはないんですよ。水はどこまで上がるか、その時にならないとわかりませんから……」


領主は自慢げに街を見上げた。

この街が幾度となく発生する水害に耐えてこられたのは、人の犠牲を少なくする防災対策が功を奏してのことだという。


「まあ、偉そうに言っていますが、すべて先代から受け継がれた知恵のおかげで、私はこの街で堂々と領主ができているわけですが……」


黙って自分を見ている二人の視線に気がついて、照れたように領主は付け加えた。


「きちんと過去の不幸を伝えていくことは、街の方々を守るために大切なことだと思いますよ」

「そう言っていただけると……そういえばアリシア様は森の辺境領でしたね。森でもそう言った被害はあるのでしょうか?」


領主として、アリシアの話が聞きたいのだろう。


「まず、森の辺境領はこのように高低のある土地ではありません。森を切り開いて広げていき、今の街ができています。領地での自然被害は主に動物や虫などの生き物、あとは植物によるものです。近くに氾濫するような大きな川もありませんし、土砂崩れを起こすような山もありませんから……」

「なるほど。海がなくとも自然に関しては街で伝承されているのですね。……このままだと立ち話で時間が過ぎてしまいそうなので、案内を続けながら伺っても?」

「はい、私は構いませんが……」


アリシアはフランツの方を気にかけた。

するとフランツは慈愛の笑みを浮かべたまま、助け船を出した。


「そうですね。まずは街の様子を見せてもらうことにしましょう。彼女はここに来るのが初めてですから詳しく説明をお願いします。話は後でもできますから」

「それではそのようにいたしましょう。階段の上り下りというは大丈夫でしょうか?」


動くには少し不自由な服装だが、視察で歩き回ることを考えたものである。

それに王都で外出の機会が少なくなったとはいえ、一日外にいられるだけの体力はまだ残っているはずだ。


「はい、大丈夫です」


アリシアは笑顔でそう答えるのだった。



彼らは王都の教会よりもはるかに長い階段をひたすら上りながら、所々にある店や事務所の説明を受けて進んでいった。

こうして彼らは階段で頂上まで進んでいった。

アリシアは誰の手も借りることなく、フランツも表情一つ変えることなく上りきる。


「アリシア様、よくお一人で上りきられましたね……」

「ありがとうございます。案内をしていただいた所で足を休めながら上るができましたから。ご迷惑にならなくてよかったです」


アリシアが素早く息を整えて答える。

すると領主はアリシアから視線を外して言った。


「ここに案内したのは、是非見ていただきたかったからなのです。この街の全貌をお二人に」


言いながら彼が腕を伸ばして示した先に、アリシアとフランツが目をやった。


「すばらしい。この景色を見ただけで疲れなどなかったことになりそうだ」

「本当に」


眼下に広がるのは自分たちが上ってきた階段と、そこに広がる街並み、その奥に港があり、港の左右には停泊している多くの船が見える。

空には多くの鳥が不規則に舞っていて、海は日差しを浴びて輝いている。

小さく見える街や港にはたくさんの人が行き交っていて、人の多いとことはとても賑やかそうである。


「たくさんの人の営みが感じられて、すごく活気があって素敵な街ですね」


アリシアが見渡しながら言った。

しばらく眺めを堪能していると、領主から声がかかった。


「馬車の準備ができました。館へお越しください。是非お話を伺いたい」


アリシアとフランツが振り返ると、そこには馬車が止まっている。

二人は思わず顔を見合わせた。


「……おっしゃりたいことはわかりました。まずは馬車にお乗りください」


領主は苦笑いしながら二人に馬車に乗るよう促すのだった。

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