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溺愛王子の許嫁  作者: まくのゆうき


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似た者同士

「そういえばこの子たちは……?」


水中から顔を出したりもぐったりしている一頭と、水際と頭の上を行ったり来たりして楽しんでいる一羽にアリシアが目をやると、少女が尋ねた。


「触ってみる?」

「大丈夫なの?」

「食べられたりはしないわよ。濡れるかもしれないけど」

「水がかかるくらいなら大丈夫よ」


少女が立ちあがって水の方に近づいていくと、鳥はおとなしく離れた陸地に飛び移り、海にいる子はその場でじっと少女に頭を撫でられている。


「どうぞ」


少女に促されたアリシアは驚かさないようにゆっくりと近づいていくことにした。

一方海の中の子は頭を自ら出してじっとこちらを見ているのがわかる。


「こんにちは。海の子に会うのは初めてだわ」


アリシアが挨拶をすると、少女が撫でていた手の位置を高い所に移動させた。

するとそれに応えるように体を大きく揺さぶって体を持ち上げて、両方の胸びれをアリシアの方に差し出した。

それが握手を求めているように見えたので、アリシアは前に差し出された胸びれの片方を、ひらいたままの両手で触れる程度に挟んだ。

挨拶が終わりアリシアが手を離すと、一度海に身を沈めた後、再び頭だけを出してキュッキュと鳴いた。

アリシアが手を差し出すと、口先でツンツンと突っついて、キュッっと鳴くので人にとても慣れているように見える。


「普段は人がいるとわかっている時は、姿すら見せないのよ」


少女が手を差し出すと、今度は交互に二人の手を突っついて遊び始めた。


「この子も気に入ったみたいね」

「何だか、私の手の動きに合わせて芸をしてくれているみたいだわ」


彼女は突かれた手でそのままその子を撫でた。

どうやら撫でられるのは好きなようで、よく見ていると撫でてほしい位置に自分で移動しアピールしている。


「ここの水は森の泉とは違う匂いがするわ。同じ水を湛えているのにとても不思議」


アリシアは改めて洞窟の中に入り込んでいる水を見て言った。


「これは海から流れ込んでる海水だから、森の真水とは違うと思うわ。あなたは森から来たんだもんね。そういうところが違うのか。私は海しか知らないからお話が聞けてとても嬉しいわ」

「木の香りの代わりに潮の香りがしているの。同じ水でも環境によって変わるのね。私は海を見たのが今回初めてだから、教えてもらえるととても勉強になるわ」


二人は水辺から離れることも忘れて話を続けていた。

そこでふとアリシアが思い出したように聞いた。


「もしかして、昨夜、この子の背中に乗って沖にいたり……してないわよね」

「ええ、いたわよ。この子の背中に乗って夜の海を散歩していたの。この子は私の友達。いつも一緒にいるわ」


少女はあっけらかんと答えた。


「私も森にいるときは動物たちと一緒にいることが多かったわ。でも、見つからないようにしなければいけなくて……」

「大事なことだわ。人間に見つかってしまうとこの子たちなんて石を投げつけられたりしてしまうもの。だから私は海岸に人もいない、船も出ていない、そんな時間を選んだつもりだったんだけど……見られちゃったのね」

「大丈夫よ。たまたま窓から遠くに見えただけだから。今朝もね、もしかしたらそういう岩場があるのかなって気になって砂浜まで下りてきたの。そしたらあの子にここまで案内されたのよ。誰にも言ってないわ」


アリシアは水の縁をうろうろしている鳥の方を見た。


「よかった!それにもし猟師に見つかって猟銃で撃たれたら死んでしまうもの」

「私も動物たちと会うときは森の奥まで行って、こっそり会うことにしているのよ。やっていることが似ているわね」


二人は顔を見合わせて笑いあう。


「そうね、滅多に人間が寄り付かないの。潮が満ちたら道がなくなってしまうところだから。でも、海が荒れてもそんなに波が入ってこない、私たちには安全なところなのよ。それにここの水深は見た目よりもかなり深いから、この子たちみたいに大きい子たちも入ってこられるの。浜辺からも影になっていて見つかりにくい貴重な場所なのよ。あなたの言う森の奥と似たような場所になるのかしら」


自然というのは海も山も森も季節もまとめて表現されるものだ。

アリシアは森と海の共通点を探す。


「似ているかもしれないわね。森はどこまでも木々が全体を隠しているけれど、私の行くところは平地が多いし、潮の満ち引きで道がなくなってしまうことはないけれど、季節によって木の様子が違うから、夏のように草葉の多い時には道が見えないと感じる人がいるかもしれないわ」

「森にも潮の満ち引きのような導きがあるなんて嬉しいわ。潮の満ち引きは月の満ち欠けと同じように短いスパンで繰り返されているけれど、森は一年という長いスパンで導いてくれるのね」


少女がアリシアの話を聞いて新しい発見をしたと無邪気に喜んだ。

こうして洞窟の中で行われる自然に関する談義はしばらく続くのだった。



一方、アリシアが誰にも気づかれていないと信じて、砂浜を歩いていた頃、この様子を見ている者がいた。

彼はため息交じりに部屋を出ると、見つからないように距離を取りながら彼女の後を追いかける。


「あー、どうするかなー。報告しないとご主人様が怒るんだよなぁ。たぶん報告しても血相変えてくるんだけどさー」


海上にふわふわと浮きながらエルがぼやく。


「へー、いつから主従関係なんて結ぶようになったのさ」


海からはからかうような言葉が返ってくる。


「言ってみたかっただけだよ。で、誰がどこに連れてくって?」


波の音に負けないような声でエルは聞き返した。


「鳥たちが洞窟に連れて行こうとしているみたいだって言ったの。海の生物のたまり場だな。なんか海のお嬢さんが話してみたかったみたいだよ」

「んー、わかった。で、その場所ってのはあそこだな」


エルは海上から陸地に向きを変えて崖の方を指差した。

陸地からは死角になるが、沖からはよく見えるのだ。

ところどころ柱のように岩が残っているため、中の様子はわからない。

柱が障害物となっているため、船も近付けないだろう。


「そうそう。人が行きにくい、いいところだよ」

「そうか、じゃあそろそろ戻るよ」


エルが戻ろうとすると、後ろから声がした。


「おまえ、それが久々に会った仲間に対する扱いか?それにしても見ない間に丸くなったな」

「そうか?年取ったからだろ」


エルは振り返ることなくそう言ってその場を後にした。

そして、これからフランツにこの事実を伝えなければならない現実を思ってため息をつくのだった。



「あ、お迎えがきたみたいだから、行くわ」


少女が急に立ちあがった。

つられてアリシアもその場に立ち上がる。


「いつか、あなたの森と私の海が水の導きで繋がったら、もっとたくさん会えるようになるわ。また近くに来たら立ちよって」

「ええ。またお話しできるのを楽しみにしているわ」


その言葉とほぼ同時に、アリシアの背にある岩陰から人の姿が現れた。


「アリ……シ……ア」


フランツは息を切らしている。

どうやら足場が悪いにもかかわらず走ってきたらしい。

アリシアは声の方に体を向けた。

そして、すぐに少女のいた方を見ると、すでに彼女はいなくなっており、動物も鳥も姿を消していた。


「やっと、見つけました」

「フランツ様」

「なぜ一人でこのような所に」

「少し、外の風にあたりたくなって……」

「少し、という距離ではないと思いますが」


確かに屋敷から歩ける距離ではある。

しかし、障害物も多く、風にあたって散歩をするようなところではない。

ここは日も当たらない、風も吹かない洞窟の中である。


「ここは市井です。王宮の中でも、森の辺境領でもない」

「そうですね……」

「誰もいないということは、誰にも襲われないかもしれないけれど、誰も助けてくれないということです。そんなことが分からないような人ではないはずだ」


アリシアの感情を共有できないもどかしさでフランツはどんどんアリシアを追いつめていく。


「何があったんですか」

「立場をわきまえず、申し訳ありませんでした」

「立場……か……」


フランツはその言葉を聞いた瞬間に憑いているものが落ちるような気がした。

少なくともフランツが考えていることは、ちゃんと伝えないと伝わらないのだ。

彼女から見ればこれは貴族の政略結婚で、家の結婚であり、同じ地位があれば自分ではなくてもいいと思っているのだろう。


「不安なんだ。一緒に生活しているはずなのに気が付いたらいなくなっていて、目を離している間に誰かに危害を加えられているんじゃないか、どこかで倒れているんじゃないか、もう、戻ってこないんじゃないかって……」


つい感情が入り言葉が揺れる。

その声の揺れに気がついてアリシアは不思議そうに言った。


「どうして、私のことをそんなに……」

「僕は、ずっと、側にいたかった。最初からアリシアしか目に入っていないよ。初めて見た時からね」


アリシアは困惑して返事ができずにいる。


「皆が心配しています。そろそろ戻りましょう」


アリシアの様子を見て、フランツが畳み掛けた。


「はい」


こうして二人は洞窟を後にするのだった。

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