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溺愛王子の許嫁  作者: まくのゆうき


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海とカモメ

アリシアが砂浜に降りると、岸壁に止まっていたり、海の上を鳴きながら飛んでいる鳥もいるのが目に入った。

ここから見えるだけで数種類の鳥がいるようで、犬が鼻を鳴らしているような声と、猫が鳴いているような声が混ざり合っている。


「海の鳥も朝は早いのね」


海風にあおられながら海の方を眺めていると、一羽がアリシアに向かって飛んできた。

アリシアが手を伸ばすとおとなしくそこに止まってキューと大きな声で鳴いた。

森にいる鳥たちより大きく、ずっしりとした重みがある。

アリシアはその重みを片手で支えつつ、もう片方の手で羽を閉ざした鳥の体を撫でた。

そんなことをしているといつの間にか多くの鳥たちがアリシアの上空を旋回するように飛び回っている。

よく見ていると時々どこかに案内するかのように先の方を旋回して戻ってくる鳥もいる。


「ついていけばいいの?」


アリシアが自分の手の中にいる鳥に声をかけてみると、再びキューと鳴いて、黄色いくちばしの先が当たらないように乗っている手に顔を摺り寄せてくる。

すっかり撫でられるのが気に入ったようで、返事はするが飛び立つ様子はない。

とりあえずアリシアは自分の手の中にいる鳥を抱えると、他の鳥たちに誘導される方へついていくのだった。



腕の中にいる鳥と、飛び回る鳥に案内されて砂浜を歩いていると、だんだん砂が少なくなり、岩の多い場所に出た。

岩に波が打ちつけてしぶきをあげているが、濡れるほどではない。

普通に歩くには狭い道だが、足を滑らせなければ落ちるほど狭くもない。

岸壁に手をつきながら歩いていけば、足元が悪くても転んだりすることはないだろう。

アリシアは腕から離れない鳥を片腕に抱え直すと、空いた方の手を壁に付きながら岩の道に足を踏み入れていった。


しばらく歩いていくと、壁の部分がえぐれて洞窟のようになっているところが見えた。

壁は柱のように残っており、道の途切れているところもあるが、飛び移っていけば進むこともできそうだ。

また、洞窟沿いにも歩けるところはあるようで、壁沿いに歩いていけば自然と洞窟の中を通過することになる。

アリシアが立ち止まってどちらに行くか迷っていると、腕の中の鳥が急に首を伸ばして洞窟の方を指して鳴いた。


「洞窟の中に行きたいの?」


アリシアが聞くと、鳥はアリシアを見つめてから頭を摺り寄せた。

アリシアは鳥の頭を撫でてから、再び壁に手を当てながら、洞窟の方に入ってみることにした。


アリシアが洞窟の中に足を踏み入れると、ずっと旋回していた鳥たちは海の方に飛び去っていった。

アリシアの腕に残っている鳥はそれでもその場所が気に入っているのかどこかに行く気配はない。


「一緒に行くの?」


と、アリシアが聞いてみると、鳥は体を伸ばしてキューと大きな声で鳴いてから、再びアリシアの腕の中に納まった。

仕方がないのでアリシアは鳥を腕に抱えたまま洞窟の奥に進んでいった。

入口が大きく開いていて、所々の岩盤が柱のように支えているような形のため、中は思った以上に明るかった。

横に広い空間となっているが、奥には深くない洞窟で見通しが良い。

さらに洞窟の中まで水は入ってきているが波はなく、そこだけ滾々と水が湧き出しているのではないかというくらい穏やかだ。

アリシアが水際と壁の間の岩場歩いて奥まで行くと、少し陸地の多いところに出た。

天井も置くに向かって低くなっているので、おそらく大波が来たときに削られ場所で普段はここまで水が来ないのだろう。

その周辺の岩は歩いてきた道とは違って乾いている。

アリシアは椅子になりそうな岩を見つけると、乾いていることを確認してから腰を下ろした。


「ここは鳥には暗くないのかしら?」


アリシアは鳥をひざの上に乗せかえながら言った。

急に手を離されてびっくりしたのか、鳥は首を伸ばしたが、ひざの上に乗せたらすぐにその上でうずくまった。

アリシアはひざの上の鳥の背中を、子どもでもあやすかのように叩いた。



しばらくそうして休んでいると、アリシアが北方向と反対側からこちらに迫ってくる足音が聞こえた。

今までほとんど揺れていなかった目の前の水も大きな波紋を作っている。

洞窟になっているため音がよく反響することもあり必要以上に不安になる。

アリシアが膝の鳥を腕に抱え直して立ちあがろうとすると、今まで離れようとしなかった鳥がアリシアの膝の上で立ちあがって大きな声で立て続けに鳴いた。


「どうしたの?」


呼んでいるのか、威嚇しているのか分からないが、アリシアが背中を撫でてもずっと鳴き続けている。

一度持ち上げて地面に下ろすことも考えたが、鳥は足でスカートをしっかりとつかんでいて、鳥を持ち上げると服もくっついて動いてしまう。

無理やり離そうとすればおそらく服の方が破れてしまうだろう。

アリシアは立ちあがるのも、鳥を下ろすのも諦めて、ただ自分の方に迫ってくるものを警戒するのだった。



何かと話しながら、迷いすら感じさせない足取りでアリシアの方に近づいてくる。

声の主は話し方の感じでは女の子のようだ。

膝の上の鳥が不規則に鳴いていることもあり、女の子に答えている方の声は聞こえない。


「あー、本当だー」


アリシアが人影を認識するのと同時に女の子の声が大きくなった。

そして声の主がアリシアに駆け寄ってくる。


「こんにちは。こんなところまでようこそ。っていうか、この子たちが連れてきちゃったのね?」


アリシアの膝の上の鳥を見ながら少女は言った。


「ええ、邪魔だったら……」


アリシアは話しかけようとしたが、少女はアリシアの話を聞くことなく、すぐに背を向けて水面に向かって声をかけた。


「大丈夫だから出ておいで」


彼女が声を抱えると、水面に波紋を起こしていた大きい生き物が水から顔を出す。

すると鳥はキューっと鳴いてアリシアの膝からその生き物の頭に向かって飛び立った。

頭に乗られた生き物の方は乗られ慣れているのか、止まられても動くことはない。

遠目に見ていると非常に仲がよさそうである。


「これで大丈夫ね。隣いいかしら?」


アリシアが動物の戯れに気を取られているところに少女は話しかけた。

彼女はすでにアリシアの隣に立っている。


「どうぞ……」


アリシアが返事をすると少女は傍の地面にぺたっと腰を下ろしてアリシアを見上げた。


「あ、そうそう、邪魔じゃないからゆっくりしてって。私、普段はこの子たち以外に話相手がいないから、色々聞かせてくれたら嬉しいわ」


人みしりという言葉を知らないのか、警戒心なくアリシアに話しかけてくる。


「ええ、ありがとう……。ところで、女の子が一人でこんなところに来て大丈夫なの?誰か心配してるんじゃ……」


自分のことを棚に上げてアリシアは言った。


「うーん。昔はそんなことも言われたけど、今はもう私を心配してくれるような人は生きていないわ。それに、私にはこの子たちがいるもの」


水辺から頭を出している子とその上に乗っている鳥が、その言葉に反応してじっと二人の方を見た。


「他にも沖に行けばたくさんの子たちがいるわ。みんな私の友達なの。だから海にいる方が安全なくらいよ。私はこの子たちと海で一緒に過ごせるのが一番幸せなの。」


アリシアは自分が森で生活することを選択したら、この少女と同じように森で過ごせるのだろうか。

この少女の姿は自分の将来と似ているのではないか。

そんな思いが頭をよぎった。


「ねぇ、ここでの暮らしについて、教えてもらっていいかしら?私は森から来たから海での生活については全然解らないの」


思わず素直な言葉が口をついた。


「もちろん。その代わり……森での話、私も教えてほしいわ。私も海しか知らないの」

「ええ、もちろんよ」


こうして二人は仲良く並んでお互いの生活について語り始めるのだった。

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