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貴族の勉強

初等学校二年目。

アリシアには希望したすべての科目、貴族科目の教養・ダンス・マナーと、開拓科目の基礎の受講資格が与えられていた。

つまり、希望として出されたすべての授業に参加しなければならなくなったということである。



アリシアは連日のように長い黒髪をなびかせ、鞄を抱えて広い校舎内を速足で移動していた。

校舎内は走ってはいけないということになっているが、まだ体の小さいアリシアが次の授業に間に合うよう校内を移動するためには、どうしても急ぐ必要があるのだ。


一年目とは異なり、二年目は授業ごとに教室が違う。

基本的に科目ごとにできるだけ移動距離が短くなるよう教室配分が行われているが、アリシアの受講科目が貴族科目だけではなく開拓科目もあることから、教室同士が遠い組み合わせの時間割になっている日があるのだ。

ダンスを含め、着替えをして必要とする授業がないことだけが救いだった。

途中に着替えが入ったら確実に連日遅刻してしまう。



授業はというと、開拓科目の基礎や貴族科目の教養は座学、ダンスとマナーは実技となっていた。

あくまで基本からということもあり、実技形式のダンスやマナーもアリシアが家で学んでいたレベルで充分こなせるものだった。


ダンスは誰かと踊るわけではなく、全員が個別に先生を見ながら同じステップを行い、新しいステップを覚えては繰り返すのみで難しい動きは取り入れられていないし、

マナーも歩き方やお辞儀、食事の仕方などを身につけるため、同じ動作を繰り返して行うことが多かった。

習慣になっているアリシアにとっては当たり前のことだったが、初めて学ぶ生徒に体が覚えるまで繰り返し行わせるのが目的の授業となっていることが分かった。

アリシアが苦労しなかったのは、家でのしつけが間違っていなかったためである。

彼らが娘を表に出して恥ずかしい思いをするような教育をするわけがなく、クレメンテが継続して受講してほしいと言ったのは、貴族としていつでもできるように、気を抜く時間を減らす訓練という位置づけである。


また、座学は貴族の教養は王族のあらましや貴族の役割、どのような人がこの国に住んでいるのかなど、人物と歴史が中心の授業で、開拓の基礎は、森の辺境の歴史、開拓の方法、森だけではなく山や海や砂漠のような自然環境に関する授業となっていた。

これらの授業はアリシアの知的好奇心を刺激し、毎日一番前のど真ん中という目立つ席を選んで、目をキラキラさせて話を聞くようになっていた。

さらにわからないことはどんどん質問していく。

その様子が講師の好感度を高めたのか、気がつけば彼女は座学担当の講師から特にかわいがられるようになっていった。


移動のハードな時間割と、授業のたびに校舎内を動きまわる生活のおかげで、少しずつ広い校内のことが分かるようになってきた。

お休みの日以外、選択した科目は毎日同じスケジュールで授業が行われていた。

内容は少しずつ進んでいくものの、基本的に教室が変更になることは少ない。

アリシアは、どの廊下を歩けば次の教室に早く到着できるのか、ショートカットできるところはないのかなど、毎日、最後の授業が終わると、いつも違う道を探しては散策をしてから家に戻ることが習慣になった。


ある時、色々な道を通っていることに気がついた職員に、


「どこの教室を探しているのですか?」


と聞かれたことがあったが、


「教室の移動時間が短くなるコースを探しています」


と答え、さらにどの授業を選択しているのか説明すると、


「そうか、移動が大変な時間割なんだね」


と、納得された。



しかし、この散策にはもう一つの目的があった。

それは学校でアリシアが一人でいても不自然じゃない場所を探すことである。

最初は急に増えた授業についていくのに精いっぱいだったアリシアだが、授業ありきの生活リズムが体に馴染み、心身ともに少し余裕が出たこともあり、森の家族との時間を少しでも多く取りたいと考えるようになっていた。

そのため、あまり人が来ないところ、すぐに隠れられるところなどを見つけるために必死になっていたのだ。



アリシアにとっては今でも話し足りないくらいなのに、次の年度に上がったら、今よりも忙しくなって森に行く時間が減ってしまうことが考えられた。

三年目からは取れる科目が増える上、午後にも授業が取れるようになる。

お昼をはさんで夕方まで授業があっては、学校のある日に森に入って行くのは絶望的となる。

だからこそ、何としてでも学校で彼らと会える場所を見つけたかったのだ。



勉強によって増えた知識のことを話すと、その知識をさらに実体験として語ってくれる森の家族は、今でも彼女にとって大切な先生だった。

教室移動に時間を取られなければ、学校の先生ともそのような話をしたのだろうが、設定された時間割のこともあり交流の時間はほとんどなかった。

質問も授業中に済ませていたし、移動のために授業が終わるとすぐに教室を出てしまうため、先生や生徒と楽しく歓談するということはなく、人間のお友達は依然増えないままだった。

彼女の話相手はやはり人間ではなかったのだ。



ちなみに、アリシアはこの年の成績もやはり各選択科目すべてにおいてトップで終えた。

彼女の持ち合わせた頭の良さもあるが、実技は家庭で身に付いたもの、知識は妖精たちが語る物語のような話によってしっかりと補完されたため、自宅で机に向かって勉強をするまでもなかったのだが、午前中で授業を終えて、森に駆け込むことが多いアリシアを見ている人からは、遊んでいるのに成績が良いように見えているようだった。

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