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溺愛王子の許嫁  作者: まくのゆうき


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狼の住処

泉から狼の子どもたちに案内されてたどり着いたのは、草に覆われたトンネルのようなところだった。

トンネルはアリシアの背丈より低い。

アリシアが入口で足を止めると、彼らは中に入ってとアリシアの後ろに回って足に頭を押し付けたりして、中に入るように促す。


「ここに何があるの?」


何があるのかわからない洞窟に堂々と入っていくわけにはいかない。

アリシアが膝を曲げて子どもたちに尋ねると、


「おうち」

「入って」


と、彼らは口々に言った。

初めて来た場所にアリシアは不安を覚えつつも、中に入ることにした。

ここまでついてきて引き返すのは子どもたちにも申し訳ない。


「わかったわ。お邪魔するわね」


アリシアはスカートが汚れないようにまとめて持つと、屈んだ状態で子どもたちについて行った。

子どもたちの案内を受けて奥まで進むと、広い空間に出た。

高さにも余裕があり、アリシアが体を起こしても天井には届かない。

膝を曲げた体勢を元に戻して体を伸ばしていると、ここが目的地なのか、子どもたちは草で盛り上がっているところに向かって走り出した。


「こっちきてー」


と声がかかる。

アリシアが呼ばれるまま座ると、子どもたちは草に埋まりながらアリシアの膝の上に集まってすり寄ってきた。

そこは彼らの寝床らしく、座ってみると敷かれている草は柔らかく、草に混ざって花の良い香りがする。

しばらくアリシアが子どもたちをかまっていると、来た道の方から声をかけられた。


「久しいな。今日はうちの子どもたちが迷惑をかけた」


アリシアの前に姿を現した声の主は、大きな白銀の狼だった。

どうやら出かけていた先から戻ってきたようだ。

初等学校の芝生で良く遊んでいた頃は大きな犬という感じであったが、今は明らかにそれより大きい。


「いいえ、迷惑だなんて、そんな……。この子たちはあなたの子どもだったのね」

「ああ、そうだ」

「お久しぶりですね」

「そうだな。この地を出る前に森に来て以来だ」


二年前、アリシアがここに戻ってきた時、泉の女神たちには会ったが、彼には会うことはできなかった。

つまり直接話したのは、初等学校を卒業して王都に行く前なのである。



「この子たちの誰が次の王になるのか決まっているのですか?」


アリシアは自分の周りで草や花にまみれてごろごろしている子どもたちを見ながら言った。


「もう少し成長すれば白い毛の中に銀が混ざるようになる。その銀の毛色を持ち、性に関係なく次を継ぐにふさわしい者が王になる。この子たちは私の子で王の候補ではあるが、必ずしもこの中から王が出るとは限らない」


人間とは違い、あらゆる動物に認められる力がなければ王とはいえない。

動物の世界において、人間のように血筋だけで王が決まることはないのだ。


「人間の権力というのは不思議なものだな。能力ではなく、血筋で決まるのだろう?」

「そうですね……。ですが、権力をふるうものが横暴であれば、それを抑えるために集団で立ちあがって、その権力を倒す、ということはありますけど……」

「それは多くの命を削る戦というものであろう」

「そうなることが……多いですね……。今、この国の王族の方々はそのようなことにならないように、国を治めることを考えています」


本当のことを言うと、アリシアにも具体的にはわからない。

ただ、王妃教育では常に戦を避け、穏便に交渉をする術を学んできた。


「ただ、私も自分ができる限りですけど、領土の自然や動物たち、妖精たちのためにできることをしたいと思っています。私にしかみんなの声が聞こえないのなら、私が代弁するしかないですから」


アリシアはひそかな決意をここに表明した。

彼らと話せば話すほど、見えないところでどれだけ人間が彼らに支えられているのかよくわかる。


「私にとっては、人間だけではなく、森の家族たちが安心して暮らせることが一番です」


アリシアが視線をそらすと、その先では、子どもたちがいつの間にか毛玉のようになって近くに転がって眠っていた。



「ところで……人間とは上手くいっているのか?」

「はい。みんなとはいきませんが、良くしてくれる人にもめぐり合うことができました。外から見れば解らないくらいには、きちんと生活できていると思いますよ」


ここでも王都に行ってからの話をアリシアは伝えた。


「それならいいのだが……。困ったことがあったらいつでも呼んでくれ」


本人から話を聞いて少し安心したのか、彼はそう言った。


「私が生活することになった場所は、ここからでは遠いところですよ?」


さすがに助けを呼べるような距離ではないし、もし来るにしても時間がかかる。

冗談かもしれないと思いながらもアリシアは複雑な気分になった。

今までも本当に危ない時には助けられているのだ。

本当であれば迷惑をかけるべきではないとアリシアは思っている。


「それでも、私にできることはするつもりだ」

「ありがとうございます。私はいつも助けられてばかりですね……」

「そんなことはない。お前は私にとって、大事な子の一人だと思っている。また、人間に害されるようなら、いつでも立ち向かっていくつもりだ」


幼い頃から森を愛し育ってきたアリシアを見守ってきた彼にとって、彼女は娘のようなものだった。

動物にできて妖精にできないこと、森に危害を加える人間と対峙するという役割を自分が担っている。

そんな中、自分たちを恐れず、妖精たちと話ができる彼女を、私たちに危害を加えることはないと森が受け入れたのである。

それからずっと、彼女は森の家族の一員として扱ってきた。

人間とは違い、森は彼女を裏切らない。


「いつでも辛くなったらここに来るといい」

「はい」

「もし、森で生活をすることを考えているのなら歓迎する」


彼は二年前の家出の騒動を知っていた。

もちろんフランツがこの森に入った件についてもである。

しかしアリシアがそこまで婚約が嫌ならば、かくまってもいいと今でも思っている。

今も彼と一緒に来ているわけではないし、おそらくお互い距離を置いた付き合いしかできていないのだろう。


「確かに森の家族のことを隠して生活するのは辛いです。でも、例え他の人間に認められなくても、私にとっては大切な家族だと思っています。最近は王都にも妖精がいることが分かって、彼らともこっそり話をしていました。見つからないようにするのは大変ですが、こうして帰ってくるところもありますし、私は一人ではないので大丈夫です」

「いつか理解されればいいのだがな」


そう言うと、向かい合わせに座っていたアリシアの横に彼はそっと寄り添った。

アリシアはひざの上にあごを乗せた狼のふわふわとした毛並みをなでる。


「疲れているだろう。たまには私が枕になろう。私に寄りかかっておいで」


アリシアは狼に誘われるまま、彼に頭を預けた。

しばらくすると、彼の毛の肌触りの良さと温かさに包まれて、うとうととし始めた。

子どもたちはまどろみながら、アリシアの方に寄ってきて、彼女の体にまとわりつきながら再び眠り始めた。

その心地よさにアリシアはそのまま眠りに落ちていくのだった。

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