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溺愛王子の許嫁  作者: まくのゆうき


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里帰り

アリシアが王都上級学校を卒業してから一年。

フランツとの婚約が決まってから二年という月日が流れていた。

アリシアはこの二年、森の辺境領に帰ることができていなかった。

そのため、今回の視察の旅の行程の最初が、森の辺境領であることがとても嬉しかった。

そのことに気がついたフランツも、せっかくだから実家でゆっくりできるようにと、数日長く滞在できるように配慮してくれていた。


さらに、フランツは外交なのだからと、アリシアにドレスをはじめ、多くのものを新調しようと張り切っていたが、アリシアは最初に行くのが森の辺境領であるため、実家から必要なものを持ち出せばいいと、新しくドレスなどを作ることはできるだけ控えたいと伝えた。

伝えたのが遅かったのか、どうしても譲れないところがあったのか、数日後に数着は新しい服や靴が届いたが、断り続けるのも失礼となるため、すでに届いたものに関しては持っていくことになった。

森の辺境領を出る時に、アリシアの荷物が馬車に増えてしまうのが心苦しいとフランツに伝えると、荷物だけを運ぶ馬車を別に用意して、視察に必要のない荷物は先に王宮に運ばせるように手配されてしまい、かえって恐縮することになってしまった。

そんなことがありながらも、準備は着々と進み、気がつけば移動当日となっていた。

馬車での移動で森の辺境に向かうことになった二人だが、アリシアが王宮に入ってから同じ馬車で移動するのは初めてである。



二人は同じ馬車に、荷物と少人数の臣下と侍女が別の馬車に乗り、その周囲を騎乗した騎士が守りながらの大移動となった。

アリシアからすれば里帰りだが、今回の名目は公務である。


「やはり物々しいですね……」


以前、森の辺境からフランツと共に戻る際にも思ったことだが、自分が守られる立場で、周囲にそのための多くの人が付いているということに違和感を覚える。


「前にも話したけど、これからはこんな感じになるから慣れてもらうしかないかな。窮屈だとは思うんだけど、どうしても私たちは狙われる立場になりやすいから、こういうことが必要なんだ。この先、アリシアが公務で訪問したり、ちょっとした外出でも護衛がつくようになるからね。まあ、これも王妃教育の一環だと思ってくれたらいいよ」


ずっとこのように人の目のある環境で生活をしていたフランツでも、自由に動き回れないことに不便を感じるくらいである。

ずっと行動制限や監視の目のないところで生活をしていたアリシアにとってはきっと苦痛に違いない。

気にしないようになるには時間がかかる、せめて、馬車の中に二人でいる時はそのことを意識せずにいられるよう、フランツは馬車の中では日常的な会話を心がけることにした。

幸い、執務に関わるようになったおかげでアリシアとの会話のレパートリーが増えていた。

書類を黙々と片付けることの多いアリシアだが、彼女は時々貴重な意見をくれる。

たくさん時間があるのだから、長く議論できるような話題を振るのもいいだろう。

実は出発前から、フランツはまじめにそんなことを考えていた。

そして、彼は馬車の中ではそれを実行し、移動中の時間をつないだのである。



以前の帰りと同じように、途中の街で一泊し、彼らは無事に森の辺境に到着した。

まずは、アリシアを先に実家に送り届け、その後、フランツが宿に向かうということになっていため、予定通り馬車は領主の家に入っていった。


先触れが届いていたため、実家に到着するとアリシアは家族総出で迎えられた。

久々の我が家だったが、大きな変化もなく、それがアリシアを安心させた。

一方、年数を感じさせたのは弟妹が大きくなっていることだった。

手紙で情報は得ていたものの、やはり実際に見ると驚くことも多い。

弟は身長が伸びて、アリシアとほとんど変わらないくらいになっていた。

このまま伸び続ければ、次に会うときには抜かされているだろう。

妹も、たどたどしい口調はなくなり、きれいに言葉を話すようになった。

お転婆なところはあるようだが、アリシアほどではないようなので、きちんと学校教育を受ければ淑女になれるだろう。

アリシアと家族が簡単な再会の挨拶を済ませると、アニーは言った。


「部屋はそのままにしてあるわ。まずは荷物を置いていらっしゃい」

「はい」


母親に促されて、アリシアが自分の荷物を持って部屋に向かおうと動き出すと、近くで荷物を持ったまま待機していた付き人たちが後に続こうとした。


「フランツ様、何を……?」


馬車で待機しているはずのフランツがいつの間にか玄関先に現れて、男性の付き人から荷物を奪い取っていた。


「アリシアの部屋に他の男性を入れるのが嫌なだけだよ」

「は、はい……」


彼が戸惑っていると、フランツは笑顔で続けた。


「私に荷物を持たせることより、彼女の部屋に入ることの方が私からすれば罪は重いかな」

「か、かしこまりました」


彼は諦めてその場で待機することにしたらしい。

荷物はフランツとアリシアの侍女とアリシアで運ぶことにした。


「ご無沙汰しております」


フランツは荷物を持ったまま、得意の自愛の笑みを向けてそろっている家族に挨拶をした。


「この度は、お立ち寄りいただきありがとうございます。娘のこともご配慮いただき……」


クレメンテが挨拶を始めると、フランツは話をさえぎった。


「申し訳ないが、この荷物を運んだら私も宿に荷物を下ろしたいんだ。日を改めて挨拶に来るから、その時にゆっくり話をさせてもらいたい」

「ではそのように」


クレメンテが引き下がったところで、アリシアが動き始めた。

それに侍女たちが続き、一番後ろをフランツがついてくる。

もともと荷物は少ないので、この人数であれば一度で済んでしまう。

フランツはアリシアの部屋に荷物を置くと、


「僕は宿に向かうから、家族水入らずで、ゆっくり過ごしてね。積もる話もあるでしょうから」


と言い残して、家を後にした。



フランツを玄関先で見送って、再び部屋に戻ったアリシアは、改めて自分の部屋を見回した。

久々の自分の部屋だが、自分の記憶にあったまま、何も変わっていなかった。

いつ帰ってきてもいいように手入れされ、自分が部屋を後にしたときと同じ状態なのである。

そんなところに感謝と感動を覚えつつも、アリシアは早速作業に取り掛かることにした。

次はいつ戻ってこられるか分からない。

そこに少し寂しさを感じながら、夕食までの時間、アリシアは持っていくものと置いて行くものの仕分けに勤しむのだった。

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