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溺愛王子の許嫁  作者: まくのゆうき


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視察の依頼

フィリウスが再び旅立ってから数日後。

フランツは父である国王陛下の元に呼ばれていた。


「お呼びであると伺いまして参上いたしました」


形式上の礼をとると、フランツは用件を急かした。


「早速ではございますが、ご用件をお伺いしたく存じます」


その様子を見た国宝陛下はため息をついた。

そして話をする前に人払いを行う。


「あいかわらずだな……。まあいい。そろそろアリシア嬢のここの生活に慣れて落ち着いてきたことだろう。どうだ?」


フランツは訝しげに眉をひそめたが、すぐに笑みを浮かべて答えた。


「そうですね。慣れてきたと思いますよ。王妃教育が終わってからは執務のサポートもしてもらっています。彼女は仕事もできる優秀な女性です」

「そうか。それは何よりだ」

「それが何か?」

「フランツ……お前は彼女のことになると面白いくらいに態度に出るな……。まあいい。本題に入るとしよう」


そう言うと、あらかじめ用意されていた書類をフランツに渡す。


「お前にこれを任せてみようと思う。アリシア嬢と二人でここに書かれている領地に視察へ行ってきなさい。この視察は各領地にアリシアをお前の婚約者としてお披露目する意味も持つ。手に負えない案件が出てきたら私に連絡をくれればいい。その際はエルを使いに出せば人を送るより早く連絡が取れる。何もないに越したことはないが、精霊の使い方も覚えた方がいいだろう」

「妖精の使い方……ですか」

「そうだ」


この視察には、いくつかの目的があるようだ。


「王族は妖精の力を借りて国の細部に注意を払っている。フィリウスの旅の目的はお前も知っているだろう」


フランツは黙ってうなずいた。

それは知っている。

王族の儀式の後にすぐにわかったことである。


「この指輪を持つ者を守護してくれる妖精は、妖精の王の忠実な家臣であることからも、妖精の中でもかなり高い地位にいるものであるらしい。そして、指輪を持つ王族は儀式を行った祭壇で妖精の王の力を借りて彼らの情報を得ることができる。お前にも、その情報の共有方法を学んでもらう」


この話を聞いた瞬間に、フランツは理解したことがあった。

連絡のないフィリウスの周囲に何も起こっていないと言えるのか、ずっと不思議に思っていた。

王族に何かあれば噂でも、護衛からでも何かしらの連絡が入るだろうが、事態によっては対応が間に合わないこともあるはずだ。

なのになぜ、彼は自由に色々な場所に行けるのか、それを黙認しているのか不思議でならなかった。

しかし、どこで何をしているのか、本人から毎日連絡が入っているというのなら納得である。


「そういうことですか……」

「今後、フィリウスが王位を継ぐことになれば、お前がその役割を果たさなければならない。今回はアリシア嬢のお披露目と領地の視察という名目で現地に赴き、お前には妖精たちにも自分の存在をアピールし、毎日、妖精を使った報告を私にしてもらう。方法は後で妖精に聞くといい。以上だ」

「わかりました」


フランツは話が終わると、国王陛下の前から下がった。

そして、その足で渡された書類を抱えたまま執務室に向かうことにした。

まずは自分が書類に目を通し、アリシアにも今回の視察について話さなければならない。

急な話だが、書類になっているということは少し長い旅になるだろう。

荷物なども早急にまとめなければならない。



フランツは執務室に戻ると、何も言わず自分の席に座って、早速書類を読み始めた。


「お疲れ様です」

「ああ、ありがとう」


書類の中身も、何を言われたのかも聞くことなく、ただ温かいお茶を用意して机に置いてくれるアリシアに感謝しつつも、すぐに書類に目を戻した。


「珍しいですね、よほど大事な書類なんでしょうか?」


その様子を見たアレクが珍しいものを見たと驚き、アリシアに小声で話しかけた。


「国王陛下に呼ばれて預かったものですから、よほどのものなのでしょう。私たちは他のお仕事を片付けておけばお役にたてると思いますよ」

「そうですね……」


アリシアの反応にフランツとの温度差を覚えつつ、アレクはそこに触れることなく返事をした。

そっけなくされて怒らない、侍女であり側近のような婚約者、フランツはそのような女性としてアリシアを求めたのだろうか?

アリシアはそれを彼の理想の婚約者というものだと思って振る舞っているように見える。

フランツは近づきたいようだが、アリシアから心理的距離を縮めるのは難しいのかもしれない。

アレクはそんなことを心配しながら執務を続けるのだった。



「アリシア、話があるんだ」


夕食の時間、フランツが改まってアリシアに言った。

その固い口調に戸惑いながらもアリシアは話を聞くことにした。


「はい。なんでしょうか」

「急なんだけど……、しばらくこの王宮を離れることになりそうなんだ……」

「えっ?……あ、失礼しいたました。先ほどのお話はそのようなことだったのですね」


アリシアはフィリウスがいない中、フランツがこの王宮を長期間離れるということはあまり考えていなかった。


「ああ、それで、申し訳ないんだけど……アリシアにも一緒に来てもらいたいんだ」

「……?」


アリシアは食事の手を止めて首を傾げた。


「せっかくここの生活に慣れてきたところ申し訳ないんだけど、しばらく二人で領地を見て回ることになるから、王宮にはしばらく戻れないんだけど……大丈夫?」

「はい……。視察、でしょうか?」


アリシアはフィリウスの話を思い出していた。

フィリウスは前触れもなく突然訪問しているようなことを言っていた。

王族の視察というのは、おそらく決まるのも急なのだろう。


「うん。視察もあるけど、今回は国内の領地を周って、アリシアをお披露目して歩くのが目的かな」

「私……ですか?」


不思議そうな表情をしているアリシアをフランツはじっと見つめて、柔らかい笑みを浮かべた。


「そう。アリシアを婚約者として各領地に紹介してご挨拶して回るんだ。連日会食なんかもあると思うし、移動距離も長いけど……、個人的にはとても楽しみなんだ」

「色々な領地を見て回れるのは、とても勉強になりそうですね。私は、森の辺境から出たことがなかったので……。貴重な機会をありがとうございます」


アリシアは丁寧に頭を下げた。

フランツが楽しみだというのは、ずっと王宮でのイベントや書類仕事ばかりしていて、外に出る機会がなかなかないからだろうとアリシアは思っていた。

何年もフィリウスの代わりにたくさんの王宮での業務をこなし、貴族たちとの顔をつないでいるのはフランツだ。

国王陛下はきっと息抜きの意味も込めて、領地をめぐるように彼に行ったに違いない。


しかし、フランツからすれば確実に外堀を埋めるための旅である。

アリシアに逃げるという考えはないようだが、万が一にも逃がすことはしたくない。

いずれフィリウスの代わりに領地や諸外国を巡ることになるのなら、妖精たちとの交流や、領地の視察は二の次だ。

アリシアを同行して、貴族たちに彼女が自分のものであることを周知することの方が、今のフランツにとっては、はるかに大きな意味がある。

もちろん、他のことをおろそかにするつもりはないが、彼にとって一番大事なことはアリシアの逃げ場を奪うことだ。

婚約の段階ではまだ解消することができてしまう。

フランツとしては婚姻まで進めなければ安心できない。

そんな欲しいものを雁字搦めにしたいというフランツの思惑がアリシアに伝わることなく、この日の夕食も穏やかに終えることになるのだった。

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