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溺愛王子の許嫁  作者: まくのゆうき


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暗合

フィリウスが一時的に滞在しているからといって、フランツの執務が減ることはなかった。

フィリウスの滞在予定は公になっていないが数日である。

中途半端に手伝われても迷惑だろうと本人は手伝いを申し出たりはしないし、フランツもいつ不在になるか分からない兄を頼ることはなかった。


たまたまこの日は朝食後、フランツが早く出たため、アリシアは一人だった。

アリシアは時間があるので庭と、あまり立ち寄れていなかった初代の墓に挨拶をしてから執務室に行こうと決めると、素早く準備を済ませて部屋を出た。

庭に到着するとアリシアは、すっかり慣れた様子で庭の片隅にあるバケツに水を入れ、バラを選んで鋏を入れた。

切った花はすぐにバケツの中に活けていく。

妖精が何度も教えたおかげで、花の選び方も切り方もすっかり覚えたアリシアは、一人で花を摘み取ることができるようになっていた。

どのような状態の花を持っていけばいいのか、どこを切ればいいのか、どのくらい持っていけばいいのかということが分かってからは、妖精がいなくても庭の花を供えに行くようになったのである。

こうして準備を整えると、アリシアは摘み取った花をバケツごと持ってお墓に向かった。



アリシアはお墓の見える位置まで来たところで人影に気がついて声をかけた。


「フィリウス殿下」


気配に気がついていたのか、驚いたが表情を隠したのかは分からないが、フィリウスは慌てた様子もなく振り返った。


「アリシア嬢か。どうしたんだい?」

「いえ、その……。お花をお持ちしました」

「花……?」

「はい」


アリシアの腕に抱えている水の入ったバケツの中に入っている切り花を見て、フィリウスは納得したようにうなずいた。


「殿下はこちらでご挨拶ですか?」

「うん、そうだよ。もう少ししたらまた旅に出るからね」


隙のない穏やかな笑みを浮かべながらフィリウスは言った。


「ところで、アリシアはここの存在をなぜ知っているの?」


フィリウスは、フランツにすら教えていないこの場所に、アリシアが一人で現れたことに違和感を覚えた。

一般的に知られていないお墓の存在をアリシアが知っていて、しかも一人で花を供えに来るということが大変不自然に思えたのである。

もちろんそんなことは表に出さず安定の笑みは浮かべたまま尋ねる。


「それは……。実は先日、フランツ様と庭を歩いていて見つけました。それからは時々お花をもってご挨拶に……」


妖精にきれいにしてほしいと言われた、まさか夜中に抜け出して一人でこの場所に来てフランツに心配をかけたとはいえず、できる限り情報を濁して伝えた。


実はこの場所にお墓があることがわかってから、朝食後に時間のある時などは、フランツと二人で散歩のついでに立ち寄るようになっていた。

今日はたまたまフランツが朝から所用で出かけているため、アリシアは一人でこの場所に足を運んだのである。

加えられる情報をアリシアは追加してフィリウスに伝えた。


「そうか。ありがとう」


墓の周りがきれいになっていた理由も悟ってフィリウスはお礼を告げた。


「花を持ってきてくれたんだね。私にも一緒に供えさせてくれないか」

「はい」


アリシアはフィリウスの側に寄り、近くにバケツを置いた。

そうして二人は黙って花を墓に飾りはじめた。



先に沈黙を破ったのはフィリウスだった。


「ところで……フランツが迷惑をかけていないかい?」


森の辺境領の留学から戻ってから、フランツの向上心が目に見えて高くなっていたことに、その後、王宮に立ち寄ったフィリウスは驚いていた。

もともとまじめな性格ではあるので、さぼったりすることはなかったが、どこか義務でやらされているという印象を受けることがあったが、その日を境に、彼は自分を磨くことに力を入れるようになっていた。

父親や周囲の話を聞く限り、アリシアに肩入れした結果であるということは明白で、本人を目の前にしたフランツがどのような対応をしているのか心配になったのである。


「迷惑なんて……」

「そう……ならいいんだけど。弟が空回りしてるんじゃないかって気になっていたんだ」


フィリウスはアリシアから悪くない返事をもらったため、もう一つ気になっていたことを聞くことにした。


「ところで、研究所からたくさんお誘いがあったのをみんな断ったんだよね。よかったの?」


アリシアは、フィリウスがなぜそんなことまで知っているのか分からなかったが、研究所の話をすべて断って王宮に来たのは事実である。


「はい。もともと婚約のお話が何をおいても最優先であることは幼い頃から決められていましたから」

「……それは、何というか、まあ……ありがたい話だけど、それじゃあ今まで色々我慢してきたんじゃないの?一応、この話は断ることもできたと思うんだけど……」

「そのようですが、その事を知ったのは、フランツ様が領地にお見えになった時で、私はお相手も条件も一切知らされていませんでしたし……」


そこで、アリシアはフィリウスに簡単な経緯を説明することにした。

王都上級学校の休み中に国王からもらった手紙によって領地に呼び戻されたこと、その後を追うかのようにフランツが領地に来て父親と話しをつけていて相手を知ったのはほぼ決まった後だったこと、断る選択肢を与えられたが断らなかったことなどである。


「それもまた……歴史に残るひどいやり方だと思うなあ。断る余地がないじゃない」

「でも……それしか方法がなかったのでは?」


自分が夜会などに参加していなかったことが原因で、正式な顔合わせを遅らせてしまったことに関して、アリシアは少し罪悪感を持っていたため、フランツをかばう発言をした。

フィリウスは少し考えるように口元に手をやったが、すぐに離して言った。


「領主のところに王族の、しかも本人が自ら足を運んで、お嬢さんを僕にくださいって言うのは、無言の圧力じゃない。クレメンテも可哀想に」


フィリウスの口から父親の名前が出たことにアリシアは驚いた。


「父をご存知なのですか?」

「ん?もちろん知ってるよ?……ああ、でも、執務室にしか寄らないし人払いしちゃうから、会ってることを知らないのは当然だね。各領地、そんな感じでふらっと立ち寄らせてもらってるんだ。抜き打ちも兼ねてね」

「そうでしたか……」


アリシアは領地内でフィリウスを見たことはなかったし、王族が尋ねてきたという話も聞いたことはなかった。

家に宿泊したわけではないので、本当に人の少ない時間、家族や臣下の目が少ない時間に尋ねてきていたのだろう。


「フランツが彼をやり込めるだけの交渉力を身に付けたというなら喜ぶべきなんだろうけど、今回の件は偶然に依るところが大きいような気がするんだよね」


フィリウスはアリシアの話を聞いて、今回の婚約がフランツの暴走であるということに確信をもった。

結果的に彼女も前向きに受け止めてくれているからいいものの、もしこの婚約が強制されたものであったら、少なくとも彼女にとって不幸なものになるだろう。


「交渉、ですか?」


アリシアは、もともと決まっていた話だと言われていたため、交渉が行われたことすら考えたこともなかった。


「フランツがアリシアを自分の婚約者として認めさせるのに、何も取り交わししないなんてことはないよ。少なくとも承諾書類は作ったはずだ」

「それは、事務的なものなのでは……?」


自分が生まれた時からの決定事項だったのだから、サインをすれば終わりというものではないのかとアリシアは思っていた。


「一応、この国は人身売買とかダメなんだけどなぁ……。その考え方だと、アリシアは王族に依頼されて事務的に売られたのと同じじゃないか。それに、たとえ相手が王族でも、そんな事務的に自分の娘を売り渡すような人間じゃないよ、クレメンテも」

「そう……ですか……」


アリシアは返事をしながらも、胸の奥ではフィリウスの発言を肯定できずにいた。

フィリウスがアリシアの言葉の機微を見落とすことはなかったが、あえて気がつかない様子で続けた。

フィリウスが彼らの生活のすべてを知っているわけではないのだ。


「何かあったらいつでも相談しにおいで。とはいっても、あんまりここにはいないから、頼りにはならないかもしれないけどさ」

「はい、ありがとうございます」


アリシアはそう言って頭を下げると、バケツを持ちあげた。


「そろそろ執務のお手伝いに行かなければなりませんので、失礼いたします」

「うん。フランツのこと、お願いね」


アリシアはもう一度頭を深く下げて、その場を辞した。

そして、感情の整理がつかないままバケツを庭の片隅に戻して執務室に向かうのだった。

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