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溺愛王子の許嫁  作者: まくのゆうき


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聴取結果の報告

「アレク、どうだった」


お茶会の翌朝、フランツは早速アレクから話を聞くことにした。


「フランツ様……、言いにくいのですが……」

「なんだ?」

「マリーが大変ご立腹で……」


アレクは伝え方に迷いつつも、これから話すことはマリーに言われたことだと強調するため、ワンクッション挟むことにした。


「だろうな」


アレクがマリーの名前を出した瞬間、フランツからはそっけない返事が戻ってきた。

フランツからすれば想定内ということなのだろう。

アレクはそれとなくフランツからも話を聞くことにした。


「どうされるおつもりですか?」

「そうだな……。マリー嬢が怒るようなことであるということは、彼らには何かしらの処分を下してもよさそうだな」


フランツはどうやら、マリーの反応を見て処分を決めようとしていたようである。

実はフランツと一般貴族の感覚は時々ずれているところがある。

それは正に今アリシアが王妃教育で学んでいる王族としてのあり方を体現した姿ではあるが、少し偏っているところもある。


「いや、あなたの話を聞いていても充分処分に値しますけど……」

「そうなのか?正直なところ、アリシアのことになるとどうしても彼女を優遇するような方向に話を持っていきたくなってしまうのでね。私情を挟むのはよくない気がしてな」


アレクは、フランツの私情を挟んだ処置というものに興味が湧いたが、それを押し殺して言った。


「それは私情、なのでしょうか……」

「一般的な貴族の結婚とは異なるということだな。強い権力や権限がある分、家族に対しても常に中立で正しい判断をしなければならないのが王族の立場なんだ」


これではマリーが心配になるのもうなずける。

そして、マリーの会話から本質を見抜く能力の高さに、改めて驚かされる。

アレクから見ても、確かにフランツがアリシアをかばっている様子がない。

フランツの話を聞いていると、彼女が将来的に自分の家族になるということに囚われすぎて、まだ、ただの婚約者であり、彼女自身もただの貴族令嬢の一人であるという視点が完全に抜け落ちているのだ。

アレクはフランツから、きちんと考えを聞いていなかったことを反省した。

マリーのためというだけではなく、アリシアのためにも、キチンと話をしなければならないようだ。


「あなたの中立は、アリシア嬢に不自由を強いて、嫌がらせを我慢させることですか?いくら彼女が今後王族の人間になるとはいえ、それは相手の貴族を立てすぎですよ」


アレクの言葉にフランツは少し悩み始めた。

確かにアリシアが王族として活動するのは、現時点から見れば今後のことだろう。

しかし、いずれは同じ考えで行動するようになるのだから、今、自分の考えている通り行動しても、現在王妃教育を受けているアリシアは理解してくれるに違いない。

そして、アリシアが何も言わないのは、その判断の難しさを知っているからに違いないと、フランツは思っていた。


「そうだろうか……」

「婚約解消とかにならないといいですね……」

「物騒なことを言わないでくれよ……」


アレクは同じことを自分がマリーにしたら、婚約は破談になると思うということを付け加えた。

貴族の結婚は義務であるとはいえ、相手を大事にしなくていいというわけではない。


「ようやく歩み寄れそうなんだ。君たちみたいに長い年月を二人で積み上げてきたわけじゃない」


アレクとマリーはアレクが上級学校に進学するタイミングで顔を合わせている。

家同士の行き来が多いこともあり、彼らはそれからというもの交流を深めて今の仲になっていた。

二人は長い付き合いの中で兄妹のような信頼関係を維持しつつ、年相応に婚約者としての役割を果たすことができている。

そんな二人を、フランツはずっとうらやましいと感じていた。

早く出会わなければ、早く婚約をしてしまわねば、良好な関係を築くためにも、できるだけ彼女のことを知らなければと、彼らを見るたびに焦りを感じることも多かった。

やっと少しずつ彼女と交流する機会が増えた今、ここで彼女との亀裂を生むわけにはいかない。


「僕の方が明らかに彼女への思いが強いのはわかっている。アリシアは相手が僕だと知ったのが婚約の直前だったんだ。ずっと知っていて、彼女の動向を報告させて、早く会いたいと願っていたのは僕だけなんだ。温度差があるのは仕方がないと思っている。だからこそ、彼女にはこれ以上の負担をかけたくないし、彼女の意見を尊重したい」

「それでは、アリシア嬢とは話をしたことがあるのですね?」

「いいや。この件に関して何も言わないことも、彼女なりの主張だと思うんだ」

「でも、それでは……」

「聞いたうちに入らないと言いたいんだよね?でも、全く触れなかったわけでもないんだ。少なくともアリシアには、僕が彼らがいないことに気が付いていると悟らせるくらいには話を振ったからね。それでも彼女は何も言わなかったんだ」


フランツはアリシアにとって人がいない方が都合がよいということを知っているが、アレクにそれを伝えることはできない。

アリシアが妖精たちと過ごす時間というものをとても大事にしていることを知っているフランツは、それを邪魔する人間という存在にはあまり長くいてほしくないだろうと思っている。

だが、王族として人をつけないという選択肢は存在しないのである。

今回のような嫌がらせは論外だが、彼女の憩いの時間を邪魔するようなことはしたくない。

アリシアが自分のことは自分でできるから大丈夫だと言っているということにしておかなければならないのだ。

そんなことを考えていると、アレクから突然申し出があった。


「わかりました……。それでは相談ですが、一度、私がアリシア嬢とお話しさせてもらうことはできませんか?」

「アレクが、アリシアと?」

「はい。意見をするなら実際に本人から話を聞いてからの方がいいと思いまして」


マリーもフランツも信用していないわけではないが、アリシアから話を聞いて判断をしたいとアレクは思った。


「いいだろう。ここを使えばいい。話をしている間、僕は席を外す。代りに僕の侍女を一人つけるからね。何もないとは分かっているが彼女の醜聞につながる行為は避けておきたい」

「わかりました。ありがとうございます」


こうしてアリシアとアレクは初めて二人で話す機会を持つことになるのだった。



アリシアは緊急の話があると、フランツの執務室に呼ばれた。

王妃教育の最中だったアリシアをフランツが自ら迎えに来たのである。

フランツは講師に授業を終わらせるようにいい、きりの良いところで彼女を連れだした。

執務室に到着すると、フランツに座るよう促されたので、アリシアはおとなしく従った。


「フランツ様……、お話というのは……?」


自分に座るように言いながら、立ったままのフランツに戸惑いながらアリシアは聞いた。


「ああ、実はアレクがどうしてもアリシアと話をしたいと言うのでここに来てもらったんだ。でも、アレクが呼び出すのはよくないから僕が迎えに行ったんだ。あまり人に聞かれていい話ではないのでここにした。……これから僕は席を外すけど、侍女には同席してもらうけど、彼女は信用して大丈夫だから」


慈愛の笑みを浮かべてアリシアを安心させると、フランツはそのまま執務室から出ていった。



こうして彼がいなくなった後、侍女に用意されたお茶を前に、アレクと対面で話をすることになったアリシアだったが、不思議と緊張することはなかった。


「そういえば、アレク様とこのようにお話しするのは初めてのような気がします」

「そうですね」

「あの……マリーは……」

「元気にしてますよ」


先日会ったばかりで、そんな話をしたいわけではない。

アリシアは用件を切り出した。


「ではなくて……。マリーはアレク様に色々お話されたのではないですか?」

「まあ、そうですね」


彼女はすべてを悟っているのではないかとアレクは感じた。

マリーが言っていたことが事実なのか、アリシアは本当に気にしていないのか、確認したいことはそれだけである。


「マリーにも言いましたけど、私は気にしていませんから……。むしろ、一人の方が落ち着くので、このままでいいのです。彼らも私も納得できる形だと思っていますから」


自分がされている行為には一切触れず、アリシアはアレクの求めている回答を一言で述べた。

事実、そのようなことはあった。

でも、本人は気にしていないというのも本当である。

具体的に話さないことで、言質を取らせることはしない。

つまり彼らの行為を不問にする、というのが、アリシアの判断なのだとアレクは察した。

そして、彼女の器の大きさにも、頭の回転の速さにも驚かされた。


「いや、すごいですね」


思わず言葉が漏れた。


「すごい……ですか?」


アリシアは首を傾げてアレクを見ていた。


「ええ、本当にすごいですよ。たくましいというか、強い心の持ち主なのですね」


アレクは尊敬の念をもって彼女に言った。

同時に、フランツの相手がこのような女性で本当によかったと安堵するのだった。



結局フランツは、今回の件に関わっていたすべての人間を入れ替えるという決断を下した。

もともと彼らはアリシアとほとんど接触していなかったのだから、担当が変わったと伝えればアリシアも納得するだろうし、慣れた人間を引き離すわけではないのでスムーズに話は進むだろうと考えたのである。

また、彼らの息のかかった人間が入れば似たようなことが起こるかもしれないが、その頃には彼女も王族の一員になっているはずだ。

今後、彼らがそのような不敬を働けば罰することもできる。

今度は人選を間違えないようにしなければと、フランツは気を引き締めて新しい人選に取りかかるのだった。

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