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溺愛王子の許嫁  作者: まくのゆうき


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王宮という名の檻

アリシアを追いかけて初代の墓に訪ねた翌日。

少し寝不足の状態でフランツは執務を行っていた。


「アレク、ちょっと相談がある」

「珍しいですね、フランツ様から相談なんて」


アレクと二人になったのを見計らって、フランツは切り出した。


「まあ、なんだ、プライベートな話でもあり、王宮内の話でもあるんだが……」

「ああ、アリシア嬢のことですか?」

「その通りだ」


相談することではないと思っていたが、さすがに夜中ふらふらと庭に足を運んでしまうアリシアには寝ずの番をする侍女か護衛をつけたいとフランツは考えていた。

アリシアからすれば妖精たちとの交流の妨げになるので迷惑な話なのだが、本来であれば必要なものである。

その環境に慣れてもらわなければならないし、そのためにここに住んでもらっているはずなのだ。


「教育係の評判はすこぶる高いですよ?マナーも知識も申し分ないとか。殿下と婚約してさえいなければ、自分の助手にしたいとか言っている人もいるとか」

「ああ、アリシアにはたぶん問題ないんだ……」

「じゃあ、どうされたのですか?」


いつ人が入ってくるかわからない執務室で、仕事中という立場をわきまえてアレクは言葉づかいを崩さずに答えた。

フランツはため息をついて、続きを話した。


「王宮に来てから、彼女に何かと不自由を強いてしまっているんだけど、対処に困ってる」

「人をつけたら解決するんじゃないですか?」

「それが……どうにも彼らは彼女を受け入れてくれていないらしくて、僕に進言してくるわけではないんだが、アリシアには何かと……」


フランツはアリシアにつけている者たちが集団ボイコットしている件を伝えた。


「そんなことになっていましたか……」

「当の本人が、それを構わないと思っているらしくて、彼女からも聞き出すのが難しいんだ」


フランツはなんとなく原因を察していた。

アリシアにつけている侍女は、行儀見習いに来ている貴族令嬢である。

普段の仕事ぶりから判断し、アリシアの格に合わせて選んだので、爵位としてはほぼ同格、もしくは少し下となる女性だ。

他にも何人か人をつけていたが、皆、この女性の指示に従うことになっている。

初めて責任のある仕事を任せたのだが、彼女は何か勘違いしているらしい。


「おそらくは……妬みと嫉妬ですね」


アレクはぽつりと言った。

フランツは権力を与えられた彼女が勘違いをして、その権力をいじめに使っていると思っているようだが、おそらくそうではないとアレクは思った。

行儀見習いに上がる女性は、家のことを学ぶために来るということになっているが、そこで良い結婚相手を探す人も多い。

そして、アリシアと同格の彼女は、おそらくフランツを狙っていたのだろう。

だから彼に近づくため、評価を上げる努力をしていたし、結果、フランツの目に止まることになったのだ。

彼女の誤算は自分がフランツの婚約者の面倒をみることになったということだろう。

自分が夢に見た席に座る女性の世話をするなど、プライドの高い貴族令嬢にできることではない。

そして、同じ貴族令嬢なら世話をされなければ何もできず、すぐに嫌になって出ていくだろうとでも考えたのではないか。


「妬みと嫉妬か……。確かにアリシアは美しい人だからね」


アレクは自分との認識の違いを察していたが、この言葉でそれは確信に変わった。

本人は森の辺境領から戻ってからアリシア一筋になってしまって、周囲の女性が見えていないことをアレクは知っている。

慈愛の笑みは、鍛えられた穏やかな口調と共にフランツの武器ではあるが、女性の心を惑わすことも多い。

フランツが向ける笑みを仮面だと見抜く人間はそこそこいるが、その笑みの破壊力は本人が思うより大きい。

翻弄されずに冷静に分析できるマリーの方が異例なのである。


「お言葉ですがフランツ様。そういうことではないかと……」


アレクの言葉の意味をあまり理解できないと首を傾げながらフランツは言った。


「まあ、とにかくだ、一度受け入れた令嬢やらその下で仕事をしていない者たちをどうするか考えなければならないんだ。そのためにもアリシアから話を聞きたいんだが……」

「なるほど。マリーに力を借りたいということですか」


フランツはようやく本題に入った。

アレクに話したのはマリーの力を借りるためである。

上級学校で親しくしていたアレクの婚約者であるマリーに、一度アリシアと話をしてもらいたいと考えたのだ。

気心の知れた友人になら、自分の思いを話すかもしれない。

できれば、彼女たちの信頼が壊れないレベルでいいのでその情報を分けてほしいというのがフランツの意向である。


「申し訳ないが、力になってもらいたい」

「わかりました。マリーには話しておきます。久々に会えると聞いたら喜ぶと思いますよ」

「そう思ってくれるならありがたいよ。周りの扱いをアリシアがどう感じているのか、他に不自由なことはないのか、他にも欲しいものとか、色々聞き出して教えてくれると助かる」

「伝えておきます」


そろそろ使いを頼んだ者が戻ってくる時間のため、二人は話を一度切った。



「フランツ様……。アリシア嬢のことなんですが……、王宮に来てから、彼女は外の方々と交流されていますか?」


アレクはふと思ったことを口にした。


「いや、してないな」


フランツははっきりと答えた。

それは昨日のアリシアの話にもあったことだ。


「それは、きついでしょうね……」

「ああ、そうならないよう人をつけたつもりだったんだけどな。失敗したよ。僕の油断が招いたことだ。昨日知ったんだ、手紙一つ出すことができない状態だと……」

「なかなか……苦戦しているようですね」

「ああ。だから、頼む」


フランツはマリーへの依頼について念を押した。


「これは、私からの助言ですが……」

「なんだ?」

「アリシア嬢と一緒に出かけられてみてはどうでしょう?確かに最近は仕事が詰まっていますが、もし、その気があるなら時間くらいは捻出しますから」

「そうだな……。本当はアリシアの王妃教育が落ち着いてからと思ったんだけど……」


アリシアは、猫を被っているわけではないが、人間の前では非常におとなしい。

控えめな発言や、うつむきがちな仕草や見た目も相まって、深窓の令嬢と言われたら誰もが信じてしまうレベルである。

しかし本来のアリシアはそうではない。

話す相手がいないから話さない、貴族としてもマナーが身に付いているから所作が美しいというだけで、妖精たちとは楽しく話をするし、行動に制限がなければ森の奥深くまで入っていくし、一人で馬に乗って丸一日移動することもできるようなアクティブさも持っている。

今はそんな彼女を王宮という檻に閉じ込めてしまっている状態だ。


「いいかもしれない」


今いる環境を変えられないのなら、息抜きに彼女を違う環境に連れ出せばいいのだ。

彼女と二人なら乗馬を楽しみながら王都を少し離れた場所に出かけることができるだろう。


「アレク。そっちの方も頼む。すぐではなくていいから」

「かしこまりました」


こうしてフランツは今できることを一つずつ進めていくことにしたのだった。

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