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溺愛王子の許嫁  作者: まくのゆうき


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バラの妖精の願い

バラの妖精から夜の庭へのお誘いを受けてからというもの、妖精はアリシアのところに毎日のように訪れるようになっていた。

時間もフランツとの夕食を済ませ、部屋で一人になったタイミングが多く、アリシアにとっては夕食後の憩いのひとときとして日常の一部となりつつあった。

バラの妖精とアリシアは、寄宿舎にいた時のマリーのような存在で、アリシアとは他愛もないことを何となく話すような関係を築いていた。


王宮に来てから、話し相手がいなかったアリシアにとって、バラの妖精の存在は大きかった。

人間には話せない森の家族の話もでき、妖精からは王宮の昔話や、まだ会ったことのない妖精たちの存在を教えてもらう。

王宮の昔話は王妃教育の中で聞くような本に残された史実ではなく、何代前の王様が、お妃さまがという話が多いので、とても親しみやすい。

この話を聞いてから改めて歴史をひも解いてみると、彼らの名前や功績が頭に入りやすかった。

それに、時々庭に案内される国内外の要人の話なども面白い。

彼らもまさか話を花の影から聞かれているとは思っていないのだろう。

国の根幹に関わるようなことから、プライベートなことまで、その人がどんな話をしていたのかを世間話をするかのように教えてくれる。

アリシアにとってこの眠る前のひと時が、王宮のことを知る貴重な機会であり、自分の心のバランスを取り戻すために大切な時間だったのである。



そんな交流が続いたある日、バラの妖精からアリシアはお願いをされた。


「あのね、実はお願いがあるの」

「何かしら?」

「今夜、どうしてもついてきてほしいところがあるのよ」


また急なお誘いである。

以前、庭に出た時はフランツがわざわざ迎えに来てしまった。

できれば同じ軽率な行動と思われることを避けたい。


「大丈夫よ。廊下には誰もいなかったし、第二王子も休んでいるわ」


アリシアが気にしていることはすでに調べているらしく、どうしてもアリシアを外に連れ出したいということが分かった。


「今でなくてはダメなの?」


アリシアは念のため、今である理由を確認することにした。

庭に行くならお昼の方が心配をかけずにすむ。

とはいえ、おそらく今がいいのだろうと感じていたアリシアは、そういいながらも身支度をすることを考えていた。


「今日がいいの。私たちはあまり気にしないけど、人間は日にちを気にするって聞いたことがあるもの」


やはり今がいいということらしい。

そして、その今、というのは今日中ということのようだ。

日付が変わる前に何かを見せたいのだろう。


「そう……わかったわ」


アリシアは立ちあがると、妖精に聞いた。


「どうすればいいのかしら?」


妖精は庭に案内した時と同じように肩の上に座る。


「道案内はするわ。人がいる時も教えるわね。まずは前と同じ道を通って庭に行ってほしいの。そこに必要なものがあるのよ。あ、灯りは持ってった方がいいわ。庭から先は暗いから」


アリシアは妖精に言われるがまま、ランプを持って前回と同じ経路で庭に向かった。

幸い、誰にも出会うことなくアリシアたちは庭にたどり着くことができた。


「あのね、バラの花を持っていきたいの」


妖精はここにあるバラの枝を手折ってほしいという。


「切るものがないと難しいわ。手で切るには固くて怪我をするかもしれないし、力を入れてしまったら花が散ってしまうもの」


アリシアが難しいと伝えると、


「じゃあ。花の部分だけでいいわ。私が取ってほしい花を教えるからそれを摘んでいってちょうだい」


バラを枝から切ることはできないが、花を付け根から形を崩さないように摘むことならできる。

アリシアはランプを地面に置くと、バラの花が散らないよう、丁寧に摘み取って片腕の中に抱えるように乗せていった。



アリシアは妖精に指示されるまま、花を採取していた。

すっかりと花を摘むことに夢中になっていたが、目的が分からない。


「ねえ、どのくらい必要なの?だいぶ摘んだけれど、どうかしら?」


腕から落ちない程度の量になったところで、一度妖精に見せた。


「いいんじゃないかしら?良く考えたら、あそこは花瓶なんてないんだから、周りを飾るならこれで充分だわ」


花の量を確認した妖精は満足したように言った。


「いつもはね、一つか二つしか持っていくことができないの。私たちでは取るのも難しいし……。でも、アリシアのおかげで今日はたくさんの花を見せてあげられるわ。喜んでくれるかな」


花を腕に抱えたまま、少し庭の片隅で休憩を申し出たアリシアに妖精は話しかけた。

アリシアは花が風で飛ばないよう抱えたまま、庭に設置されたままになっているテーブルセットの椅子に腰をかけていた。

籠などがあればその中に花を入れて、テーブルに置いておくこともできたのだが、誘われるままに来てしまったため、そのようなものは何も持っていなかったのだ。

妖精は、たくさんの摘まれた花を見て、いつもより嬉しそうにしている。


「この花を見せたい人がいるの?遅い時間になってしまうけど休んでしまっていないかしら?」


花の形や大きさを競って咲くことを誇りにしている妖精が、その花を見せたいというのだ。

茎が残っていない状態なので、水につけて翌日に見せるというのは難しい。

積んだ花も、水のない状態ではそう長くきれいな状態を維持できないだろう。

せっかく集めたのにきれいなまま見てもらえないのは残念に違いない。


「それなら心配ないわ。私たちはあまり時間とか関係ないから」

「そうなの……。よっぽどその人のことが大切なのね」

「ええ。人間にとってはもう関係のないものなのかもしれないけど、私たちにとってはこの場所を与えてくれた大切な人なの」


バラの妖精たちは王宮の庭をとても愛しているという。

人は変わっても大切な庭を手入れしてくれるのは専門家で、常にきれいな形で外から見えるよう維持してくれることをとても喜んでいた。

庭師からすれば仕事をしているだけなのだろうが、丁寧に接してくれる彼らのことも妖精たちは好きで、彼らも花をきれいに咲かせると喜んでくれるから頑張っているという話を聞いていた。


「大切な花をこんなに摘み取ってしまって、庭師の方は驚かないかしら?」


一見わからないが、プロの目から見たら花の数が減っていることに気が付くに違いない。

しかも採集したのはアリシアで、切り口がきれいとは言えない。


「大丈夫よ。ちょっと花が多かったし、ちょうどいいくらいだわ。これからつぼみが花を咲かせるのに、咲いた花が長くあると栄養が回らなくて、なかなか咲くことができないわ。そうなると、咲く前につぼみの状態で落ちてしまうのよ。専門家は時々来て花を取ってくれるから、この庭はバラが常に咲いている状態でいられるの。それに、そもそも自分たちによくない場所の花を取るようにお願いしたりしないわ」


庭師よりも彼らの方が専門である。

アリシアは少なくとも採集した花や、自分が切った部分によってバラの生育に影響がないと聞いて安心した。

話をしているとさらに時間が経ってしまう。


「もう充分休めたわ。このまま話していたら夜中になってしまいそうだし、そろそろ出発した方がいいかしら?花も枯れてしまったら悲しいわ」

「そうね。そろそろ移動しましょう。着いてからもお話するんだし。そっちの方がメインだもの」


話がまとまったところで、アリシアは移動するための準備をして立ち上がった。



「ねぇ、私はどこに案内されるの?暗いところだって言ってたけど……」


アリシアは体勢を立て直したところで、花とランプを持った。

そして両手がふさがった状態で妖精に確認をした。

妖精が何をしたいのか、どこに行きたいのか、何のために花が必要なのか分からないままなのだ。


「すぐ着くわ。わかりにくいところだけど、庭のすぐそばにあるから」


妖精はアリシアの肩に乗ることもなく、目の届く位置をふわふわと飛び始めた。

アリシアは妖精を見失わないよう、距離を維持しながら、摘み取った花が腕から落ちないスピードでついていくことになるのだった。

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