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溺愛王子の許嫁  作者: まくのゆうき


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庭を愛でる夜の花

フランツは夕食後アリシアを部屋まで見送ると、執務室にいた。

夜遅くまで仕事をすることになっているのは、アリシアが来たからというわけではなく、単に急ぎの案件が多いというだけである。

しばらく机にかじりついていたため、目を休めようと顔をあげて外を見ると、庭を歩いている人影が見えた。

目の錯覚かと思ったが、どう見ても庭を人が動いているように見える。


「エル、見てきてくれ」

「ん?」


突然言われたエルは、何のことかわからないといったように首を傾けた。


「庭に何かいる。人みたいだ。エルなら気付かれることなく見てこられるだろう?」

「あー、そういうことねー」


窓から外を覗き込んでフランツの視線の先を追ったエルは納得したように言った。


「ちょっと見てくるよー」


覗き込んでいた窓から、そのままふわりと飛び出してエルは、静かに動く影に向かって行った。

フランツはエルが戻ってくるまで仕事を進めようと、再び机に向かうのだった。



「ただいまー」


しばらくしてエルが戻ってくると、フランツはすぐに状況を確認した。


「どうだった」

「いや、それがさー。あれ、アリシアだったよ。不審者じゃなくてよかったな」


エルは何でもないことのように言った。


「彼女は一人で外にいるのか?」


夜中に若い女性が一人で外を出歩くなどあってはならない。

本来なら王宮内でも護衛なり侍女なりが付き添うべきだ。

滅多に侵入者など入り込むことはないが、もしものこともある。


「うーん。まあ、人間は一人だな。妖精がついてるから危険はないんじゃないかなー」


そんな不安を察したのか、エルはフランツを安心させるように言った。


「妖精が何かするってことは……、エルが大丈夫だって言うなら悪いものではないか」

「あー、あれ、バラの妖精だからな。お茶会で見られてるのに気がついたみたいだから、遊びにでも誘ったんじゃないか?人間の目にはつかない方がいいんだろ?」

「まあ……そうだな」


妖精はアリシアと交流するために、人間の目につかない時間に呼び出したらしい。

人目の少ない今の時間がアリシアにも妖精にも都合がいいということだ。

一応、自分を納得させたフランツは一度は執務に戻ろうとした。

エルが危険はないと言っているのだから大丈夫なのだろう。

おそらく周りに他の人間や動物がいる様子もなかったということだ。

しかし胸の奥にはざわついた感情が残っていて、思うように集中できそうになかった。



「どうしたんだ?」


机の端に座って足をぶらぶらしていたエルは、急に立ち上がったフランツをチラリとみた。


「迎えに行くよ。何かあったら困るからね」


妖精という味方がいるとはいえ、気になり出したら仕事が手につかない。

過保護と言われようが、わがままだと言われようが構わない。


「楽しそうだったから、邪魔したくないけど、仕方ないよなー」


フランツのそわそわした様子を見ながらエルは机から離れて彼と向かい合わせになる位置に移動した。


「彼女には味方が少ないからね。彼らが味方してくれるのはありがたいよ」

「その分、厄介なのにも好かれてる気がするけど、まー、アリシアには害はなさそうだからいいのか」

「今はいい。彼女が何かに巻き込まれそうなら教えてくれると助かる」

「うーん。巻き込まれてからしかわからないかな。人間みたいに綿密な計画とか下準備とかあんましないからね。調べたところでどうなるかわからないんだよ。まあ、何かあったら教えるよ」


話をしながら書類を手早く整えたフランツが部屋から出ていくのを、エルはやれやれといった風に追いかけるのだった。



庭に着くと、アリシアが何やら楽しそうに妖精と話しているのが見えた。

彼らにはまだ気付かれていないようなので、少し離れたところから様子をうかがうことにする。

どうやら妖精が庭の花のことを説明しているようで、楽しそうに話す妖精に笑みを浮かべながら答えるアリシアの姿がそこにはあった。

アリシアはフランツに対して、引いた対応をするところが度々見られるが、今の彼女にはそのようなものが感じられなかった。

対等に話せる彼らに嫉妬に似た感情を持ちながら、その交流を邪魔するように彼女に皮肉めいた言葉をかけてしまった。

心配と嫉妬と寂しさの入り混じった表情だったに違いないとフランツは思っていたが、それを隠すことはできなかった。


そして、振り返ったアリシアの近くにある形のよいバラに、顔を近づけるフリをしながら、葉の裏の様子を探った。

葉の裏の様子をうかがってみると、さらに奥にある花や葉が時々揺れて、隙間にそれらしいものがいることがわかった。

妖精たちは見つからないように必死だったり、隠れきれていなくて見えていたり、隠れ方も色々だ。

一応、近づいてきた人間がいるから隠れる方がいいという程度で、普段は人間から見えていないと思っているのだから、気にしてすらいないのかもしれない。


あまり長くこの体勢でいるのは不自然だ。

フランツは何とか誤魔化して顔をあげると、アリシアに戻るように促した。

その時に彼女が自分の差し出した手を取ってくれたことが救いだった。

彼女がバラの様子を気にしながら歩いているところをみると、自分が来たことで話が中断したことは間違いなさそうだ。

フランツはエルから話を聞いていただけで、実際に彼女が妖精たちと意思疎通を取っているところを見たのは初めてだった。

辺境領で見たのは鳥や動物に守られている姿ではあったが、彼らは妖精ではなかったし、自分も当時は指輪を持っていなかったから、妖精がその場にいたのかは分からない。

そして彼女が、自分にそのことを知られないようにしているということに複雑なものを感じるのだった。



アリシアを部屋に送り、フランツは再び執務室に戻った。

やりかけの仕事を片付けるためだ。


「エル、いるか?」

「ん?いるよ?」


アリシアには知られないようにと身を隠していたエルが再び姿を現した。

エルは姿を消せるわけではなく、器用にフランツの後ろや物陰に隠れてくっついて移動していることが多い。

エルが自分を見せないようにしている時はフランツにも見えないため、声をかけて見えるところに移動してもらったのだ。


「王宮の庭には、あんなに妖精がいたのか?」

「あー、あんなにってほどじゃないけど、昔からいるよ。代替わりはしてるんじゃないかなー」

「そうか」


フランツは目を伏せた。


「どうした?」

「いや、僕は長くここに住んでいて、今まで彼らの存在に気がつかなかったんだなと思ったんだ」

「指輪を継承するまで見えなかったんだから、仕方ないんじゃないのか?」


妖精からすれば、人間に自分たちが見えないことが普通だと思っているので気にしていないという。


「この力を持って五年だよ?五年も気がつかないなんて、僕はこの王宮の中の何を見ていたのかなって。他にも見落としているものがたくさんある気がしているよ」


兄の代わりに執務を代行し、多くの行事にも出席してきた。

それは王族の義務でもあるが、同時にフランツの自信にもなっていた。

多くの人と関わり、書類上とはいえ多くの情報を得ることで、この国のことを広く知った気になっていたのだ。


「アリシアのこともそうだ。言われなければ侍女たちの態度にすら気がつかないなんて、本当に情けなくなる」

「そうだなー。人間は都合の悪いことを隠すから仕方ないんじゃないのか?しかも一番バレたくないヤツの一人なんだ。より見つけにくいのさ」

「それでも、その上をいかないと足元を掬われるのも自分たちなんだけどな」


広い知識を持っていると自負していたのに、一番身近である王宮の中のことにも目が届いていなかったというだけで情けなかった。

しかも妖精は自分ではなく、ここに来たばかりのアリシアに声をかけていた。


「まあ、今まで言わなかったけどさ、昔なんか普通にスパイとか遠方の王族に伝達でお使いとかさせられてたよ。フランツは人が良すぎるからな。人間のことも探れって言われたら探るから遠慮するなよ。なんなら、アリシアの周辺も見てきてやろうか?」


現状を自分で把握するのが難しい以上、エルに依頼するのが一番無難だ。


「頼めるか?」

「そうだな、王宮内の人間関係くらいは調べておくよ。じゃあ、ちょっと出てくるー」


エルは話が終わるとフランツから離れて窓から部屋を出ていった。

エルを見送ってから、結局自分では何もできないのかと暗い感情を抱きながら、フランツは執務を続けるのだった。

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